【イールズ interview】欲望(第一部)、喪失(第二部)に続く三部作完結編のテーマは“祝杯”――エレクトロをフィーチャーした“何でもあり”なイールズの新作

イールズ   2010/09/14掲載
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【イールズ interview】欲望(第一部)、喪失(第二部)に続く三部作完結編のテーマは“祝杯”――エレクトロをフィーチャーした“何でもあり”なイールズの新作
 サマーソニック2010に出演し、東京会場では初日ビーチ・ステージのトリを務めたイールズ。Eことマーク・エヴァレットは、バンダナにサングラス、厚くたくわえたアゴ髭に、自動車修理工のような白のつなぎといういでたちで、レコードでの繊細かつ儚げなイメージから一転して強烈なブルース・ロックをガツンとぶちかまし、オーディエンスを大いに盛り上げた。その数時間前の取材エリアにて、最新作となる『トゥモロー・モーニング』を中心に話を聞いた。
――最新作『トゥモロー・モーニング』は、前作から半年という短いスパンでのリリースとなりますが、なんでも前のアルバム『エンド・タイムズ』と前々作『オンブレ・ロボ』と合わせて三部作になっているそうですね。当初から3枚分の内容を個別に構想していたのでしょうか? それとも、1枚目〜2枚目と取り組んでいくうちに、次々と曲ができていって、途中から「ああ、これは三部作になるんじゃないか」とわかってきたのでしょうか?
E(以下、同)「三部作というアイディアは初めからあったね。でも、あえてそこで“三部作になるよ”と世間に言わなかったのは、もしも、時間がかかるプロセスの途中で“やっぱりちょっと違うな”と思っても、やめられなくなってしまうからだよ。自分を追い込むようなことはしたくなかったから、“これはきっちり最後までいけるな”というのを確信した時点で、“ほら実は三部作だったんですよ”と明らかにしたというわけなんだ」
――なるほど。で、各アルバムのサウンドの感触というのも、3枚それぞれで違った印象があって。とても大雑把に言えば、1枚目がノイジーな感じ、2枚目がアコースティックでソフトな雰囲気、そして、最新作となる3枚目はエレクトロニクスがかなりフィーチャーされているというように思ったのですが、こういった形で作品ごとに色を付けるというのは、かなり意識していたのでしょうか?
 「その通り。アルバムの中に綴られている物語に最も合う音を、それぞれに付けていったんだよ」
――では、アルバムのコンセプトについて、どういうヴィジョンのもとに、それぞれの作品に向き合ったのかを、もう少し具体的に教えてもらえますか?
 「1枚目のテーマは“desire(欲望)”で、それにはエレキが一番ぴったりだろうと。次に2枚目が“lost(喪失)”、これはやはり地下室にこもって一人で音楽を作っているシンガー・ソングライター的なイメージで、きっとアコースティックが合うだろうと考えた。そして最後の3枚目は“celebration(祝杯)”、あるいは“reverse(再生)”ということで、これはエレクトロニックな音でセレブレーションを表現したら面白いんじゃないかって思ったんだ」
――では最新作は、希望というか、新しい人生に向けての幸福な気持ち……というか、ある程度は落ち着いた穏やかな心情が表われた作品だと言ってもよいのでしょうか?
 「なんかこう自分としては、歳をとるとね……要するに怒るべきもの、怒るべきでないもの、あとは自分の周囲にあるものの中で気にすべきもの、とくに気にしなくてもいいものとかについて、徐々に見極められるようになってくるんだけど……そういうような気持ちを歌っている」
――具体的に何か、今回の三部作に流れているストーリーを裏付けるような、個人的な体験のようなものがあったのでしょうか?
 「うん、最初に三部作を作ろうとした時点で、“このテーマで作ろう”というアイディアがあったわけだけれど、幸いにも、制作作業を進めていく中で、実際に自分の人生の中にもそのテーマに沿った経験、その通りの出来事が起きたことで、より書きやすくなったんだ」
――では、アルバムごとの作曲やアレンジ、レコーディングにおいて、どのように意識的な変化をつけようとしたのか、それぞれの制作状況の違いを簡単に説明してください。
 「そうだな、1枚目はバンドで作り、2枚目はまさに一人きりで曲を書く10代的な作曲の仕方でやった。そして今度の3枚目は非常に楽しかった。とにかく実験的で、本当に何でもありっていう環境をセットアップして、すごく楽しんでやることができたね」
――さて、今日この後ステージを観させていただきますが、今回の三部作に収録された楽曲をライヴという場に持ち込むにあたって、それぞれの違いをどういう風にまとめ直して再提示しようと考えていますか?
 「アルバムの通りにそのままライヴで再現するっていうことはやらないんだ。もしそうしたら、それは自分にとっては間違いだと思う。そのショウ自体、一つ一つの公演がまた違う一枚のアルバムだと思っているから、その都度その都度、本当に最高のものをやりたいと思っている。だから今夜も、アルバムとは全く違うものをやるつもりだよ」
――なるほど。ちなみに今夜は浜辺に設置された舞台になりますが、たとえばライヴが行なわれる環境に合わせて、当日のセットを考えたりすることもあるのですか?
 「実際、今日のライヴを本当に楽しみにしているんだ。実は今、夏をテーマにしたショウ、まさに夏を祝うっていう感じのライヴをしたいと考えているところだったから(今回のビーチ・ステージは)もう、このうえない環境、セッティングだと思う。たぶん、この一年のライヴの中でも、ひょっとして最高のものになるんじゃないかというくらい、自分としてはすごくいいライヴになると思ってるよ」
取材・文/鈴木喜之(2010年8月)
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