【土岐麻子Special】 Contents 1 ニュー・アルバム『乱反射ガール』インタビュー
80年代のキラキラしたものを、今の時代のかたちで表現 “過去を憂うより、未来を生きよう”――乱反射する女心
――このジャケット・デザイン、すてきですね。80年代の資生堂の広告みたい。
土岐麻子(以下、同) 「そうなんです、今回は夏をイメージしてみました。ちょうどアルバムを作る前に、Yuge(ユージュ)という洋服ブランドのデザイナーに春夏コレクションのキャッチ・コピーを頼まれて、“解き放て、乱反射ガール”というコピーを書いたんです。その流れで80年代の広告本を見ていたら、当時のコピーってすごく曖昧で作品性が高いんですよね。それも観る人のイマジネーションに委ねるような確信的な曖昧さで――私はそういう表現に惹かれるんだなと思ったんです」
――そういえば“ナツコの夏”とか、よく考えるとなんのこっちゃだけど(笑)、伝わるものがありますよね。
「そうそう、化粧品も魔法のアイテムみたいで夢がありましたよね。今は確かな効能がなければお金を払いたくないっていう感じがする。それは不況だから仕方ないのかもしれないけど……。でも最近、不況にもいい加減慣れてきたというか(笑)、そろそろみんな、夢を見たい気分も出てきたんじゃないかなと思って」
――確かに最近、不況だ不況だと言ってる気分が飽和してきた感はあります(笑)。
「不況だとどうしてもインドア志向になるし、一刻も早く仕事を終えて、家に帰ってアロマで和みましょうみたいな癒しの音楽が流行ったこともありましたよね。でも私が好きな山下達郎さんや吉田美奈子さんの音楽はシティ・ポップと呼ばれるくらいで、主人公たちが雑踏の中にいるイメージがある。それに前向きな人のエネルギーがなければ街なんて動かないし、私は活気のあるものが好きなので、80年代のキラキラしたものを今の時代にそぐう形で表現できたらいいなと思ったんです」
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――土岐さん自身はどんどん外へ遊びに出て行くタイプ?
「放っておくと家の中にいるタイプですね。とくに10代の頃は外出してもおもしろくないと思ってました。小さい頃に憧れた街のかたちが変わってて、こんなはずじゃなかったとガッカリして」
――私も同世代なのでわかります。TVで見た若者たちは毎週スキー行ってたのに、おかしいなって(笑)。
「そうそう、おしゃれなバーで三角のグラスでお酒飲んだりとかね(笑)。でも現実は居酒屋で、安い酒を頼めとか先輩に言われて(笑)」
――土岐さんの歌は、そういう現実と理想のズレを妄想で埋めていくのがおもしろいなと思うんです。今回「QUIZ」という華やかな曲がありますけど、歌詞を見ると、電車で“座りたいなー”とか思ってる超ダウナーな気分が描かれていて(笑)。
「そうなんです(笑)。この歌詞を書いた頃はタクシーに乗りすぎてて、そろそろ電車に乗らなきゃやばいと思って、よく地下鉄に乗ってたんです。それで、疲れているときなんかはいつも、 “あのイス座りたいなー”とか思ってて……なんかそういう自分って、昔から全然変わってないなと思ったんですよね(笑)。誰もが大人になるにつれて、正しい答えを知っていくじゃないですか。“人のために生きる”とか、マザー・テレサ的な人の言葉を聞くと、なるほど、すばらしいなと思う自分がいる。その一方で全然成長しない自分もいて、そのギャップを感じたときに伊澤(一葉)さんの曲を聴いて、この思いを歌詞にしようと思ったんです」
――なんでこの曲にそのテーマが当てはまったんでしょう。こんなにもキラキラした曲なのに(笑)。
「最初に聴いたとき、答えのない曲だなという印象があったんです。混沌として、解決しないまま曲が終わってる感じがして。でも伊澤さんは“この曲はファンタジーなので『ポニョ』という仮タイトルにします”と言ってたので、なんとなく海のモチーフも入れつつ歌詞を書きました(笑)。この曲はアルバムのなかでもっともネガな世界を描いてますね」
――TRICERATOPSの和田さんと
マイケル・ジャクソン の「HUMAN NATURE」をカヴァーしていますが、これも象徴的だなと思いました。やっぱりマイケルは、音楽で夢を見せる最高峰のエンタテイナーじゃないですか。
「そうなんですよね。(ドキュメンタリー映画の)『THIS IS IT』を観たときに、マイケルってすごく感覚的にものを言う人だなと思ったんですよ。アイディアって感覚的なものだけど、それを伝えるためには誰にでもわかるように噛み砕いて説明しなきゃいけない。でもマイケルは“ここはもっと月の光が肌にしみこむように……”とか言ってて(笑)、それを聞いたみんなが探りながら音楽にしていく。それはなかなかマネできることじゃないけど、私も伝えることを諦めずに、もっと自由に発言していこうと思いましたね」
――確かに共通認識っていうのは、そのくらいざっくりとしたイメージでいいのかも。みんなで「何それ何それ」って楽しめる空気が大切というか。
「それで伝わる人がいたら幸せですよね。私もずっと一緒に制作してる川口(大輔)くんや奥田(健介)さん、エンジニアの(井上)雨迩さんといった人たちは、同じ感覚をわかりあえるメンバーなので、今回その関係性がさらに馴染んできたなと思います」
――さらにG.RINAさん、さかいゆうさん、森山直太朗さんと、同世代を中心に多くのコラボが実現していますね。
「うれしいですね。達郎さんや美奈子さんのアルバムを聴いても、参加ミュージシャンは今見ると錚々たるメンバーだけど、当時はみんな同世代の若者だったわけで。同時代性を自然と分かち合える人たちが一丸となってものを作ることへの憧れもあったから、いつかそういうタイミングが来るといいなと思っていたら、自然と実現したんです」
――でもアルバムの最後を飾る「City Lights Serenade」を聴いて、やっぱり最後は“ひとり”に帰るんだなと思いました(笑)。
「そうそう、最後は孤独になっちゃう(笑)。でも今回は、どの曲もコントラストが強いというか、光の世界を歌ってても、自分の影を見つめるような視線が歌詞の中に入ってますね」
――なぜそうなったんでしょうか。
「うーん、なんでなのかな……。なんか去年ぐらいから、自分はひとりなんだと思うことが多くて。今までも、生まれて死ぬまで人間はひとりだと頭ではわかっていたけど、それが初めて実感をともなうようになってきたというか……。それはたぶん数年前よりも、みんなとものを作る意識が強くなってきたからかもしれない。みんなの中で生きてると、気持ちがすれ違ったときにやきもきするじゃないですか。私はこうしたいのに、って悔しくなったり、焦ったり。そういうとき、結局人はひとりなんだな、人は人、私は私の人生を生きてると思わないと、やりきれないことばっかりだなと思って(笑)」
――なるほど(笑)。
「あと私のまわりに30オーバーの独身女性が多いんですけど、彼女たちと話してると、“私ってどこかで人に幸せにしてもらおうと思ってるんだよね”という自覚があったりして。“でも自分を幸せにするのは自分しかいないんだよね、ムカつくけど”って(笑)――そんな話をしたりもするんです。過去を反省したり、確かな未来をほしがったり、あと何年でこうしなきゃと思ったり……そういう時間がもったいない気がして」
――その焦りは女だから余計強く感じるのかも。
「そう思います。だから、このアルバムは、なんてことないテーマを歌ってるんです。過去を憂うより、未来を生きようっていうテーマはいつの時代だってあるし、女性がある程度の年齢になったら、みんな思うこと。それをちょうど今、私も切実に思ってるところなんです」
――きっと『乱反射ガール』はこの時代を生きる女性の指針になると思います。聴いてると“これからどうする、どう生きる?”って問いかけたくなる。
「そう、このアルバムは答えが出てないんですよね。強気な瞬間もあれば、ダメダメな言い訳ばっかりしてる自分もいるし、こういう女の子になりたいという願望もあるし……。聴いた人に答えを委ねてるし、そこで出した答えがあればぜひ教えてほしい。私も知りたいと思ってるんです(笑)」
取材・文/廿楽玲子(2010年5月)次回更新日(5月31日)に特別エッセイを掲載!
土岐麻子/乱反射ガール
CD+DVD (RZCD-46546/B 税込3,800円)
CD (RZCD-46547 税込2,940円)
<CD>
01. Intro 〜prism boy〜
02. 乱反射ガール
03. 熱砂の女
04. 薄紅のCITY
05. 鎌倉
06. feelin' you
07. ALL YOU NEED IS LOVE
08. QUIZ
09. Sentimental
10. HUMAN NATURE / sings with 和田 唱 from TRICERATOPS
11. Light My Fire
12. Perfect You
13. City Lights Serenade
<DVD>
【VALENTINE LIVE TOUR @ Billboard Live TOKYO (2010.02.07)】
「smilin'」
「Flamingo」
「ファンタジア」
【LIVE『LOVE SONGS』@ 赤坂BLITZ (2009.07.07)】
「SUPERSTAR」
「How Beautiful」
【MUSIC VIDEO】
「乱反射ガール」
【RECORDING & MUSIC VIDEO OFF SHOT】
インストア・イベント
●『乱反射ガール』リリース記念
「TOKI CHIC RADIO」公開収録スペシャル!!
6月19日(土)@タワーレコード渋谷B1F「STAGE ONE」19:00〜
※JFN系列全国20局ネット『TOKI CHIC RADIO』公開収録。
(ミニライヴ&トークショー)
詳しくは
オフィシャル・サイト へ。
ワンマン・ライヴ
●土岐麻子ライブ2010 アーリー・サマー・乱反射ガール! 5月29日(土)@ラフォーレミュージアム原宿 開場17:15 / 開演18:00 SOLD OUT ●土岐麻子ライブ2010 ミッドサマー・熱砂の女!!
7月17日(土)@ラフォーレミュージアム六本木
開場 17:15 / 開演 18:00
料金:前売り 全席指定4,500(税込み・ドリンク代別)
チケット一般発売日:6月5日(土)
チケットぴあ 0570-02-9999(Pコード:106-193)
ローソンチケット 0570-084-003(Lコード:72062)
e+:
http://eplus.jp/ 問合せ:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999
イベント出演情報
●SAPPORO CITY JAZZ
〜Premium 400 WHITE ROCK MUSIC TENT LIVE〜
7月31日(土)@ホワイトロックミュージックテント
開場 17:30 / 開演 19:00〜
出演:土岐麻子 / 小泉ニロ
料金:前売り4,000 当日4,500
Lコード12155
Pコード104-385
※問合せ:サッポロ・シティジャズ実行委員会事務局
TEL 011-592-4125
http://www.sapporocityjazz.jp/whiterock/