“全てをチャラにしてもう一度音楽をやり直そう”――初来日を果たした伝説的ハーピスト、ルー・ルイスに聴く

ルー・ルイス   2011/03/29掲載
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“全てをチャラにしてもう一度音楽をやり直そう”――初来日を果たした伝説的ハーピスト、ルー・ルイスに聴く
 英パブ・ロック界の生きる伝説、ルー・ルイスが、東日本大震災直後の3月18日から22日にかけて初来日公演を行なった。この時期のジャパン・ツアーに否定的な意見を述べる向きもあるとは思う。だが、「10代からの付き合い」だという元ドクター・フィールグッドのスパーコ(b)らをバックにしたルーの歌が、そしてブルースハープが、沈んだ心に新たなロック魂を注入したこともまた事実だ。屈指の名盤にして唯一のアルバム『セイヴ・ザ・ウェイル』(79年)を発表した前後に比べ、それ以降は犯罪に手を染めたり私生活での問題がたたったりで散発的な活動に甘んじ、時にもう復活することはないんじゃないかとさえ思われていたルー。だが今回の来日では、かつての荒々しさを円熟味に昇華。さらにはブランニューな意気込みに溢れ、今後の活躍を期待させた。
――まずは、震災や原発事故などで大変な時期に日本に来てくれたことに感謝します。あなたのパフォーマンスに触れることで、ロックンロールにパワーをもらった気がします。


 「そのためにイギリスから来たんだ。“今は行くな!”ってあまりに反対されるものだから、“だったらどんな状況かを見てくる”って言ってきたよ(笑)」
――あなたが久びさに音楽活動を再開したという情報を得たのは、2010年6月のことでした。きっかけは何だったんですか?
 「俺はしばらく道を踏み外していたからね(笑)。とはいえ、つねに心のどこかに音楽はあったんだ。自分は音楽をやっていなければならないんだってね。そんな中、これまでの行ないを全てチャラにしてもう一度音楽をやり直そうと思ったのが、2010年のあのタイミングだったんだ」
――なるほど。来日公演では「ラッキー・セヴン」「ミスター・バーテンダー」といった代表曲はもちろん、ブルース・クラシックの「マイ・ベイブ」「リトル・レッド・ルースター」、さらにはドクター・フィールグッドの「ゴーイン・バック・ホーム」「ダウン・アット・ザ・ドクターズ」なんかもプレイしてましたよね。
 「まあ、自分の曲を演るのは当然として、バンドにドクターのメンバーがいるんだから彼らの曲もやることになるよね。それに自分たちの好きなブルース・ナンバーも入れてっていうふうに、セットリストは自然に決まっていったよ。“この曲どうだい?”“いいね”。それで試しにプレイしてみて“OK!”。そんな感じでね」
――ドクターの曲をプレイしたのは、故リー・ブリローに対して敬意を表してのこととも思ったのですが、どうなんでしょう?
 「そうだね。たしかに、リーと出会わなかったら自分は今、ここにいなかったと思う。とにかくユニークなヤツで、それこそ一時は親友だった。14歳の頃にブルースハープで路上パフォーマンスみたいな事をやっていた時に、リーがその前を通りかかったのが出会いなんだ。それで“いいブルースを吹いているじゃないか”と声をかけられて“こんな曲が好きだ”といった話をするうちに、リーが当時やっていたバンド(サウスサイド・ジャグ・バンド。そのバンドにはスパーコも在籍)に参加することになったんだ」
――14歳でハープを吹いていたということは、まさか音楽体験もいきなりブルースからですか?
 「そうなんだ。ブルースを聴いた途端に虜になってしまったからね。だけど、当時はブルースのレコードなんて特別な店に行かないと手に入らないものだったろ。そんな時もリーが『BLUES UNLIMITED』っていう雑誌を貸してくれたりと、ブルースへの仲介役になってくれたんだ。実際、あの雑誌は大きな情報源になったからね」
――ちなみに、ハープはすぐにマスターできました?
 「ああ。6週間も練習すれば、ブルースは吹けるようになるんだ(笑)。ハープを始めたきっかけは、(イギリス東部)バジルドン時代の知り合いにブルースのレコードをたくさん持っているヤツがいて。そいつのコレクションを聴くうちに、自分が楽器をやるとしてハープぐらいは買えるだろうと思ったからなんだ(笑)。その後カムデンに出て来る際も音楽の友としてハープをポケットに入れてきたわけだけど、最初に手に入れた時は隣町の楽器屋まで買いに行ったんだ。そうしたら馬鹿みたいにタバコまで買ってしまったから、帰りはハープとタバコを交互に吸いながら、線路沿いに歩くはめになったんだ」
――ハハハハ(笑)。ライヴの次はどうしても新録音源を期待してしまいます。スタジオ入りの予定はないのでしょうか?
 「ロンドンに戻り次第、EPの制作にかかるつもりだよ。〈マイ・ベイブ〉なんかが入る予定で、場合によってはEPサイズより曲数が増えるかもしれない」
――往年の尖ったエモーションが息づくサウンドももちろん好きですが、酸いも甘いも噛み分けた今だからこその音世界を期待しています。
 「自分自身でもそう思っていて、どんなものが仕上がるのか興味津々なんだ。今はレコーディングが楽しみでしょうがないよ」
取材・文/兒玉常利(2011年3月)
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