宝塚歌劇団の雪組で“神月 茜”として男役で活躍。退団後、
シェイクスピアと声楽を学ぶために渡英、2009年にシンフォニック・メタル・プロジェクト
“LIV MOON”を立ち上げて メジャー・デビュー。一見、異色のキャリアにも感じられるが、2ndアルバム
『GOLDEN MOON』を聴けば、その音楽性がきわめて高い必然性によって成立していることがわかるはずだ。正統派へヴィメタルを基調としながら、オペラ、クラシックの素養を十分に発揮しつつ、シアトリカルな要素も取り入れる。そう、LIV MOONの世界観はそのまま、AKANE LIV本人の軌跡と才能にしっかり重なっているのだ。
――まず、LIV MOON立ち上げの経緯を教えてもらえますか?
AKANE LIV(以下、同) 「プロデューサーの
西脇(辰弥)さんの楽曲をいくつか歌わせてもらったとき、いちばん自分の声質を生かせたのが、こういうジャンルの曲だったんです。もともとメタルに詳しかったわけではないですけど、イギリスにいたときに
ナイトウィッシュ(女性ヴォーカリストを擁するフィンランドのシンフォニック・メタル・バンド)が歌う“オペラ座の怪人”を聴いて、“こういう強い歌い方もあるんだ”って興味を持っていたし。あとはシアトルカルな表現を含む音楽だから、宝塚での経験も生かせると思ったんですよね」
――なるほど、すごく自然な流れですね。
「はい、そう思います。“メタル畑はどうですか?”って聞かれることがあるんですけど、ライヴのときに“LIV!”って声をかけてもらえるのも新鮮だし、すごく肌に合ってますね。最初はわからない用語とかもあったんですけどね(笑)」
――速弾きのギター・ソロ、ハイトーンのシャウトなど、メタルの様式美といわれる部分についてはどうですか?
「すごく面白いですね。ヴォーカルに関しても、自分の持ってるものをすごく生かせるんですよ。宝塚では男役だったから、低音を使うことが多かったんです。高音で歌えないフラストレーションは家で声を張り上げることで解消してたんですけど(笑)、LIV MOONではそういう部分も出せるし。1stアルバム(
『DOUBLE MOON』)のときは“どういうのがメタルっぽいんだろう?”って探ってたところもあったし、いろんな声質を試してみたんです。今回は自分本来の声を中心にしながら、他の声質はエッセンスとして使ってる感じですね」
――音楽的な方向性については?
「まず、メタル・サウンドをさらに強調しようと思ってたんです。高速のナンバーも増えているし、
大村(孝佳)さんの超絶技巧によるギター・ソロもすごいし。同時にLIV MOONならではのシアトリカルな部分も表現してますね。それがいちばん出ているのが“バレリーナ・シンフォニー”。オペラ・ロックの要素もあるし、“ライヴでは踊りを組み込みたい”と思って、間奏を長くしてもらったり。あとは
バッハや
リストなど、クラシックをモチーフにした楽曲もあります」
――“孤高のダーク・ミューズ、誕生”をテーマにしたストーリー性も印象的でした。ご自身もいくつか歌詞を書いてますね。
「3曲書かせてもらいました。<命の森>では、去年の10月にスウェーデンに行ったときのことが反映されてますね。小学校2年までスウェーデンで育ったこともあって、すごくいろんなことを感じたんです。雪だったり、森だったり」
――北欧って、シンフォニック・メタルがすごく浸透してる土地だし。
「そうなんですよ。スウェーデンって本当に静かだし、アミューズメントも少ない。へヴィな音楽を聴きたくなるのも、すごくわかります」
――「NOT GAME!」のような、激しくてセクシーな世界観もカッコいいですね。
「曲を聴いた瞬間、すぐにイメージが沸いてきたんですよ。男女のドロドロした感じというか、こういうものも私のなかに渦巻いているので(笑)。それぞれの楽曲に物語があるし、そのうち、LIV MOONの楽曲だけでゴシック・ミュージカルができるかも。いろんなキャラクターを演じるのも楽しいんですよね。普段は恥ずかしがりなんですけど、音楽の世界が誘ってくれるというか」
――ライヴのスタイルを含め、大きな可能性を持ったプロジェクトですよね、ホントに。
「メタル・ファンの方たちにも満足してもらえると思うし、女性の方にも楽しんでもらえるんじゃないかなって。世界にもどんどん出て行きたいし、やりたいことはホントにたくさんありますね」
取材・文/森 朋之(2011年2月)