斉藤健介(以下、同) 「グルーヴを追求し始めて、その奥深さに気付き始めた時、エモとかポスト・ロックの枠組みでは無理が生じてきたというか、リスナーのせいにするわけではないんですけど、そのグルーヴをつかもうとしてくれない部分に違和感があって、“このままの状況でやっていったら、これは大変だぞ”ということは肌で感じていたところは確かにありました。そのうえで前作『9dw』の時は、バンドからソロへ移行するにあたって、まず自分ありきというスタンスに立ち戻る期間が必要で、それがダンス・ミュージックとして機能するか否かということは正直意識してなかったし、まずは頭の中にあるアイディアを形にしたかったということなんですよ。その後、現在のダンス・ミュージックに通じていく流れはライヴでのサポート・メンバー(ドラムの佐藤幸司、キーボード/エンジニアの林田涼太)の影響が大きくて、最初はアルバムを再現する形で始まったものが彼らの影響を受けながら、より有機的で動きのあるものになっていった感じですね」
暴力を音で表現するというコンセプトのもと、DJ/トラック・メイカーのMOOCHY、NXSの佐藤幸司を要するジャンク・バンド、EVIL POWERS MEでの活動を経て、1997年にNINE DAYS WONDERを結成。現在はエレクトロ・シーンのセレブリティDJとして知られるスティーヴ・アオキ主宰のレーベル、DIM MAKから作品デビューを果たし、その後、日本の先駆的なポスト・ロック・バンドとして精力的な海外ツアーを行ってきた彼のキャリアは常に変化しながら時代を先んじてきた印象がある。
「もともと、いろんな音楽に興味があって、やりたいことは作品ごとに毎回違ってたし、そういう作品を作りながら思っていたのは、音楽を抜きにした人間関係ももちろんあるし、音楽を通じて人と知り合うこともあるけれど、自分の基本は音ありきだから、シーンだったり、馴れ合いの関係性みたいなことには興味がないし、そういうことに捕らわれたくないってことなんですよね」
そんな彼がアルバム『9dw』以降、向かった先はダンス・ミュージックの現場であるクラブのフロアだった。
「僕は地元が六本木で、子供の頃からそういうカルチャーが当たり前の環境にあったし、ボード系のカルチャーに影響を受けて、今はなき六本木WAVEの横で滑ってたりとか、そういう遊びの感覚に突き動かされて生きてきたんですけど、ただ、NINE DAYS WONDERを始めてからは、レーベルを立ち上げたこともあって、バンドに一生懸命で外のものを見る余裕がなかったので、一時期は確かに遊びが足りなかった。それがここ数年、音のなかでいろんな人と会えることもあって、積極的に出歩くようになったんですよ」
外に向かっている、そうした彼の意識が本作には有機的な形で色濃く反映されている。
「それこそ、『9dw』を出して以降、アメリカのWAX POETICSから声をかけてもらって海外でリリースしたこともそうなんですけど、何かをやろうという時、今の時代でものを作っている同士だったら、リミックスやコラボレーション、ライヴなんかが自然になっているじゃないですか。そんななか、海外のアーティストとはmyspaceを通じて繋がっていって、挨拶代わりにリミックスをお願いしたり、そういうちょっとずつの積み重ねで貯まってきたリミックスをそろそろまとめてリリースする時かなと思ったんですね」
本作に参加しているのは、Hatchback、
Windsurf、The Beat Broker、Ray Mang、Eddie C、Max Essa、
Ackky、
World Famousといったニューディスコ、オルタナティヴ・ハウス・シーンのトラックメイカー。さらには
DJ Tosh、
DJ Duct、
Inner Science、Tiovita1、Broken Hazeといった
Jディラ以降のビート・クリエイターら、国内外のアーティストがオリジナルと真摯に対峙したリミックスを2枚組全18曲収録。この作品から広がる風景は、聴き手を触発しながら、新たな世界へと後押しするような、そんな魅力に触れている。
「こうしてまとまった2枚組を自分で聴き直してみて、結果的にホッとしているんですけどね。というのも、『9dw』は外の人とコネクトできるはずだと思って作ったアルバムだったから、それがディスコやハウス・シーンだったり、ヒップホップの人たちだったっていうことですよね。バンドもののリミックスっていうと、予算のあるレコード会社の企画ものっぽい感じで、実際にフロアで機能している例は少ないし、そういうものになってしまう危惧もあったんですけど、アナログを切ったら、DJにかけてもらえてるみたいだし、曲によっては、オリジナルを超えた完成形を提示してもらえたものもあったり、音楽を作るうえでの発見も大きかった。だから、大事なのはやっぱり音を介して人と繋がれているかどうかなんだなって思いましたね」
取材・文/小野田 雄(2010年8月)