ロサンゼルスを拠点に活動するシンガー・ソングライターの
エミ・マイヤーは、基本的には英語で歌う人だが、セカンドとなる新作
『パスポート』は全曲日本語で歌われた新機軸のアルバムだ。日本語の美しい響きと、日本の歌謡曲的な哀愁のあるメロディ、ぎこちないものの情感のこもったヴォーカルとが相まって、懐かしさと鮮やかさが入り混じったような新感覚の作品に仕上がった。彼女が新しい世界を獲得すると同時に、女性シンガー・ソングライター百花繚乱の昨今において、その独自性を強烈に示してみせたアルバムといえるだろう。なおこのインタビューも、すべて日本語で答えてくれた。
──エミさんは母親が日本人で、日本で生まれているわけですが、幼い頃から日本語に接していたんですか? エミ・マイヤー(以下、同) 「そうですね。日本で生まれて、1歳の時にシアトルへ移って、それからずっと、母とは日本語で、父とは英語で話すのが一番自然だったんです」
──前作『キュリアス・クリーチャー』のボーナス・トラック「君に伝えたい」で、すで
に日本語で歌っていますね。そもそもこれを書いたのはどうして? 「(2009年4月に)『キュリアス・クリーチャー』を日本でリリースして、そのプロモーションで長く日本にいたし、日本語の歌詞を書くのもおもしろいかなと思って。日本にいて毎日、日本語で話していたから自然なことだったんです。それに日本語で歌ったほうが、日本のリスナーに伝えたいことがもっとよく伝わるかなと思って。それで日本語の曲にチャレンジしようと思ったんです」
──曲作りは今回、全面的に参加しているShing02と二人で行なったそうですが、どうやって進めていったんですか? 「会話から生まれたり、なにか見たり感じたりしたことから、二人で話し合って、だんだん歌詞ができていくという感じ。最初に二人で書いた〈君に伝えたい〉が形になったので、じゃあそのフォーマットでもっとやってみようか、というのがきっかけだったんです」
──メロディはマイナー・コードで、哀愁のある歌謡曲っぽいものが多いですよね。それは日本語の歌詞だからそうなったのかと思ったんですが。
「それはおもしろいですね。もしかして日本語だからそういうメロディになったのかもしれないし、二人で考えていたから前作とは違うメロディが生まれたということもあるかもしれません。どちらにせよマイナー系のほうに傾いているというのはあるかも。私はブルースとかルーツ・レゲエが好きだし」
──ヴォーカルは前作だとしゃべるような歌い方だったのが、今回はしっかり発声して歌い上げていて。これも変化していますね。
「作るプロセスとして歌詞が最初にあったから、歌に注目できた部分もありますし、ヴォーカリストとして経験を重ねた部分だとも思います。今回は何曲か作り終えた時点で、“ちょっと言葉数が多いから抜いてみよう”って話して、終わりの方ではシンプルなのを心がけて作っていきましたし」
──あとサウンド的には、ジャズを基本にしつつボサ・ノヴァやレゲエも取り入れていて、幅が広がっていますね。
「そうですね。その曲その曲で世界観があるし、歌詞の内容も大切にしてどういう曲にするかというのもあったし、単純にこういう曲をやってみたいというのもありました。だから、いろいろな、違う雰囲気の曲ができたんだと思います」
──では、今回すべて日本語でやってみて、得たものなどはありますか?
「私の日本語のボキャブラリーも、世界や考え方も広がったと思いますね。英語だけで歌っていた時のよさもあるけど、もう一つの言語で歌ったら、英語の曲を書く時にも影響があると思うし、表現が豊かになると思う」
──今後は英語に戻るのか、それとも日本語と英語のバイリンガルになるのか、どうなんでしょう?
「英語の曲も書き続けていますし、その英語アルバムの新作も実はもうできているんですよね。だから両方やっていきたいと思ってますよ。次の日本語アルバムのことも考えていますし、今までのようにやっていけたらなって思います」
取材・文/小山 守(2009年11月)