昨年、
ウリチパン郡が活動停止を発表したときは言葉にできないほどの無念さを感じたものだったが、ここに届いた
オオルタイチとしての新作ソロ
『Cosmic Coco,Singing for a Billion Imu's Hearty Pi』を聴いて、もう彼は次なるステージに進んでいることを確信した。ここには享楽と快楽に行く末を委ねたような現代社会のオプティミズムを象徴したような、ある種のキラキラとした質感の音を纏ったダンス・チューンが多数収録されている。ビートは限りなくジャストでスクエア、音は限りなくハイ・ファイ。メロディで聴かせるのではなく、感覚や本能に訴えかけるようなフィジカリティ。それはオオルタイチからの新たなポップ・ミュージックの在り方を提案するものなのかもしれない。
OOIOOの
OLAibi、ユザーンらも参加。間違いなくこのアルバムは2011年最初のマスター・ピースである。
――昨年、ウリチパン郡が活動停止となりましたが、その理由から教えてもらえますか?
オオルタイチ(以下、同)「まあ、メンバーみんな忙しくなってきたというのもあるし、いろんなことが重なったんです。バンドとしてはすごくいい感じにはなってきてたんですけどね、次のアルバムに向けて」
――ウリチパン郡のアルバム
『ジャイアント・クラブ』が高い評価を得たことによって、オオルタイチとしての活動にどのようなフィードバックがあったと言えますか?
「もともとオオルタイチのソロとしては制約とかを一切設けずに好きなことをやるというイメージでやっていたわけですけど、ウリチパン郡は最初にまず曲、それも歌モノの曲があるという状態だったわけです。割かし普通な感じで曲を作っていくようにしていたし、今後も自分の中で歌モノをやる可能性は他にもあるという感じで捉えているんですけど、オオルタイチとしてはそういうのに関係なく、とにかくいけるところまでいきたいという思いがありますね。本能的にやりたいことをポンポンやっていくというやり方は変えていかないと思いますし」
――ただ、私はかなり初期からオオルタイチとしてのライヴも見てきたし、これまでの活動の流れも追いかけてきているのですが、それでも、今回のアルバムはこれまでになく洗練されているしハイブリッドになっています。ただ本能のおもむくまま無作為に作った印象はないですよ。
「ああ、まあ、確かにウリチパン郡から受け取ったものもかなり反映されていると思いますね、今回のアルバムには。例えば、今回のアルバムの中で、一番最初にできた曲は<Futurelina>」なんですけど、それはもう3年くらい前のことなんですね。この曲ができた頃は、ウリチパン郡が忙しくてメンバーでスタジオで練習したりしているときだったんですけど、この頃にちょうど自分の好きなビートのタイプが変わったんです」」
――というと?
「僕はそれまでもっとルーズなビートとかリズムが好きだったんです。シャッフルとかスウィングみたいな。でも、ウリチパン郡でアンサンブルを合わせていると、そのユルさが気になるようになったんです。メトロノームを使ってリズムをビシッと合わせることをシビアにやったこともあって。そのときのジャストな感じがすごい気持ち良くて、そこから四つ打ちのようなスクエアな感じのビートの曲が増えていったんですね。自分自身、そういうビシバシなビートがすごく好きになっていって……そのタイミングで最初にできたのが<Futurelina>だったんですよ」
――それまでのリズムの指向に対して行き詰まりを感じていたというのもありました?
「それはなかったですね。というか、何も考えていなかったんです(笑)。イビツなビートを作ろうとずっと考えていたんですけど、その感覚がクリアになったというか、わかりやすくなっていったんですよね。ジャストなリズムの快感みたいなものが理解できるようになったって感じですね。好きではあったけど、自分がやることではないと思いこんでいたところもあったと思います。自分の世界観をそこにフィットさせるのが難しいかな?って思っていたというか。でも、<Futurelina>を作ってみて、これはいけるかな、と」」
――ジャストでスクエアなリズムを指向するようになったことで、作品には特有の華やかさというか、音がキラキラとした質感になったと思うんですよ。初期のちょっとロウ・ファイっぽさが後退して。
「ああ、そうですね! 音質とか肌触りとかに気を遣うようになったとは思います。洗練されたテクノとかって、音の質感だけでも持っていかれるじゃないですか。メロディで持っていかれるのとは違って、もっと生理的な感情で持っていく感じですよね。そこが気になるようになって。人の生理に訴えかけていくような音というか。そういうのを節々に入れたかったんだと思います。肉体性っていうんですかね? 実際、今回のアルバムはそういうキラキラとした感触とか生理に訴えかけるような肉体性というのがひとつのキーワードになっていると思うし」
――ある種の快楽性?
「そうです。あと、中毒性のある感じとかですよね。まあ、さっき言った、ウリチパン郡での活動が一つのきっかけではあったんですけど、あと
ダーティー・プロジェクターズのアルバムとかもすごく衝撃を受けて。あの人たちっていきなりリズムが飛ぶような感じでしょ? そこで感情どうこう関係なく違う次元に行ってしまうようなところがいいなと思えて。1曲通して起承転結があるような流れを作れるようなところとかもいいなあと思っていたんですけど、勢いでリズムを飛ばせるようなところがあってもいいなあって思ったり。僕自身、今はそういう意識で曲を作ったりもしているんです」
――なるほど。アルバムの中の「Coco」(OOIOOのOLAibiをフィーチュア)などはダーティー・プロジェクターズみたいですよね。
「ああ、そうですね。<Futurelina>もそうですけど、でも、自分としては何か新しいことをしようとか、新しいタイプの曲を作ろうと意気込んだ感じで作ったわけではなかったんです。<Futurelina>なんて、単純にニューヨークでライヴをするのに新しい曲があるといいなあ、とか考えて慌てて作ったみたいなところもあって(笑)。ただ、作ってみて、結果として、構成から自由になれたかな?という自覚はありましたね。感覚のレンジが広がったかな? というか。それは僕自身音楽に対する価値観の変化にも出てるんです。さっきの音質の話もそうですけど、例えば、トランス好きの若者が何も考えずにクラブで踊っているようなあのパワーやエネルギーを自分なりに取り込んで出せたら面白いんじゃないかな?とか(笑)」
――若さの輝き?
「ある意味でそうですよね。その一直線な感じってどこかで意識していたかもしれないです。それによって、僕は今まで自分の曲の重心を重くしていたんですけど、それが軽いけど高いテンションのまますごいとこまで行くことの面白さに気づいたんですよね。今までは自分とは縁がないと思っていたサウンドだったものが、自分にとってリアルになったんです」
――結果として、すごくオプティミスティックな作品になったと思うんですよ。現代社会のある種の快楽性、享楽性と直結させたような。
「それはありますよね。例えばライヴの対バンで
セバスチャンXとか
踊ってばかりの国とかと一緒になったことがあるんですけど、ああいう10代とか20代前半の連中を見てるとそのエネルギーやキラキラしたパワーってすごいな、いいな、と思うんですよ。確かにそれは今の社会の空気と結びついているのかもしれないですね。ま、僕もまだ決してオッサンというわけではないですけどね(笑)」
取材・文/岡村詩野(2010年12月)
<OORUTAICHI, Singing for a Japanese Pi Tour>
2月25日(金)@札幌 Spiritual Lounge
2月26日(土) @東京 SuperDeluxe
2月27日(日) @仙台 Club Shaft
3月4日(金)@金沢 ソーシャル
3月4日(土)@名古屋 アポロシアター
3月6日(日)@大阪 ブリーゼホール 小ホール
3月8日(火)@福岡 Voodoo Lounge
3月12日(土)@沖縄 groove