心地よい開放感をたたえたソングライティング、生楽器の響きをしっかりと活かした、奥行きのあるサウンドメイク。
LOVE PSYCHEDELICOの5thアルバム
『ABBOT KINNEY』はロック・ミュージックの豊かさをたっぷりと享受できる作品となった。ロサンゼルスに実際に存在するストリート名をタイトルに冠したこのアルバムについて、KUMIとNAOKIに聞く。
――『ABBOT KINNEY』を聴いて思い浮かべたのは、“acoustic(音響/生楽器)”という言葉でした。ギター、マンドリン、ウクレレなどの生楽器がふんだんに使われていることもありますが、とにかく音響的に優れたアルバムだな、と。
NAOKI「嬉しいね、それは」
KUMI「うん。音質は一番こだわってた部分だから」
NAOKI「KUMIは最初からアコースティックっていう言葉を使ってたよね。たとえば〈Shadow behind〉みたいなハードな曲でも……」
KUMI「聴いてて痛くないっていうか。私たちにとってのいい音を追求した感じ」
NAOKI「しかも、自分たちのやり方で世界標準の音を超えないと意味ないと思ってて。実際、ほとんど自分たちで録ってるからね。打ち込みに使う素材も、マイクを立てるところから始めて」
――効率を優先しない、ということでもある?
KUMI「あ、それはそうだね」
NAOKI「もしかしたら遠回りかもしれないけどさ、その過程でいろんなマジックが起こってると思うんだよ。“普通、そのマイクはそんな使い方しないよ”とか(笑)。評判のいいプロデューサーと仕事する、みたいな発想がないんだよね」
KUMI「自分たちのなかに楽曲のイメージがあるからね。だったら、自分たちでやっちゃった方がいい」
NAOKI「マンドリンを入れたいと思うとするじゃない? 弾ける人を呼ぶのが一番早いんだけど、俺たちは自分で練習しちゃう(笑)。今回、KUMIはペダル・スティールまで弾いてるからね」
――アルバム全体の音質についても、はっきりしたイメージがあったんですか?
KUMI「うん、あった。前のアルバム(2007年リリースの4thアルバム
『GOLDEN GRAPEFRUIT』)のときは、新しい音を作りたいっていう挑戦があって。手癖だったり馴染みのある方法を排除して作ったというのかな。それはそれで満足できたんだけど、“次は一番リラックスできる音、好きな音に帰りたい”っていう気持ちになったんだよね」
――リラックスできる音って、ずっと変わらない?
KUMI「うん、やっぱりルーツってあるから。70年代のウエストコーストのサウンドだったり……」
NAOKI「レコーディングの前、サンタモニカに3ヵ月くらい滞在したのも大きいと思うよ」
NAOKI「最初はプロモーションのために行き来してたんだけど、夏くらいに“しばらく滞在してみようよ”ってことになって。まさに“アボット・キニー”ですよね」
――アーティスト同士のコミュニティが形成されてる地域なんですよね?
NAOKI「そうそう。ミュージシャンだけじゃなくて、いろんなアーティストがいて。すごく楽しいよ。ほぼ毎日のようにライヴ・ハウスに通って、いい演奏してるミュージシャンがいたら、“セッションしようぜ”って声かけて。すごく開放的で、日常的に音楽があって……そこからイマジネーションを受けたところはかなりあると思う」
KUMI「うん。温かみがあって」
――精神的な部分で、気持ちいい太陽をたっぷり浴びた感じがありますよね。2009年は世界的に大不況で、かなり暗い雰囲気だったんですが、そんなことはまったく感じられないっていう。
NAOKI「何て言うか、インプットとアウトプットを同じにしたくない、ってところがあるんだよね。“俺たちはなんて不遇なんだ”って吐き出す音楽も必要だと思うけど――
ブルース・スプリングスティーンみたいにね――俺たちは自分たちの音楽を聴いてくれる人に“ドライブしたい、外にいきたい”って気持ちになってほしいんだよね、どっちかっていうと。そういう時間をプレゼントできたら、もうそれでいい。俺たち自身、音楽をやってると“やっぱりこれだな”って気分になるし」
KUMI「そうだね。普段の生活のなかで迷ったり不安になることもあるけど、音を鳴らした瞬間、“これでいいんだ。何を悩んでたんだろう?”ってなっちゃう(笑)。このアルバムを作ってるときも、すごく楽しかったし」
NAOKI「だから、ぜんぜん理屈を乗っけてないアルバムなんだよね、今回は。ラブ&ピースとかフリーダムとか、そういう思いをなくしたわけではないけど、理屈を超えたところでグッとくるもんじゃない? 音楽って」
取材・文/森 朋之(2009年12月)