――カラーの違うミニ・アルバムを2ヵ月連続でリリースするのは面白いアイディアですね。
石毛 輝(vo、g、syn / 以下同) 「去年、メジャー・デビュー・アルバムの『DANCE FLOOR MONSTERS』を出して、次は対極的な2枚が出せたら面白いんじゃないかというところから始まったんです」
――『A.B.C.D. e.p.』のプロデュースをナカコー(iLL)さんに依頼したきっかけは? 「僕はナカコーさんがずっと大好きで、
スーパーカー時代のやり方に勝手に共感してたんです。ロックとダンス・ミュージックをミックスさせた音楽性はもちろん、洋楽との同時代感とか。スーパーカーや
くるりがあって、今の僕らの世代の音楽があると思っているので、オッケーしてくれてうれしかったです」
――『A.B.C.D. e.p.』は、全体的にエレポップ、ニューロマンティック的なサウンドですね。メロディアスで広がりを感じさせる「Re:Life」をはじめ、勢いでアゲるんじゃなくポップに聴かせてく感が出てるなと。
「こういうのをずっとやりたかったんです。前作『DANCE FLOOR MONSTERS』は、人によってはウザイくらいイケイケだったので(笑)、これもthe telephonesだよって前作へのカウンターも提示したくて。それに、活動初期はニューウェイヴ的な曲の方が多かったので、一周して戻って、それをナカコーさんと作れたのは楽しかったですね。あと今までと決定的に違うのは、ナカコーさんが持っているヴィンテージのアナログ・シンセを借りて、音の太さや空間の厚みがすごく出たこと。2作とも共通してポップなものにしようと思ったので、それは出てるかなって」
──これも2作に共通することですが、歌詞の世界観にリアルさと希望的感覚が同時に出ていて。言葉に対する思いは変わってきました?
「それはあります。訳詞をつけることで歌詞の責任感も出るし。僕らずっと色物っぽい活動をしてきたので(笑)、そろそろその色を本物の色にしていかないマズいなっていう中での選択肢のひとつとして、今回から訳詞をつけたんです。聴く人とノリで繋がるんじゃなく人間的に繋がりたいなって気持ちが芽生え始めましたね、やっと(笑)」
――ヴォーカルのバリエーションも増えましたよね。
「去年のツアーの頃から、ちょっとずつ歌うことの楽しさが分かってきたんです。高い声で叫ぶのが僕のヴォーカル・スタイルだと捉えられてきたけど、ちゃんと歌ってメロディを響かせたいって、歌に対する意識はすごく変わりました。だから高い声も、あまりキンキンに使わず聴かせるように歌ったし。あと、楽曲のBPMも僕らの中では下がったので、メロディや歌詞を大事に歌いたいなと思いましたね」
――では、『Oh My Telephones!!! e.p.』(写真左)をセルフ・プロデュースで作っていく上でこだわったところは? 「『A.B.C.D. e.p.』で、ナカコーさんにお願いしたのは、同じフィーリングのアーティストとコラボ感覚で作りたいということだったんです。それに対して、『Oh My Telephones!!! e.p.』は自分がミュージシャンとして今まで培ってきたものを試してみたくてセルフ・プロデュースにしたんです。あとは、あえて生楽器を使おうと。<Go!!!>ではハモンド・オルガンをレズリーで流して、鉄琴や木琴も自分で叩いて、ドラムの音もできるだけラフにしようと録りました」
――生音勝負は新鮮です。音楽的にいうと、こちらの方がロック度は高いですね。
「今までUKインディ系って言われてたけど、今の気持ちとしてはUSインディに寄せたいなと思っていて。
アーケイド・ファイヤーの延長にあるような、そういうサウンドを自分たちなりにどう作るかに一番苦労しました」
――あと、ライヴ・トラックがドンと入ってるし、「Hallelujah,Hallelujah,Hallelujah」(House Party Ver.)のリラックス感もいいなと(笑)。
「『A.B.C.D. e.p.』にはナカコーさんのリミックスを入れたので、真逆のアプローチを採るならライヴ音源がいいかなってシンプルな発想ですね。それと『DANCE FLOOR MONSTERS』から今回の曲の移り変わりも見てもらえるかなと。 それにしても<Hallelujah, Hallelujah, Hallelujah>はヒドいですね、途中で演奏間違えてますから(笑)。でも、普段のスタジオでの感じがパッケージされた気がするのでいいなと思ってます。僕らはそういうのもありなバンドだと思うので」
――今回の2枚で、ナカコーとセルフでのプロデュース、ライヴ音源にリミックスと幅広い形で、他のバンドがやらないことを提示してますよね。
「ほかのバンドがやらないことを先にやりたいなという思いが強いんです。で、“コイツら何がやりたいんだろう?”って、聴く人が次を期待してくれたらいいなって」
――しかも、いろんな音楽のいい紹介役にもなってるし。
「客観的にも音楽への入り口になれるバンドだと思ってますね。音楽をよく聴く人には、なるほどってものがいっぱい詰まってるし、何も知らない人にはいい曲だなってとこから入ってもらって、そこから音楽を掘り下げてほしいなと思っているんです。こういうやり方が支持を得て、世の中の人の音楽の聴き方が変わったりしたらうれしいですね」
取材・文/土屋恵介(2010年3月)