【レインコーツ interview】レインコーツ、永遠なれ――初来日を果たしたレインコーツに湯浅学が直撃!

ザ・レインコーツ   2010/07/08掲載
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【レインコーツ interview】レインコーツ、永遠なれ――初来日を果たしたレインコーツに湯浅学が直撃!
 これはいったい何なのだ?! と思える特別な喜びをレインコーツの最初のシングル盤と出会ったときに感じてからざっと31年経って、そのレインコーツが目の前にいる! それはもう粒子が実体化して人になっているようなもの。俺にとって、創り出すことが日々の糧だと何度も思ううち至極当たり前の事になっているのはレインコーツに出会ったこともかなり影響しているのだなあとそのステージを観るうちに強く思ったのだった。手探りが大きな像を生み出すように、雨粒が水たまりになるように、孤独が清々しい精神の鍛錬に思える日々を回想させる鮮やかな、朴訥な音楽。見せかけの充足やなめらかな装飾などあっという間に霧散させる。未完に向かって歩む同志、と勝手に呼ばせてもらいます。レインコーツ、永遠なれ。


――最初にシングルを買ってから31年が経ちますが、まさか日本でライヴが観られるとは思っていませんでした。永続的に活動していなかった印象がありますが、レインコーツの活動のほかにはどういうことをしていたのですか?
ジーナ・バーチ(vo、b) 「フィルム・スクールに行ってミュージック・ビデオを作ったり、パフォーマンス・アーティストと一緒に“フリーク・ショウ”というのをやったりしていたわ。音楽では、ハングオーヴァーズを結成したり、ビッグ・ボトムに参加したり、レッド・クレイオラの『ファイヴ・アメリカン・ポートレイツ』に参加したり。いまは二人の女性とグラッツというバンドをやっていて、いろんな形で音楽活動とは繋がっていたのよ」
アナ・ダ・シルヴァ(vo、g) 「私は、シークエンサーとキーボードが付いているヤマハのQYシリーズを買って、一人で曲を書いていたの。コンピュータを使って作る音が好きになって、その後にローランドの8トラック・レコーダーを使ってソロ・アルバムを作った。これがとても大きなターニング・ポイントになったわ。自分一人だけでもいろんなことができると気がついて、自分の好きなように音楽を作るのがとても楽しかった」
ジーナ 「私もテクノロジーは素晴らしいものだと思っていて、シークエンサーを使ったりもしていたんだけど、でも、ギター1本だけを持って歌った時の快感もとても素晴らしい。だから両方にいい面があるわ」
78年のライヴから
――レインコーツの音楽は、メンバーみんなで絵を描いているようなイメージがあるんですけど、実際曲はどういうふうに組み立てているのですか?
ジーナ 「たいていの場合、私かアナのどちらかが曲を書いて、そこにほかのメンバーが参加していく。ライヴをやっていてもそうだけど、みんなで演奏すると、やるたびに違う曲になるのよ。それが面白いの」
アナ 「自分が持っていったギター・パートも、みんなで演奏してみたら“なくてもいいかも”って思ったりね(笑)。信頼しているメンバーとやっているから、個々にいいアイディアがあったら、そのアイディアに従うことができる」
――レインコーツという名前の由来は?
ジーナ 「アナがポルトガルからロンドンに越して来た時、ポルトガルに比べて雨が多くてちょっと汚れたイメージがあったそうなの。一方、どこかロマンティックで、ロックンロールで、ファンキーで、アーバンな感じがしたっていうの。それで、その街のダーティさからレインコートを着て自分たちを守るっていうイメージが沸いた。それと、当時コルティナっていうパンク・バンドが、ステージ上でレインコートを着ていて、それがすごくパンクっぽくて気に入ったっていうのもあったわ」
79年ごろ
――子供の頃に、好きだった音楽は?
アナ 「10歳くらいの時に、年上のいとことエルヴィス・プレスリーエヴァリー・ブラザーズを一緒に聴いていて、当時からロックが好きだった。イギリスに英語を勉強しに行ったティーンエイジャーの頃は、ちょうどビートルズが『ハード・デイズ・ナイト』をリリースし、ローリング・ストーンズが1stアルバム『ザ・ローリング・ストーンズ』をリリースした頃で、ストーンズはショウも観に行ったわ。当時はヴォーカルがよく聞こえないようなギグだったから、オーディエンスはみんなとにかく叫んでいて、自分も姉と一緒になって叫んだりしたの。そういう環境のせいか、ミック・ジャガーがお尻を振り出したり、おちゃらけて踊ったりして、それがすごく印象的だった。その後は、グレイトフル・デッドボブ・ディランルー・リードを聴いたり。で、イギリスでジーナと同じ大学に入ってから、彼女の影響でパンクに目覚めた。セックス・ピストルズにすごく大きなインスピレーションを受けて、自分たちもパンクをやってみようと思った。いろいろ聴いたけど、結局自分に合っていたのはパンクだったのね」
ジーナ 「小さい頃に家族の間で、毎週一人ずつ順番にLPを買うっていうルールがあって、私が最初に買ったのがハーマンズ・ハーミッツ。そこからいろいろ聴いているうちにロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」がヘヴィロテになったわ。兄の影響で、メラニーやボブ・ディランも聴いて、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ』とかも聴いた。で、ある日アート・スクールの友だちとたまたま行ったギグがセックス・ピストルズのライヴだったの。当時は名前さえ知らなかったんだけど、すごくいいステージだった。その頃はパンクの人気が出てきていて、私も、それまでアートに向けていた熱をパンクに向けた。なにか特別なことが起きている、世界が変わろうとしているって感じがしたわ。そういう強い熱があったからこそ、パンクが衰えていった時はショックだった。本物の改革が起きると信じていたのに、そうじゃなかったのかとすごく悲しくなった。その時には、一度自分の持っていたパンクを全部売り払ったわね」
アナ 「パンクには何か違うものの始まりを感じていたのに、しだいにクラッシュがビッグになっていき、成功のためにやっているように感じられてしまった。それはほんとに悲しかったわ」
――パンクは、音楽性以上にアティテュードが大事ですよね。
アナ 「パンクについて一つの言葉を使うとしたら“クリエイティヴィティ”かしら。自分の気持ちを自由に表現するということ。それをアティテュードというふうに解釈できるかもしれないけど、“パンク・アティテュード”といってイメージされる攻撃的なものじゃなくて、いかに自分に正直な気持ちで表現できるかっていうことだと思うわ」
ジーナ 「失敗とかハプニングもすべて受け入れて形にできるものがパンクね。人がやっているものをコピーするんじゃなくて、自分たちで新しいものを生み出していくのが大切なの。私たちはギター・ソロを練習したこともなくて、ただ自分たちだけの“何か”を探している。それは暗いものかもしれないし明るいものかもしれないけど、とにかく“自分たち”をつねに追い求めているの。それがパンクだと思うわ」


2010年6月の日本公演から
取材・文/湯浅 学(2010年6月)
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