約2年ぶりとなるアルバム
『STAR』をリリースする
中島美嘉。J-POPの枠の中にどんなジャンルでも取り入れていく堂々たるスタイルと、歌い手としてのさらなる歌への追求が豊かに実った一枚である。映画『サヨナライツカ』の主題歌となった「ALWAYS」や、自身も出演したドラマ『うぬぼれ刑事』の挿入歌「一番綺麗な私を」など、話題となったヒット・シングルも盛りだくさん。そして16歳の頃の実体験をもとに書かれた「16」などリアルなメッセージ・ソングも聴きどころ。今年、デビュー10周年を迎えてなお『STAR』である彼女の今の音楽制作における姿勢を、「私は3年で消えると思ってた」と本音で振り返りつつ語ってくれた。
――『VOICE』以来、約2年ぶりのアルバムですが、制作にあたってのコンセプトやテーマなどはありましたか? 中島美嘉(以下、同) 「前回の『VOICE』がすごく気持ちよかったので、今回もアップ・テンポな曲が多いアルバムがいいなと思っていました。その方が歌ってても気持ちがいいし、聴いていても飽きずに聴けるなと思って」
――そんな中でも音楽ジャンル的には幅広く、そして歌い方や声の表情にも新鮮さを感じる曲が多いなと感じましたが、その辺の意識はどうでした?
「歌い方はあんまり自分で決めないので、例えばディレクターに“今回の曲はこう歌ってみない?”って提案をもらって歌うことも多いし。それに歌ってみて自分がどう歌うのかを楽しみにしてるから、そんなに意識的ではないです」
――そうなんですね。振り返ってみると『VOICE』以降の最初のシングル「Over Load」が、これまで以上にストレートなメッセージ・ソングだったんですけど。そこに挑んだきっかけは何かあります? 「CMソングだっていうのもひとつあったし。あとは、あんまりそういう曲を歌ったことがなくて。私も大人になったし、大人の女性が喜ぶような曲があってもいいなと思ったんです」
――聴いてくれる人たちを励ますというような?
「はい」
――そこに踏み込まれたことは、今回のアルバムへと繋がる新しい道筋だったように思うのですが。聴き手との距離感や、ご自身の役割というものをあらためて考えた時期だったのかなと。
「あんまりそこまで深くは考えてないですかね。でも確かに、わかりやすく背中を押す曲とか、わかりやすく泣ける曲というのは意識したかも。今回のアルバム・タイトルでもある、スターと呼ばれる仕事をしていることを自覚してやっていかないと、せっかく聴いてくれているファンも納得して楽しめないのかなと思い始めたり」
――今までと同じ意識じゃいけないな、って?
「そうですね。もう、それこそデビューから7〜8年経った頃から、これだけ続けてこれているんだから、自覚してもいいんじゃないかなと思い始めた。それまで、私はすごくアガり性だし、まさか(歌手としての活動が)続くわけないと思ってやってきたから。それがもう今はなくなってきました」
――これからも続いていくし、続けていくんだと思ったとき、制作にどんな変化がありました?
「できるだけわかりやすくメッセージ・ソングを混ぜていったほうがいいかなと思いました」
――「ALWAYS」など中島美嘉が歌うバラードのひとつのスタイルも確立しつつ、ですよね。その辺のバランスも考えながら? 「私はジャンルに好き嫌いがあんまりないんです。だから私の声に合うのはこの曲、でも自分の存在としてはこういう曲を歌った方がいい、っていういろんな考え方を持てるようになったんです」
――なるほど。そういう前向きさが反映されたアルバムなんですね。
「はい」
――そんな『STAR』という作品の主題を担うような「LONELY STAR」では、客席からは手の届かない存在であるスターの華やかさだけでなく、“みんなと同じ / 人間だから”と素顔をさらけ出すような歌詞を書かれたのは、どんな想いから?
「自分のことを書くのは、あんまり好きじゃないんですけど、たまにはいいかなと思って。コアなファンの子たちは、私が妄想で詞を書くのが好きっていうことを知ってくれているから、そういう子たちが聴いたときに“あ、美嘉ちゃんて実際、こう思ってたんだ!”ってドキッとさせるのも面白いかなって」
――ファンの方との信頼関係もあるし、今だったら自分の弱さや本音を歌っても大丈夫だっていう?
「そうですね。関係性もそうだし、あとはイメージに自信がついてきたっていうのもあって。今、自分が弱さをさらけ出したところで、もうそういうイメージもないだろうし。逆にそういうイメージがないから“あ、こういう人にも弱いところがあるんだ”って自信に繋がる子もいるだろうし」
――中島美嘉のイメージって、ちょっとミステリアスな感じのね。
「ね、なんでそう言われてるか知らないけど。そう思われてることは楽しんでますよ、すごく」
――でも本音で歌ってても“本当の私はこうなのよ!”っていう主張ではない感じですね。
「うん、こういうところもあるよって」
――「SMILEY」とかもそうですよね、“どんな時も体の底からスマイリー”なんて歌詞に、美嘉さんの笑い声も入っていたりして。
「はい。この曲も、シンプルに生きていけたらいいのになって普段思ってることを歌詞にしました」
――美嘉さんご自身にそういう、ちょっと楽観的なところもある?
「ありますよ。私の中には何でもある。いろんな自分がいるけど<SMILEY>みたいな曲のイメージは一般的な私のイメージではないでしょうね。この笑い声はライヴのMCの中にあったものをスタッフが使ってたので(笑)。歌い方も、言い方は変ですけど“ちょっとナメた感じに歌ってみて”って言われて。楽しかったですよ」
――普段、歌入れの時はなるべく一人きりになってブースも暗くして、みたいなことをおっしゃっていましたが、こういう楽しい曲では?
「変わらないですね、スタイルは」
――楽しい曲でも、シリアスな曲でも、曲ごとに集中していくやり方は同じだと。
「そうです。変わらないです。でも私の場合はジャンルが決まってないから制作においては毎回チャレンジですね。“ヒップホップを歌ってます”とか“R&Bやってます”とかじゃなくて、J-POPをずっとやってるから、その中で毎回、どの曲もチャレンジなんです」
――いろんなジャンルを取り入れながらも、どの曲も大枠はJ-POPだと。そう思うことは自由ですか、窮屈ですか?
「自由です。私の考え方は――いろんな音を入れたりマニアックなこともやってるでしょ? でも私が歌うと、何故かJ-POPになるんです。それはたぶん、コブシがまわせたりするわけでもなく、上手じゃないから。ただ普通に気持ちで歌っちゃうから何を歌ってもJ-POPになるの。その自信があるんですよ、逆に。その曲に染まれないことが悪いことじゃないと思ってるの。だから私は、
<CANDY GIRL>みたいなヒップホップも、ほかのバラードでも私が歌うとJ-POPになって、みんなが聴きやすくなる、と自分では思ってるんです。もちろんR&Bを歌ってる人に対してだとか、憧れはいっぱいあるけど、でもそれはただの憧れで、その人になりたいわけじゃない。私は私で、良さはいっぱいあると思わないとこの仕事はできない(笑)」
――そして「16」ではご自身の過去の痛みがリアルに綴られているように思いましたが、どんな風に届いてほしいですか?
「この曲は、自分が10代だった頃のことを、それこそ中学生時代の話とかをスタッフとしていて。それがちょっと興味深かったんでしょうね。当時の私の考え方が。それでスタッフから“ちょっと書いてみてよ”ってテーマをいただいて書いたものなんですけど。今、例えば14〜16歳ぐらいの中高生たちって、たぶん一番辛い時期に感じるんじゃないかなって私は思うんです。すごくキツいんじゃないかな。楽しいと思うけど一番狭い世界にいるから。そういう人たちにそこは狭い世界だってことに気付いてほしくて書いた曲。そこは数年で抜けだすんだよ、ずっと続くものじゃないから、って。社会人になるともっと広がって、いいことも楽しいことも、今の小さな世界よりも100倍楽しくて100倍苦しい世界が来るってことを教えたかったというか。私ももちろんそうして生きてきたし、自分で学んだことを教えたかった」
――美嘉さんは、その渦中にいるときはどう対処して過ごしていたんですか?
「私は、真剣ではなかったですね。だからやりたくないことはやらなかったし、ただし、すごく、したたかに生きてたと思う。この場を切り抜けるには上手くやっていくしかないから、なんとなくこの子たちと仲良くして、そのかわり、中学を卒業したら付き合う気はない。地元にいる気もないから今だけ楽しければいいやって過ごしてた」
――そういう経験は今もご自身の中に残ってる?
「うん、結局、(今でも)仲いい子はいっぱいいるんだけど。でもやっぱり戻りたくはない。この曲に関しては、みんなが引っかかるような面白い歌詞が書けたと思ってます。“気になるな、何だろうな”って思ってもらえるんじゃないかな。自分のことはあんまり書きたくないんだけど、それはもう過去の思い出話だし、いいかなと思って」
――自分のことを書いた歌を唄うときの特別感ってあります?
「あんまりないです。どの曲も同じように真剣ですから」
――では『STAR』というアルバム・タイトルに想いに込めた想いを。
「これにはふたつあって。ひとつは、スターである自覚をしたということ。もうひとつは、今まで星にまつわる曲が多かったから」
――スターであるという自覚に関しては、デビュー10周年を迎えてのひとつの答えでもあるんですか?
「10周年というのは正直あまり関係がないんですけど、ただ7年目ぐらいから“あ、続けられた”と思えるようになって。私は3年で消えると思ってたの、自分のこと。そんなに続くと思ってないまま7年目まできて。だから、“もうそろそろ自覚しなきゃ、やばい”と思ったんです」
――自分で言い聞かせてるようなところもあるんですね。スターであることを背負っていくというか。
「そうそうそう、“やるぞ”って」
――スターとして第一線で活躍されている方は、ほかにもたくさんいらっしゃいますが、中島美嘉としてはステージから何を放つべきだと思っていますか?
「いっぱいありますけどね。何だろう? でも私は、言葉では伝わらない気持ちみたいなものは誰にも負けないと思ってるんですよ。気持ちを伝えるっていうライヴのスタンスに私はすごく自信がある。上手さは正直、自信がない。それはもう昔から。だからそういう意味では気持ちを伝える、ってことかな」
――それはこれまでご自身が一番大事にしてきたことでもある?
「うん。私はあとで覚えてないぐらい集中できるときがあるんですよ、ライヴでね。そういう、いいライヴを一回味わったときに“あ、これだ”って思えた。そんな経験が今の自信に繋がったんです」
取材・文/上野三樹(2010年9月)