これまで数多く共演の機会を持ってきた
LITEと
マイク・ワットが、2度目となるジャパン・ツアーを行なった。<Parabolica Jam '10><We Jam Econo '10>というイベントも含んだ今回のツアーは、なんと22日間で毎晩22本のショウをこなす超ハードな内容で、
テラ・メロス、
アドビシシャンクといった個性派バンドが次々に参加し、終盤にはザ・ミッシングメン(トム・ワトソンとラウル・モラレス)というバック・バンドをマイクと共有する
ルー・バーロウも登場。本ツアーの意義を実感するため、あえて旭川公演を観に行ったのだが、そこでは本当に素晴らしい、貴重なライヴ体験をすることができた。そして翌日、楽日前夜となる札幌公演の直前に、出演者たちから話を聞いた。
――まず、これまでのツアーの感想を聞かせてください。
ルー・バーロウ「僕が参加したのは最後の7公演で、昨夜で5本目だったわけだけど、車で回るツアーは日本じゃ初めてなんだ。たいていは新幹線に乗ってホテルに泊まって、という感じのツアーなんだけど、今回はアメリカで慣れているような、雑魚寝したり車で各地をまわったりという形で、毎日発見や驚きがあるし、この方が大勢の人に会うこともできる。通常のジャパン・ツアーは世間と隔離された感じがするけど、今回はマイクがセッティングしたツアーだし、より日本という国を体験できていると思う」
マイク・ワット+ザ・ミッシングメン
マイク・ワット「LITEのおかげだよ。
fIREHOSE時代に知り合った人間が日本に移住して、LITEと仕事をするようになったのが縁で知り合ったんだ。ビジネスというより音楽に対する気持ちで結びついた、昔ながらの人との繋がり方さ。実際、今回のツアーは昔の感覚と呼応するところが多い。最初のツアーは3大都市だけだったけど、2008年にはLITEが本州をくまなくまわるツアーをセッティングしてくれて、14日間で14本のライヴをやった。そのとき初めて車に乗って日本各地を見ることができたんだ。そして、時間をかけてまわらなければ経験できないことを経験した。だから今回は本州以外の場所にも行きたかった。九州や四国もね。今回は俺の30年のキャリアで63回目のツアーで、精神的・感情的にとても重要なものだ。理由のひとつはリリースしたばかりのアルバム
『ハイフネーテッド・マン』をフォローするツアーだということで、今作はとても気に入ってるし歌うのも楽しいんだ。それから、日本が俺自身について大切なことを教えてくれたということにおいても大事なんだよ」
ルー・バーロウ「最初は正直あまり乗り気じゃなかったんだ。この5年ほどツアー続きで、家族との時間もとれなかったし。生後11ヵ月の息子と幼稚園に通い始めたばかりの5歳の娘もいるから、少なくとも1ヵ月は家にいたかった。だけどマイクは仲間だし、彼から受けた音楽的な影響も、自分がバンドをしていることへの影響も計り知れない……つまり、マイクが影響を受けたミュージシャンから受け継いだものを、今度は僕に引き継いでくれたわけ。バンドでプレイしたいという思いや自分でもできるという感覚なんかをね。そのマイクからのオファーを断るなんてできなかったよ。もちろん、また日本に来れるのも魅力だったし、ツアーのやり方にも同感できた。マイクは
ストゥージズ、僕は
ダイナソーJR.と、それなりに大きなバンドでツアーしてるけど、マイクも僕も、自分たちのルーツというか、原点に戻ることの大切さを意識してる。自分たちが今なぜ音楽をやっているか再確認するためにもね。だからマイクについていくことで、精神性を広げることができると思ったんだ」
――今回共演した日本のバンドについて、どんな印象を受けましたか?
ルー・バーロウ
ルー・バーロウ「昨日いっしょにやったドラマー2人のバンド……
ミスコーナー・ルークトーションだっけ? 彼らはよかった。日本のバンドにはいつも感心させられる。テクニックもあるし音楽の背景にあるパワーがすごいね」
マイク・ワット「ああ、規律もある」
ルー・バーロウ「トム・ワトソンがLITEの曲をiPodに入れてくれたんだけど、ランダム再生でLITEがかかると“なんだこの曲は!”って驚かされたよ。インストゥルメンタルとしては非常に抒情的だよね。ふだん歌なしの音楽はそんなに好きじゃないんだけど、LITEのライヴはとても興味深い。東京や大阪で対バンしたアイルランドのアドビシシャンクもスゴいバンドだけど、日本の
ボアダムスとか
メルトバナナの影響を感じたな」
マイク・ワット「日本のバンドはコピーだというステレオタイプなイメージがあるけれど、それは真実じゃない。彼らは自分自身の“声”を探そうとしているし、エネルギーに満ちていて、真っ直ぐだ。ひとつのチームでやっているという仲間意識も強いね。音楽とは織物のようなもので、人々を結びつけるけれど決して縛ることはない。日本のバンドを見ていると昔を思い出すよ」
――LITEとしては、このツアーについて、どんな意義を感じていますか?
LITE
武田信幸「アメリカ・ツアーに2回つれてってもらった時、マイクとしては“本当のアメリカを見せたい”と。だから逆にマイクが来る時には、本当の日本を見せてあげたい。マイクは“歌は舟みたいなものだ。違う場所に行って、曲を聴けば、そこから何かが広がっていく”と言うんですが、俺もそれにすごい賛同していて、マイクが来て何かを下ろしていったら、今度は俺たちが何かを持っていく。その繰り返しをすることで、日本人が思ってるアメリカ人とか、そういうイメージも変わっていく。これをお互い続けられる限り、ずっとやっていきたいですね」
――そうした経験を通じて、さらにLITEはスゴいバンドになってきたと思うのですが、自身でも実感できているのではないでしょうか?
武田信幸「間違いなくそうですね。いろんな国で演ることによって、やり方を覚えるというか。本番に持ってくテンションを、ただ本番を迎えるのではなく、マイクたちはこうやってる、こうやったらここまで高められるんだとか、そういうことを、このツアーにしてもすごい学べてるし、それが反映できてると思う」
――最後に、タフだとは思いますが、今回のようなツアーをまたやりたいですか?
マイク・ワット「本国ではもっとハードなツアーをやったこともある。73日間で71本、あと56本連続というのもあった。もうそれほど若くはないが、まだやれるよ。やる価値のあるツアーだしね。何回でも帰ってくるよ」
ルー・バーロウ「もちろん日本にはまた来たいし、もしマイクがインドやアフリカに行くと言い出してもついてくよ(笑)。まあ僕は、連日毎晩やるよりも、時々オフがほしいけどね!」
取材・文/鈴木喜之(2010年11月)