CDをプレイした瞬間、まるで魔法のようなポップ・ワールドに引きずりこまれる――こんな体験は本当に久しぶりだ。
SAWAの1stフル・アルバム、その名も
『Welcome to Sa-World』。
FreeTEMPO、
RAM RIDER、
m-floの☆Taku Takahashi、
福富幸宏といったクリエイターたちによるトラック、ストーリー性を感じさせる構成、そして、スウィートな香りとどこかシニカル(?)な手触りを持ったヴォーカル。いまや日本のシーンの主流になりつつある“J-POPとクラブ・ミュージックの融合”というスタイルにおいて、彼女の存在はひとつの頂点と言えるかもしれない。
――1stアルバム『Welcome to Sa-World』、めちゃくちゃ楽しませていただきました。
SAWA(以下、同) 「あ、楽しんじゃいました?」
――はい(笑)。2年前のデビュー時から、じつはこのアルバムをイメージしてたのでは? と思えるほどの完成度で。
「おーなるほど。結果的にそうなったんですよね。もともと楽曲の内面に遊園地っぽい雰囲気――パーッとエスケイプしちゃう感じだったり――があったから、アルバム全体をアトラクションに見立ててみようって思って。いろんなテイストの曲があるし、ちゃんとコンセプトを立てておかないと、縫い合わすことができないかもしれないなって」
――その結果、SAWAさん自身の音楽観、世界観が強く出てますよね。いい意味で現実逃避的というか。
「人それぞれに現実逃避する場所があると思うんですよ、たとえば南の島だったり。それが私の場合は、遊園地みたいなものだったんですよね。切ない曲に共感するっていう音楽があってもいいと思うけど、私はもっと楽しいことに思いをはせていたいなあって思うので。希望とか」
――なるほど。
「ただ、普通の遊園地とは違って、ひとつの国みたいなイメージなんですけどね。いきなりオープニング・セレモニーが始まって、そこから義務的に連れて行かれるというか(笑)。アルバムのストーリーとしては、<Swimming Dancing>(☆Taku Takahashiプロデュースによるシングル曲)をクライマックスにしようと思ったんですよ。だからその前に<Danger Zone〜逃げろ!危うしSa-World!〜>(SAWA本人によるインタールード)を入れて、一度Sa-Worldを壊しちゃおうと思って。リスナーを恐怖のどん底に突き落とすことによって、また新しい世界が始まるという」
――そういうこと考えてるのって、楽しそうですねえ。
「そうですね(笑)。その展開があることで、その後に入ってる<I Can Fly><あいにいくよ>みたいなポップな曲がさらにありがたく聴こえるんじゃないかなって」
――なるほど。アルバム全体をトータライズしていくっていう考え方は、SAWAさんのルーツのひとつであるm-floの影響だったりします?
「うん、☆Takuさんにはかなり影響されてると思います。インタールードやSEをたくさん入れるっていうのもそうだし……。☆Takuさんも、面白いインタールードをいっぱい作ってたじゃないですか(笑)。意外とそれが芯になって、アルバムの意味が出てきたりすると思うんですよね」
――しかも、SAWAさん自身がインタールードを作ってるっていう。プログラミングを始めたのって、今年に入ってからなんですよね?
「はい(笑)。親戚のおじさんにパソコンをもらって、“じゃあ、やってみようかな”って。最初は“あとで誰かに見てもらえばいいか”っていう甘い考えだったんですけど、なぜか“そのまま使いましょう”ってことになっちゃって。“え、いいのかな?”って思ったんですけど」
――もともとクリエイター志向だったんですか?
「いや、ぜんぜん。“そんなめんどくさいこと、できない!”って思ってました(笑)。もうね、最初の頃は何もわからなかったし、歌うことだけに集中してたんですよ。その後、歌詞を書くようになって、コーラス・アレンジにも進出して、今回は打ち込みと楽器もやるようになって。デビューしてからがんばった感じですね。でも、面白いですよ、自分のなかでイメージしてる曲を具現化していくのは。ハマってる音をふんだんに使うことによって、アルバムの統一感も出ると思うし」
――サウンド・プロダクトに加わることによって、音楽的な幅も広がってくるのかも。
「いままでは“クラブ・ミュージックとJ-POPの真ん中”っていうところでやってきて、このアルバムはその集大成でもあって。まだ具体的なことはわからないですけど、違うこともどんどんやっていきたいなって思ってるんですよね。聴いてくれた人が“これはクラブ・ミュージックだ”みたいに思わないで、“あ、SAWAだ”って思ってもらえるのが一番いいなって思ってるので」
取材・文/森 朋之(2010年6月)