ASIAN KUNG-FU GENERATIONの新たな動きは、約1年ぶりとなる11月7日リリースのシングル
「アフターダーク」から始まる。宮沢賢治の『夜鷹の星』の物語からインスパイアされたという本作は、現代社会の重苦しい空気を払拭してくれるような、勢いのあるギター・ロック・チューンだ。本作について、ヴォーカル&ギターの後藤正文に話を聞いた。
日が沈み、群青色の青空から赤い月が浮かぶ夜空へ。前回のシングル
「或る街の群青」から約1年ぶりとなるASIAN KUNG-FU GENERATIONのニュー・シングル「アフターダーク」は、その夜空から日の出に向かうファースト・フライトとなる入魂の一曲だ。
「前作シングル以前はバンドの雰囲気がプログレっぽいところにハマっていきそうな感じもあったんですけど、独りよがりなものが作れない映画の主題歌だったので軌道修正することができたし、次のアルバムに向けたセッションを始めるいいきっかけだったと思います」
ヴォーカル/ギターの後藤正文はそう語るが、昨年、アリーナ・ツアーを行ない、バンドの視野を大きく広げる一方で、次のアルバム制作の前段階でディープに音楽性を極めてきた彼らが放つ本作は、バンドとしての成熟と衝動性を併せ持った疾走感あふれるギター・ロック・チューンだ。
「この歌詞は宮沢賢治の『夜鷹の星』、夜鷹っていう醜い鳥がいろんな鳥にいじめられながら、空高く舞い上がって、最終的には星になるっていうストーリーからインスピレーションを受けて書いたんですけど、前作アルバムでは時代のムードを映し出すべく、ヘヴィな内容を歌詞に盛り込んでいったのに対して、このシングルでは“じゃあ、そこからどうするのか?”っていう決意にあふれていますね」
ここで描かれている“赤い月が浮かぶ夜空”は美しいというよりも、どこか禍々しい印象を受ける。後藤は現在の社会情勢から受けた印象をメロディと言葉で焼き付けながら、そうしたムードを振り払うためのポップ感の必要性を語る。
「僕らの世代が持っている感覚って、そんなに軽いものじゃなく、ちょっと重ためなんですね。自分を含めた今の30歳くらいって、とにかく恵まれてないと思うんですよ。学校を出ても就職先がなかったですし、30歳にもなると、年齢的には社会を担っていく年でもあると思うんですけど、そんな時代が“テロと正義の戦争”に塗られてしまうのはどうかと思うわけです。僕は政治家じゃないから、そういう活動をするわけじゃないけど、音楽家は変に気にしたりせず、思ったことを言ったり、歌ったりするからいいんじゃないかって思うんです。来るべきアルバムでは、今回同様、不穏な時代をいかにして進んでいくかということを描きつつ、有無を言わさず出てきてしまったキラキラしたポップネスや無垢なものとちゃんと渡り合っていきたいし、落ちてる人に救いを与えるような前作とは違って、純粋に音楽の力を使って、聴く人にある種の解放感や喜びに近いものを与えたいですね」
時に反体制的なスタンスをとりながら、大衆性と実験性を兼ね備えたグラミー受賞バンドでもある
フレーミング・リップスにシンパシーを寄せる彼。このシングルで鮮やかに予告されている新たなる方向性は、果たして、ニュー・アルバムでどんな実を結ぶのか? その先のヴィジョンを想像しながら、まずは本作を楽しむこととしよう。
取材・文/小野田 雄(2007年9月)