昨年9月にリリースされた5thアルバム
『JAPANESE POP』が音楽専門誌などできわめて高い評価を獲得、稀代のポップス・クリエイターとしての存在感を改めて示した
安藤裕子。2011年最初の音源となる
『大人のまじめなカバーシリーズ』も、単なるカヴァー・アルバムの枠を超え、安藤裕子によるポップス集として堪能できる作品に仕上がっている。「君に、胸キュン」(
YMO)、「僕らが旅に出る理由」(
小沢健二)、「セシルはセシル」(
早瀬優香子)といった既発曲に加え、池田貴史をフィーチャーした「林檎殺人事件」(
郷ひろみ&
樹木希林 / PVにはなんと、希林さん自身も出演!)、「ジ・アザー・サイド・オブ・ライフ」(
樋口康雄)、「松田の子守唄」(
サザンオールスターズ)、さらに「ワールズエンド・スーパーノヴァ」のライヴ音源もボーナス・トラックとして収録。奔放な遊び心と洗練されたアレンジメント、オリジナル・アルバム以上に多彩な表情を感じさせてくれる歌をたっぷりと楽しんでほしい。
――『大人のまじめなカバーシリーズ』というタイトルをつけた理由は?
安藤裕子(以下、同) 「いつも真剣にふざけてやってきた作業だからです。かしこまらないけど、全力で遊ぶっていう」
――収録曲の大半は70年代終わり〜80年代の真ん中あたりの楽曲ですが、この時代の音楽に対する印象は?
「たまたま思い出も趣向も合ったんだと思います。DNAが好きーってなる感じかな」
――「ジ・アザー・サイド・オブ・ライフ」(樋口康雄)、「松田の子守唄」(サザンオールスターズ)はちょっと意外な選曲でした。
「ピコ(樋口康雄氏の愛称)はファンなんです。だから。この曲は歌いやすいし、歌いたかった。<松田の子守唄>は幼い頃に親の車でかかってたんだと思う。この曲だけ強く覚えていましたね」
――“歌うことになるまで知らなかった”という曲があれば、教えてもらえますか。
「
くるりの<ワールズエンド・スーパーノヴァ>かな。たぶん聴き知っていたとは思うんだけど、認識はしてなかった。ディレクターがかっこいいからやろうって聴かせてくれて、最初はふーんって思ってたんだけど、ライヴ映像を観たときにギターの人のストイックなワウにぐっときたんだ。“ああ、この曲は無骨なまでの男くささというか、人間があるんだ”って思って。だから私がカヴァーするんでも、リズム隊とギターだけはちゃんと男らしくしたくて、上もの(リズム・セクション以外の楽器)は私らしく、混沌とした弦楽器が迷走してるみたいにしたかった。男らしさとか無骨さは結果、音にはならなかったなと思うけど」
――「林檎殺人事件(feat.池田貴史)」のPVには希林さんが出演してますね。希林さんが出演することになった経緯は?
「勢いです(笑)。池ちゃんとふざけたかっただけだけど(笑)。“一瞬、樹木希林さん出て来たらいいのにねええ”って言ってたら、本当に出てくれることになって、“言ってみるもんだねえ”ってなった。希林さんには人生のかっこいい生き方をちょっと教えてもらえた気がするし、話してくれたことは人の悪口もたくさんだから教えられない(笑)」
――「ワールズエンド・スーパーノヴァ」のライヴ・バージョンも印象的でした。実際、ライヴでもとても大きな役割を果たしていたように思いますが、ステージで歌ったときの手ごたえはどんな感じでしたか?
「<ワールズエンド〜>は本当にライヴでやれてよかったです。甥っ子もほめてくれたし(笑)。私が作る曲はいつも歌ものだからバンドというか楽器があまり主役になれない。今回のツアーではちゃんと楽器が歌えるシチュエーションが欲しいって思ってて、この曲をカヴァーするって決めたときに絶対ライヴでも歌おうと思った。バンドになれる瞬間をくれたと思います」
――“これは難しかったな”と“これは楽しかったな”という曲はどれでしょう? レコーディング時の思い出も含めて教えてください。
「<松田の子守唄>の歌入れはなんか難しかった。エンジニアさんも初めてだったから緊張したのかな? マイクとかヘッドホンもあるかもしれないけど。楽しかったのは<君に、胸キュン>。モッサン(作・編曲/キーボードの山本隆二氏)もアンディ(ディレクター・安藤雄司氏)も歌ってくれたから楽しくって、大嫌いなコーラス録りも楽しく出来た。キュンキュンコーラス隊といいます。ベースの沖山もキュンって言ってくれました」
――カヴァーすることで、安藤さんのヴォーカルや作風にどんな影響がありましたか?
「勉強には絶対なったと思う。幅を広げることとか、自分の音楽だけでは殻を破るのが億劫になるので」
――“カバーシリーズ”とういことは、今後も続くのでしょうか?
「(曲に)出会えば、引き続き歌いたいですね」
取材・文/森 朋之(2011年2月)