ヴォーカルのchihiRoは、意外にも2002年の結成当初には「自分がジャズに取り組むとは思っていなかった」という。
chihiRo:「もともとロック系のヴォーカリストとして活動していたんですが、ある日誘われて行ったライヴにドラムスのtowadaがいたんです。それから二ヵ月くらい経って、“実験(的な)バンドをやるから歌ってもらえませんか?”と連絡があって。ロック・バンドが組めるかも! と思って行ったみたら、それがロック・バンドじゃなかった(笑)」
一方、「ジャズがやりたくて音楽を続けていた」と語るリーダーのtowadaは、その頃から理路整然としたバンド・コンセプトを持っていた。
towada:「ジャム・セッションを通じてギターのkubotaを知って、同じタイミングで彼女に出会った。僕もkubotaも、ライヴでのアドリブ、即興っていうのが好きなんですが、それ押し進めながら、バンドとしてまとまったサウンドにまでたどり着けないだろうか? という思いがあった」
kubota:「僕もtowadaと同じタイミングで似たようなことを考えていて。たとえばライヴ・ハウスによってアレンジを変えるとか、ロック寄りにするか、ジャズ寄りにするかとか。そういうバランスを試していくことに興味があった」
3人はもとからあったchihiRoのオリジナル曲に「4通り、5通りのアレンジをつけて」(towada)、ライヴを続けながら理想のサウンドに近づくための試行錯誤を重ねていく。その結果、有機的なジャズへのアプローチと緻密なバンド・アンサンブルを昇華した、既存のJ-POPにはないバランス感を携えたサウンドが生まれた。セカンド・シングル「Jolly Jolly/アイロニー」には、そんな彼らの多面的な魅力を凝縮した、親しみやすいポップ性を示す楽曲と、不思議な響きを持つ変拍子のトラックが収められている。
kubota:「<Jolly Jolly>は、最初から明るい曲、パーティ・チューンを作ってみようという意図がありました。これまでは内省的なマイナー調の曲が多かったので、新境地開拓みたいな感じです」
towada:「逆に<アイロニー>は前々からあったJiLL-Decoyのカラーに近い。この曲はスーパーエッシャー展のイメージ・ソングなんですが、期せずして以前からエッシャーのだまし絵の感覚、“試行錯誤して人をひっかけて楽しませる”という手法に憧れを持っていました」
chihiRoが書く文学的な詞にも思考を奪われる。その世界観はどこからくるのだろうか?
chihiRo:「小さい時から本を読まないで、逆に物語を書いてばかりいたんです。たとえば……、自然を大切にしようという物語で“割り箸を使うのをやめようよ!”と森のキツネがしゃべっている話とか(一同・笑)」
towada:「最初に彼女の詞をみた時、正直意味がわからないところもあったんです。ただ、よく読むと心の内面から表われる一個のテーマがあったり、言葉遊び的なものが見えてきた。インストに近い印象がありましたね。ジャズでサックスがソロを吹いたら抽象的な音像が並ぶわけですが、それがバチっときまる時には、一個のテーマが感じられたり、絵が浮かんできたりする。それに近いんですよ。ということは、アレンジによってスポットライトを変えていくと、違う響きが生まれるかも……、そんな風に感じたんです」
今後彼らはどんな到達点を目指しているのだろうか? 最後に、3人に目標と抱負を聞いてみた。
chihiRo:「以前、私は
アラニス・モリセットみたいのがやりたいんだ! って言ってた頃、彼らにあるジャズのCDを聴かせてもらったことがあったんです。“じゃあこれとアラニスはどう違うの?”と問われて、ああ一緒だなと、その時思えた。音楽に対する姿勢や、ジャンルに関係なくその人が歌ってるから素晴らしいんだということを、すごく理解できた。だから、まずジャンルを気にすることなくJiLL-Decoyはいいなと思ってもらいたい。そういう“ジャンル超え”をリスナーの人にも体験してもらいたい」
kubota:「結局、聴く人がジャズに聴こえようがポップスに聴こえようが、“良い”と言ってもらえなければ始まらない。とにかく、何に聴かれても良いと言ってもらうものを作り続けなきゃという決意があります。同時に、まず楽器を操れる演奏家でありたいという気持ちも強く持ってますね」
towada:「今はジャズっていう素晴らしいものの力を借りて、バンドの色としてやっている感じですけど……。本当のところ、僕は敬意を持ち過ぎるほどにジャズが好きで、“ジャズを取り入れてます”という言葉さえ軽く言えないくらいなんです。もう、その気持ちを乗り越えるためには、今やってることを自分たちのジャンルにするしかない。だからジャンル超えというか、自分たちでジャンルを作るくらいの目標を持っていたいと思っています」
取材・文/吉井孝(2006年11月収録)
※ライヴ情報
●12月17日(日) 東京・原宿アストロホール
「JiLL-Decoy 歳末大感謝ワンマンライブ」
●12月24日(日)大阪・LIVE SQUARE 2nd LINE
「Fukushima Sweet Party X'mas Special」
出演:JiLL-Decoy association/竹中麻実子 他