10枚目のオリジナル・アルバム
『Now Playing』をリリースする
露崎春女。“BACK TO‘80s〜EARLY‘90s”をキーワードに、
Nao’ymtや
BACHLOGICら国内で活躍するトップ・プロデューサーらが参加した今作。自らもシンガーとしてだけでなくクリエイターとしての実力も存分に発揮して新たなR&Bサウンドを提示している。2月に先行配信されたDigital EP「Sacrifice」はiTunes R&B/ソウルALチャート1位を獲得するなど、好調な彼女に新作を語ってもらった。
――2008年にベスト盤を出されて、今回はレコード会社移籍後の第一弾アルバム。すごくフレッシュな再スタートが聴こえてきましたが、どんな制作になりましたか?
露崎春女(以下同) 「今までは自分が唄うためだけに作詞・作曲をしてきたんですけど。この2年間で自分以外のアーティストの方に曲を提供したりプロデュースをしたこともあって、今回の作品は自分のことも客観的な目線をもって作ることができました。周りの環境もフレッシュだし、今からデビューするアーティストをプロデュースするみたいな感覚。それにクリエイターも初めて一緒に組む方が多かったので、おのずと新しい音になりました」
――多彩なプロデューサーや作家陣が参加されていますが、どういう人選だったんでしょう?
「最初のテーマとして80年代〜90年代の初めとか、自分が一番多感な時期に聴いてた頃の音楽を全面に押し出して行こうっていうのがあって。今のR&Bの流れを見ていても、いろんなものがミックスされてるんですよね。ロックも入ってれば、ソウルやテクノみたいなのも入ってる。ほんとにゴチャ混ぜな感じが、私のルーツや今の気分にも丁度リンクして。それを実現できる人たちをスタッフに紹介してもらったり、音を聴かせてもらったり、とりあえず一緒にデモを作るところから始めてみたり、といった感じでした。だから曲が来るまではドキドキでしたし、全然違うイメージで仕上がってきて、“でもすごいカッコイイ!”とか嬉しいハプニングもありつつ(笑)」
――キャリアが長いと、もちろん色んなこだわりもあると思うんですが、新しい方との作業を柔軟に対応できた感じですか?
「そうなんですよ、その辺も客観的なもう一人の自分がいたからかも。“露崎さん、この歌はキーをもうちょっと高くした方がいいと思うよ?”っていうプロデューサーの自分がいて、“ええーっ!?”って思うシンガーの自分もいるんだけど、“あ、意外といいね”ってなったり。“露崎さん、この歌詞書くのは無理でしょう?”って判断するのも早くなって“じゃあ、誰かに書いてもらいましょう”っていうようなやり取りを自分の中でしてました。おっしゃる通り、“私はコレ!”っていうのは、もうあるんですよね。その上で“露崎さん、そこからもうちょっと広げたって面白いんじゃない?”っていう感覚で作ったので、すごく遊びの幅が広がりました」
――露崎春女というアーティストに対して、やはりシンガーというイメージがみなさん強いと思うんですが。ご自身の中でシンガーとしての自分、クリエイターとしての自分というのはどういう比重なんですか。
「もうシンガーとしての自分への比重が危ういぐらい(笑)、今は作ることも好きです。デビューした頃はほんとに“唄いたい、唄いたい!”って気持ちだったんですけど、与えられた環境的にも“曲を書け、書け!”っていう感じでしたので。いきなりロサンゼルスでレコーディングして、英語も喋れないのに初めて会ったプロデューサーと曲作りしたり、そういう作業が当たり前だったので。でもずっと“自分はシンガーだ”っていう思い込みが強くて、もちろん今もそう思ってるんですけど。最近はやっと、自分で作った曲がこれだけあるんだから、全部自分のために取っておくのはもったいない、気に入ってくれる人がいるんだったら提供したいって思うようになり、そういうところから作家としての意識が高まった気がします。だから今回のアルバムでも、自分が唄うことをあまり意識せず、ただ作家として面白くて素敵な作品になるように、という気持ちで作った曲が多いんです」
――ご自身のキャリアにおいて、すごく自然な流れだったんでしょうね。
「そうですね。実は私は最初に音楽をやりたいと思ったのは小学生の頃だったんですけど、シンガーになるなんて思ってなかったんですよ。ただ楽器がやりたくてギターを弾いたりサックスを吹いたり、ドラムを特にやってたんですけど。だからどちらかと言うとツアーを回るミュージシャンになりたかったし、アレンジするのが好きで。だけどゴズペルを聴いてから唄になっちゃってね(笑)。だから実は、もともと好きだったけど封印してたものを今思い切りやってる感じです」
――そういうタイミングで思春期に聴いてた80〜90年代初めのサウンドをテーマにするのもまた必然だったんでしょうね。
「ほんとそうですね。ちょっと前だと80‘sだってダサいイメージだったのが、今は若手のクリエイターたちがサンプリングして逆に新しい感じにしてたりしてますしね」
――歌詞も語感を生かした、全体的にグルーヴィでフロア対応のナンバーが多いですね。最近はダンスもされてるとか?
「そうなんですよ。そんなにバシバシ踊れないんですけど、最近ダンスを初めて。“何で今まで踊らなかったんだろう?”って。昔からクラブ通いしてたようなタイプじゃないのに、自分から出てくる曲や好きな音が、そういう曲ばかりなんですよね。こういうアルバム作っちゃったし、踊っとかないとマズいだろうっていう感じです(笑)」
取材・文/上野三樹(2011年3月)