“携帯電話ショップの店員から世界的スターへ!”――男性版シンデレラ・ストーリーの主役となった
ポール・ポッツ。イギリスの国民的オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』で優勝後、デビュー・アルバム『
ワン・チャンス』が14ヵ国でNo.1を獲得。総合セールスが全世界で400万枚という大ヒットを記録し、瞬く間に成功を掴んでから今年で3年目。3枚目のアルバムとなる今作は、彼自身が非常に思い入れのあるという映画名曲集。プロデュースは、
セリーヌ・ディオン、
ホイットニー・ヒューストンらのスターや、『
アバター』『
タイタニック』などの映画音楽を手がける敏腕プロデューサー、サイモン・フラングレンが担当している。
――今回、3枚目になるアルバムは映画名曲集ですね。過去の2枚によって、クラシカル・クロスオーヴァーのジャンルにおける立ち位置を確立し、クラシックをカジュアルに聴かせる手法が支持を得ていますが、今作にもその傾向を強く感じます。
ポール・ポッツ(以下、同)「僕は自分の音楽スタイルを説明するとき、自分のことを(音楽のジャンルは言わずに)単に“歌い手”と表現しています。しかしながら、たしかに自分の声はクラシック寄りだな……とは思います。一般的なイメージとして、クラシックやオペラをアレンジすると、安売りをしていると思われる傾向もあるかもしれませんが、決してそういったことではないんですね。クラシックはエリートのものではなく、すべての人たちのものです。心の準備ができたら“クラシック音楽に冒険してみようかな”と思っていただきたいのです」
――今回、新譜を映画音楽集にされたきっかけは何だったのでしょう?
「僕は、もともと映画のおかげでクラシックに触れることができ、さらにクラシック音楽を好きになったのですが、もとはと言えば、
『E.T.』のサントラで
ジョン・ウィリアムズの手がけた楽曲に最初に触れたのがきっかけです。サントラというのは、クラシックを紹介するにはとてもよいツールだと思います。たとえば、クラシックに詳しくない方が、フル・オーケストラのシンフォニーをいきなり聴くのは難しいでしょうが、サントラという形だと、試し聴きをすることによって、近づきやすくなれますよね。子供の頃に観た映画とそのサントラは心に焼きつくことも多いので、その時代の幸せな記憶、あるいは幸せではない記憶と連携する場合もあるでしょう。そういった“思い出”という切り口においても、映画音楽は影響力があると思いますね」
――今回のアルバムを録音されて、とくに印象的だった曲は?
「〈禁じられた色彩〉(映画『
戦場のメリー・クリスマス』より)かな。この曲は、90年代のイギリスでサンプリングのネタとしてクラブでよくスピンされた曲だったのです。この曲に自分の声がはたして合うのか心配だったけれど、意外にピッタリ合ったから驚きました。何回聴いても、発見のある曲になっています」
――プロデューサーには、ヒットメーカーとして有名なサイモン・フラングレン氏を迎えていますね。
「僕は音に対しては完璧主義者だと思うのですが、レコーディングの場合は、アイディアを練りすぎるとかえって逆効果になる場合もあります。彼は、そういったこともよくわかってくれていました。彼とよいコミュニケーションがとれたおかげで、最高のレコ―ディングになりました」
――ところで話は変わりますが、昨夜、ポールさんが『ブリテンズ・ゴット・タレント』で優勝した3年前の記念すべきシーンがテレビでオンエアされていました。今振り返って、あの出来事をどのように思われますか?
「あの番組で優勝し、今、世界中で歌えるチャンスを得てあらためて思うのは、“人生は本当に何が起こるかわからない”ということです。それまでは病気の手術をしたり、怪我をしたり、経済的な問題も抱えていました。カードの請求を、別のカードで支払ったりするような窮迫ぶりで、妻には本当に迷惑をかけていたと思います。オーディション番組に応募をしたのも、これが最後だと思って挑戦したことでした。とにかく、番組で優勝するまでの僕の人生は、次から次へと悩みがふりかかってくる日々だったのです。でも、希望を捨てなくて、本当によかった。だから、自分自身をダメだと決めつけることは、絶対にあってはならないことだと思うのです」
――そういった姿勢は、リスナーである私たちにとっても言えることかもしれないですね。
「その通りです。毎日毎日、何が起こるかわからないと思って、日々を大切に生きるべきです。なぜって、僕の人生は自分がイメージしていたものとまったく違う結果になっているからです。あきらめずに物ごとを続けることは、本当に大事なことですよね。僕は昔から非常に怖がりで、今もそれは変わっていません。でも、たとえ怖い場所でも、通らなければならないときもあるのだと経験から学んだので、今はチャレンジできます。成長したと感じますね」
取材・文/栗尾モカ(2010年9月)