ディープかつハードエッジなギター・サウンドと最新鋭のクラブ・ミュージックの融合。
マーティ・フリードマンは新作
『BAD D.N.A』で、ロック・ギタリストとしての新たな境地を切り拓いた。歌心溢れるギター・プレイもさらに充実。最近はJ-POP評論家しての活動が盛んな彼だが、この作品をきっかけにして、ギタリストとしての個性と奥深さにも注目が集まることを期待したい。
――記念すべき10作目のソロ・アルバムですが、制作にあたって何か具体的なテーマはあったんですか? マーティ・フリードマン(以下、同)「テーマはずっと変わらないんですけど、まず、僕はインストが大嫌いなんですよ。そういう人は多いと思うんですけど、“インスト”って言われただけで引いちゃう(笑)。だから、自分のギター・プレイで、素晴らしいヴォーカリストと同じような表現をしたいと思うんです。すごい歌を聴くと、鳥肌が立ちますよね? それと同じことをインストでやりたい。それが一番楽しいチャレンジなんですよね」
――大嫌いなインストに向かう理由がそこにある、と。
「そうです。ただ、日本にいると忙しすぎるので、今回はシンガポールに逃げたんです(笑)。あっちで現地メーカーのギターを買って(笑)、曲作りに集中して。そこでいろんなアイディアをまとめて、ロスでレコーディングしたんです。ギター・ソロ、リード・ギター関係はロスで弾いてるから、向こうのテンションが出てると思いますね。日本でのキャラとはちょっと違うんじゃないですか」
――レコーディングはアメリカのミュージシャンと一緒に?
「いや、今回はほとんど自分だけでやってます。あとはCMJKさんにしっかりトラックを作ってもらって。憧れの人ですからね、CMJKさんは。電気グルーヴも好きだったり、当然、浜崎(あゆみ)も大好きだから。他の仕事で一緒になったことがあるんですけど、そのときに彼のスタイルがすごく気に入って。以前から“ぜひ、自分の音楽にも参加してほしい”って思ってました」
――エッジの利いたダンス・ミュージックとマーティさんのギターが融合していて。1曲目の「Speciment」もそうですけど、すごく新鮮な音像ですよね。
「ありがとうございます。そう、僕はいつも新鮮なものを追求しています。自分のギターのセンスはどうしたって変わらない。だから、新鮮に楽しめる環境を作ることが大事なんですよ。今回もCMJKさんの味が欲しかったから、自由にシーケンティングをしてもらってるんです。餅は餅屋って言うでしょ(笑)」
――確かに(笑)。J-POPからの影響もどこかにありますか?
「うん、かなりある。音楽だけじゃなくて、日本での人生経験も含めて。いろんな経験、出会いによって、音楽が深くなっていくんですよね」
――とくに「Battle Scars」のメロディは……。
「J-POPっぽいよね。やっぱり大好きだから、自然に出てくるんだよ。とくにその曲は日本の心かもしれない。完全に無意識だけどね」
――なるほど『BAD D.N.A』というタイトルについては?
「直訳すると“悪い遺伝子”なんだけど。日本に来てから、僕のキャラが2つになっちゃったんだよね。日本語をしゃべってるときは、楽しくて軽くてデタラメなイメージじゃない? “いいじゃん! すごいじゃん!”みたいな(笑)。でも、英語でしゃべってるときはもっとハードな印象になる。よくまわりのスタッフにも“ライヴのMCは英語の方がいいと思う”って言われるんだけど」
――音楽のイメージとズレちゃうから(笑)。
「そうそう。日本語の僕は“GOOD DNA”で楽しくて優しい感じ。でも、英語の僕はもっとタフ。今回のアルバムは完全に“英語の僕”のイメージなんだよね……って、いま、ふっと思ったんだけど(笑)。でも、そのギャップは面白いと思う。僕の音楽をぜんぜん知らない人がコレを聴いたら、“あのデタラメな外国人が、こんなにへヴィな音楽をやってるの?!”って驚くんじゃないかな。インストってほとんどBGMとして使われてるから、こんなにハードな音ってないでしょ?」
――そうですね。しかも、とても質の高い音だし。
「深い音が好きなんですよ。ただうるさくてノイジーな音じゃなくて、ディープでラウドな音をいつも追求してるので。前よりも良くなってないと、意味ないじゃん?」
――『BAD D.N.A』のツアーも楽しみです。
「今回も日本だけじゃなくて、アメリカ、ヨーロッパにも行きます。前回は『TOKYO JUKEBOX』(J-POPのインスト・カヴァー集)のツアーだったから、<天城越え>や<雪の華>なんかをやったんだけど、メタル好き、ハード・ロック好きのファンもめちゃめちゃ盛り上がってくれて。そういう人たちが少しでもJ-POPに興味を持ってくれたら嬉しいですね」
取材・文/森 朋之(2010年8月)