よく聴き知ってるはずのポップ・ミュージックなのに、テクやら知識やらを超えた領域で演奏されたとたん未知なる音楽に聴こえた、そんなことはないだろうか? その瞬間の気持ちは、例えるなら“恋”に似ているかもしれない。
少年ナイフを発見した瞬間の
サーストン・ムーアの気持ち。
スチャダラパーをはじめて目の当たりにした、
高木完の気持ち。そして、“
住所不定無職”を名乗る女の子3人組を見つけてしまった、この気持ち──に落とし前をつけるべく、中心人物であるユリナ(ギターとか)に結成から現在までの歩みを訊いてみた。
――他のメンバーをユリナさんが職安でナンパしたのがそもそもの始まりとのことですが。
ユリナ(以下、同)「はい、そうです」
――失職中じゃなければいまの住所不定無職は存在してなかったんですね。2人はよっぽど目立つ風体だったんですかね?
「なんかいいツラがまえだな〜と思いました。ふふふ」
――あ、顔なんだ(笑)。服装は?
「いや〜ダサかったですねー。ヨーコ(ギターとか)ちゃんはなんか“ギャル崩れ”な感じ。オシャレしたいのにお金ない、みたいな」
――失業中だしねえ。なんて声かけたんですか?
「なんだったかな……“フリマ行かない?”とか」
――音楽関係ないんだ(笑)。
「そうなんです。で、ホントにフリマ行ったんですよ、3人で明治公園に」
――住所不定無職の最初の活動は“フリマの客”だったんだ(笑)。
「“寒っ”とか言いながら、さほど盛り上がりもせず帰ってきて。ふふふ」
――普通に“友達できました”てなエピソードですよね、これ(笑)。で、それがなにゆえバンドになっていっちゃうんですかね?
「まず、ザ・ゾンビーズ子ちゃん(ギターとか)が音楽すごく好きなんですよ」
――うん、その名前から察せられるところはたくさんありますねえ。
――おぉ! いわゆるロックンロール・エリートの基本じゃないですか。
「でも私、そんなの全然分かんなくて、“いつも言ってるそれ聴かせてよ”って言ったらCD持ってきてくれるようになって。日本人だと
大瀧詠一とか」
――ホントにマニアなんですね。
「そうなんです。そんな感じで聴いてるうちに、ムズムズしてきちゃって」
――お、いよいよですね!
「“ジャカジャーン!”ってデッカい音でギター鳴らしたいね、って話になるんです。うふふ」
――ようやくスタジオ入りだ。曲はどうしたんです?
「スリーコードのロックンロールみたい感じでザ・ゾンビーズ子ちゃんがやってるのを真似して。私たちはコードも分からないんで、パワー・コードを教えてもらって。“とりあえずこことここを押さえてればジャカジャーン!って鳴るから”みたいな」
――で、どうでした?
「気持ちよかったです。サイコー」
――ギター、ベース、ドラムでやったんですか?
「いえ、ギター×2とドラムで。そもそもベースという概念がないし。ドラムはスタジオにあるじゃないですか? だからホント、ギターをデカい音で鳴らしてあとは叫んでただけ、みたいな」
――ホントに“ジャカジャーン!”が最初かつ最大のモチベーションなんですね。
「そうなんです。家ではアンプにつないで大きい音出せないし」
――で、だんだんと人前で演奏したい、という欲が出てくるわけですね?
「ていうか、もっとデカい音の“ジャカジャーン!”があるんじゃないか? ……あ、ライヴか!と」
――ブレてないなあ(笑)。
「今はホールとかもっとデカいところでやりたいとちょっと思ってるんですけど、それはもっとデカい“ジャカジャーン!”が出るんじゃないか?というだけで。うふふ」
――たぶん、ていうかぜったい出ますよデカい音(笑)。最初のライヴはどうでした?
「平日だったからお客さん全然いなくて。来てくれた友達も苦虫を噛み潰したような顔で帰っていきました(苦笑)」
――どんなレパートリ−だったんですか?
「超ハードコアというかメロディもなくてただ叫んでる曲を7曲くらいやって15分、みたいな感じ」
――それはそれで(笑)。そこからどうやって今のポップな感じになってきたんでしょうか。
「1stアルバム(10年3月5日リリースの
『ベイビー!キミのビートルズはボク!!』)に<I wanna be your BEATLES>って曲があるんですけど、ザ・ゾンビーズ子ちゃんが曲を作ってきて、これは<I wanna be your BEATLES>って曲なんだけど歌詞作って、って言われて。私、
ビートルズのこと何も知らなかったんだけど。それがはじめてできたメロディのある曲でした」
――ビートルズに対する愛情の差を感じるエピソードですね。でもすごくビートルズな歌になってるのがすごいよなあ……。ところで、住所不定無職はバンドマンからの評価が高いですが、すごく分かる気がするんです。ギターウルフのセイジさんにもホメられたとか。 「セイジさんには人づてに1stを渡していただいてたんです。で、あるイベントの楽屋に連れてってもらったとき、セイジさんがいて。“住所不定無職です”って挨拶したら、“聴いたよ! 1曲目だけよかった! あとはダメだな! 2曲目から気ぃ抜いただろ!?”って言われて。うふふ」
――あらら(笑)。
「2曲目がいちばんおいしい<I wanna be your BEATLES>だったのに(泣)。……そうかあ、と思いました。ふふふ」
――らしいエピソードですね(笑)。
「その後、同じギターウルフのU.Gさんに会ったら“セイジさんが1曲目だけいいって言ってたバンドでしょ?”って言われました(笑)」
――あー、セイジさんはちゃんと聴いて、ホントにそう思って、周囲にも「1曲だけいいバンドがいる」って言ってるんだろうなあ。いい話だ(笑)……で、そんなこんなで新作『JAKAJAAAAAN!!!!!』が出たわけですが。 「はい、出ました」
――聴かせていただいて、ちょいと大げさかもしれませんが、ここには50年代から現代まで培われた“ロックンロール”と呼ぶにふさわしい音楽の幅がきちんと描かれてると思いました。リズムやメロディも含めて。
「あー、そうですか。ありがとうございます」
――いわゆるギャルバンにありがちなマッチョイズムというか“男なんかにゃ負けないわ”な匂いが皆無なのも素晴らしいと思います。
「“男なんかに負けない”なんて思ったこと一回もないです。それよりも、可愛いと思われたい。うふふふ」
――正直だ(笑)。女芸人もそうですけど、バンドをやってる女子って“モテ”を諦めてる人が多い印象ですけどね。
「そうなんですよ! 一緒にライヴやる人から敵対心をもって“チャラチャラしちゃって!”みたいに見られることもあるんですけど……ねえ? でも可愛いって思われたいじゃないですか! かっこいい!なんて思われなくていいんです。可愛いだけでいいんです! ふふふ」
――ハロプロとか本気で好きなんですよね、ユリナさん。アイドル好きな人ならではの発言です。彼氏が欲しいとか結婚したいとかじゃなく、ただただチヤホヤされたい欲のみだと。
「ジャケットとか見て“推しメン”とかでワイワイしてほしい! せーのでタイプのコ指差そうぜ、みたいな」
――ロックンロールだなあ(笑)。
取材・文/フミヤマウチ(2010年12月)