Buffalo Daughterが自らのレーベル“Buffalo Ranch”を立ち上げ、4年ぶりのニュー・アルバムを完成させた。
『The Weapons Of Math Destruction』(数学破壊兵器)というインパクトのあるタイトルが付けられた新作は、“物理”“ヒップホップ”をテーマに掲げ制作された作品だ。アシッド・ハウス、ニューウェイヴ、パンク、ロック、サイケなど、さまざまなサウンドを昇華した、ヴィヴィッドで切れ味鋭い楽曲揃い。常に進化し続けるBuffalo Daughterの今が存分に詰まった新作について、ギタリストであり歌詞の多くを手がけるシュガー吉永に話を聞いた。
――4年ぶりの新作は、物理やヒップホップがテーマということですが。
シュガー吉永(g、vo、tb-303、tr-606 / 以下、同) 「それは言葉先行だからね(笑)。聴いたら物理なんか関係ないし、どこがヒップホップだよって思うでしょ(笑)」
――(笑)。でもヒップホップって言われて聴くと、楽曲が持ってるループ感をそうとも捉えられるなって。
「そうなの。そこは解釈だからね。ヒップホップっていうのは、アルバム作るときに山本ムーグが“今までやったことないことをやりたい。ヒップホップをやりたい”って言ったからなんだけど(笑)。それよりも、『The Weapons Of Math Destruction』(数学破壊兵器)ってアルバム・タイトルが出たときに3人の気持ちがユナイトしたなって。それまで漠然と曲を書いて、いろんな曲ができてたんだけど、アルバム制作の途中くらいに、あのタイトルを思いついて、アルバムの全体像が見えたんです」
――『The Weapons Of Math Destruction』って、今までにない破壊力のあるタイトルですよね。
「私が考えたんだけど、今の気分を全部表わしてるような言葉だなと思って。今回、曲の仮タイトルが数字にちなんだものが多くて、そこでまずは“物理”ってキーワードを思いついたんですよ。昔から“The Weapons Of Mass Destruction”(大量破壊兵器)って言葉はインパクトあるし、すごく気になってたから、そこで“Mass”という言葉を、数字を意味する“Math”に変えて、『The Weapons Of Math Destruction』(数学破壊兵器)というタイトルが思い浮かんで、“これ、いけるぞ”って思ったんです」
――そこで“絶対的な物理に対する破壊宣言”っていうアルバム全体の設定ができたと。では楽曲についてですが、アルバム全体を通じて、曲の中で不穏さと明るさが交差するものが多くて。それは時代の反映という印象を受けますが。
「そうなんです。いつもウチらのアルバムは、そのときの自分たちの状況や気持ちがそのまま音楽に乗っかるから。今って、まったく明るい感じはしないけど、かといって、まったく絶望的な感じでもないし。その中で、みんな頑張ってるって状況だもんね」
――では、曲作りで気を遣ったポイントは?
「今回、自分らのレーベルを始めるときに、結成時に戻るくらいゼロから始めようって気持ちがあったんだけど、そこでBuffalo Daughterってバンドについても改めて考えたんです。そのときに、私たちはアシッド・トラックスをやってるロック・バンドだというところが、他のバンドとは違う特別な点じゃないかと思って。TB-303を使ってる<Gravity>を1曲目にしたのは、そういう意味も含めた宣言なんです。あと、この4年間ライヴはコンスタントにやってたから、私たちはライヴ・バンドだっていう意識はさらに強まっていて。だから、音を重ねるより、ライヴでそのままできる曲というのは意識しましたね」
――つまり新作は、原点を振り返りつつ進化を遂げたアルバムだと。では歌詞の面では変化はありましたか。
「歌詞はより重要になってきましたね。なんせヒップホップなんで(笑)、ぼんやり言っても意味ないし、言葉の輪郭ははっきりさせてダイレクトに伝えたいっていうのはあったんです。例えば<Rock'n'roll Anthem>は、“これまでもこれからもツアーし続ける”っていうバンド宣言だし、<Down Beat>は実はアンチ・森ガールの曲だったりするし(笑)。森ガールの定義って、私たちには逃避に見えるのね。世の中がシブいのって、逃避することじゃ解決できないし、やる気がないって風潮も嫌だなって。それも含めて強い言葉のアルバム・タイトルになってるんですよ。“今、言いたい、逃げてはダメ”って(笑)」
――“逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ”って『エヴァンゲリオン』ともシンクロしてますよ(笑)。
「(笑)。私たち的にはそういう世界なんです、このアルバムは」
――さてアルバム自体は、混沌とした世界観を経て、後半の日本語曲「Unknown Forces」から徐々に明るさを感じる展開を見せますが。
「<Unknown Forces>は、要は私たちの囲まれてる世界は見えない力に司られてるって内容なんです。ウチらはそれを神秘主義的に考えるのが嫌で、もっと現実的に証明できるものを知りたかった。そしたら最近、ある物理学者が“Extra Dimensions”って理論を提唱してたんです。それは、目に見えない未知の次元の力が太陽系レベルにあって、それが、すべての物事に及んでるっていう理論なんだけど。もちろんそれが具体的に世界的不穏を起してるってわけじゃないけど、私たちなりの解釈で納得できるものだった。“その理論に乗った!”って感じなんだよね」
――そしてラストの「New World: It Day」は希望を感じさせてくれるシンプルなロック・チューンです。
「アルバムの途中の<Five Thousand Years For D.E.A.T.H.>は50億年後にみんな死んじゃうって内容だったりするけど、アルバムの最後は希望で終わりたかった。やっぱり希望がないとやってられないもんね」
――確かに。でもホント、新作は力の入った傑作と言い切れる作品ですね。
「一切ぼんやりしてない、言いたいことを言い切った入魂の一作になってます。今の時代、諦めたりぼんやりするんじゃなくて、すり切れるまで入魂したほうがいい。とにかく“入魂”っていう、強い思いが入ってますね(笑)」
――すべての悩める現代人へのBuffalo Daughterからのメッセージ・アルバムだと(笑)。
「そうそう(笑)。私たちも気分一新、1stアルバムに近い気分で作れたし。ただ、物理とかヒップホップとか言ってきたけど先入観なく聴いてほしいんですよ。私たち的には2010年型のロック・アルバムに聴こえると思ってるので、そこを楽しんで、聴き手がそれぞれ解釈して盛り上がってくれたらいいなと思ってます」
取材・文/土屋恵介(2010年6月)
【Buffalo Daughter ライヴ情報】
<Buffalo Daughter presents“WMD drop 1”>
●日時:7月29日(木)
●会場:東京・新代田FEVER
<FUJI ROCK FESTIVAL '10>
●日時:8月1日(日)
●会場:新潟県・苗場スキー場
<We're the Mother Of Meatloaf!>
●日時:8月3日(火)
●会場:東京・渋谷CLUB QUATTRO
<RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010>
●日時:8月13日(金)
●会場:北海道・石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
<BUFFALO DAUGHTER〜Japan Tour 2010〜>
●日時:11月15日(月)
●会場:東京・恵比寿LIQUIDROOM
●日時:11月16日(火)
●会場:大阪・心斎橋クラブクアトロ
●日時:11月17日(水)
●会場:愛知・名古屋クラブクアトロ
問い合わせ/SMASH [Tel]03-3444-6751
http://www.smash-jpn.com/index.php