――まずは、女性アーティストをフィーチャーしたカヴァー・アルバム『全て光』を制作したきっかけから聞かせてください。
川辺ヒロシ(以下、川辺)「
HALCALIとの<今夜はブギー・バック>の流れでスタッフから話があって、フッと全曲女性ヴォーカルでやるってアイディアが浮かんだんです。同時に、女の人にオレらが踏んずけられてる絵ヅラも見えて(笑)」
渡辺俊美(以下、渡辺)「それ面白いし、どうせやるならどっぷりやろうかってやることにしたんです」
――フィーチャリングの人選はどうやって決めたんですか。
川辺「いろいろ候補を挙げたけど、結果的に知ってる人だけになりましたね(笑)」
BIKKE(以下、BIKKE)「ツイッターで
レディー・ガガにも日本語でオファーしたけど返信なかったです(笑)。でも、コラボレーションでアルバムを作るというアイディアはおもしろいと思いました。今まで僕たち、他人を寄せつけないような印象を持たれていたんで(笑)。20周年ライヴでも、
スチャダラパーはいろんな人が出てきたけど、オレらは、
かせきさいだぁ≡くらい(笑)。20周年だし、いろんな人と交流するすごくいい機会だなと思いましたね」
――選曲はソウルセットらしいですね。まさか2011年に、ちあきなおみさんや淡谷のり子さんの曲を、ドリーミーなチルアウト・チューンとして聴けるとは思いませんでした(笑)。 川辺「基本的には好きな曲で、よくありがちなものはやりたくなかったですね。ちあきなおみさんの<星影の小径>は僕のスローなDJミックスに入れたりしてて、最初からやろうと思ってて。真木(よう子)さんは偶然会って軽く誘ったら“やりたい”っていってくれてラッキーだった(笑)。真木さんの声の存在感はすごかった。淡谷(のり子)先生の<聞かせてよ愛の言葉を>も好きな曲だったし、淡谷先生のあの慈悲深い説得力を出せるのはキョンキョンしかいないって小泉(今日子)さんにお願いしたんです」
――EGO-WRAPPIN'の中納良恵さんが歌う、八神純子さんの「みずいろの雨」は原曲を豪華にパワーアップした感じになっていたりと、アレンジの解釈がすごく独特ですね。
川辺「カヴァーはやっぱりそこがキモだし、そういう作業は得意なんでね。そのまんまやったって、何やりたいんだってことでしょ(笑)」
――確かに(笑)。実際の制作はどう進めたんですか。
川辺「大体は、全然違うアレンジで歌ってもらって、声の素材だけもらってリミックスしていったんです。<接吻>は、最初きれいなピアノ・ハウスで紗羅マリーちゃんに歌ってもらったけど、1からトラック作り直して」」
――完全にダークなニューウェイヴ「接吻」になってますよ(笑)。
川辺「まったく違うテイストにしないと、
田島(貴男)さんにも失礼でしょ。でも、<接吻>は曲が完璧で作るのが一番大変だった。ディストーションのギター・リフが浮かんだのも事故ですよ(笑)。何も進まなくて帰ろうってときに、俊美くんがメチャクチャに弾いたギターのフレーズを聴いて“それだ!”って。それまでの作業を全部やめて作り直したんです」
――あと、BIKKEさんの語りですが、原曲に対して言葉を書き足す作業は新鮮だったんじゃないですか。
BIKKE「初めから共同で歌詞を作るのと違うし、すごく難しかったですね。あと今回、僕は、とりあえず語りを入れても最終的に無くなるかもってくらいのポジションだったんです(笑)。細かいことは気にしないんで、一切入ってなくてもいいとも思ったくらいで」
渡辺「でもBIKKEが入ったのを聴くとスゲーいいし、これで決まりだって思えましたね」
――やっぱりBIKKEさんの声が入るとソウルセットになるし、カヴァー以上の作品になるなと実感しましたね。あと、2曲のセルフ・カヴァーもガラリと雰囲気が変わって新鮮です。原田郁子さんの歌う「全て光」は、メロウかつビートの立ったミッド・チューンになってますね。
川辺「この曲だけ郁子ちゃんとセッションして鍵盤弾いてもらって、その素材を元にループを組んでいったんです」
渡辺「99年くらいにデモを作った当時は何やってもダメで。それをちょっといじって
『OUTSET』というアルバムに入れたんだけど。それががらっと変わってビックリした。郁子ちゃんがいたからこそ、このアレンジになったし、このリズムにもなったんです」
――土岐麻子さんが歌う「Sunday」は、ソリッドなロック・チューンに変身してます。 渡辺「去年、土岐さんのアルバムに僕が楽曲提供して、声もいいし、レコーディングも明るく楽しくできたので、今回、土岐さんにオファーしたんです。初めて立ってギターを録音したんですけど、勢いがあるテイクになってよかったなと思います」
――それと、小島麻由美さんをフィーチャーした、レゲエ・クラシック、デボラ・グラスゴーの「Champion Lover」が、エレクトロニックなダンス・チューンに大変身してて衝撃でした。 川辺「最初レゲエっぽくしようとしてたけど、小島さんが歌うことになって思い切って全然違うキッチュな感じにしたんです。これができたことで、アルバムの意味合いがちょっと変わったと思うな」
――ブッ壊して再構築する感じがたまらないですね。
渡辺「昔からオレらを知ってる人はみんな喜んでくれます(笑)。この曲もそうだけど、当時はできなかったけど今だからできるっていうのはありますね」
BIKKE「それはホントたくさんある。まさかORIGINAL LOVEの<接吻>をやるなんて、近すぎる人だし昔は考えもしなかった。<ブギー・バック>だってそうだしね」
――そこに、20年やってきた強みを感じますね。さらにDISC-2には、昨年の日比谷野音での20周年ライヴが収録されてます。緻密に作られたスタジオ盤と対照的な、生々しく荒々しいソウルセットが聴けますね。
川辺「音源でしか知らない人って、こんなハードにライヴをやってるとは想像してないと思うんですよ。なので、興味を持ってくれたらライヴにも足を運んでくださいって意味も込めてライヴ音源を入れたかったんです」
――まさに『全て光』は、ソウルセットのふたつの魅力が詰まった作品ですね。では、新作が完成しての感想を聞かせてください。
渡辺「やっぱり、他のバンドにはできないことをやったなって感じがする。だからウチらは20年続いたのかも。それと同時に、これからの可能性も見えてきましたね。あと、下の世代にも、こういうのやりたいと思わせるアルバムを作れたなって印象はあります」
BIKKE「ソウルセットの活動のひとつに、こういう場ができたのはよかったと思ってますね。僕がそんなに携わってなくてもソウルセットだってものができたのはすごくいいなって」
――あと、今回のカヴァーを通じて、“こんないい曲があるよ”って紹介しているような側面もありますよね。
川辺「もちろん。淡谷先生や、ちあきなおみも聴いた方がいいよって。今回のアルバムはオッサン世代も聴けたりするんじゃないかな」
――実は、すごくキャパの広い作品でもあると。
川辺「うん。場末のスナックで、これかかってもいいんじゃない(笑)」
取材・文/土屋恵介(2011年2月)