2010年5月に
『10'S』、11月に
『オカモトズに夢中』と、短期間で立て続けにアルバムをリリースしてきたロック・バンド、
OKAMOTO'Sがニュー・アルバム
『欲望』をドロップ! ロック・ファミリーツリー上では最年少グループに位置づけられる彼らだが、そこにあまり意味はない! なぜならOKAMOTO'Sにはさまざまなロックン・レジェンズが成し遂げてきたあんなことこんなことがちゃんと宿っているから。ロック・エリートとしてのオタク気質も正しく備えたOKAMOTO'S、CDジャーナルweb初登場!
――3枚目のアルバムというのは意識しましたか?。
オカモトショウ(vo / 以下ショウ) 「そうですね。『10'S』から3部作っていう意識がすごく強かったんです」
――そういえば3作ともフォーマットは統一性がありますね。
ハマ・オカモト(b / 以下ハマ) 「そうですね、カヴァーは3曲入れるっていうコンセプトで」
オカモトコウキ(g / 以下コウキ) 「最初の3枚は1年以内という短い期間で出していって、ホップ・ステップ・ジャンプでどんどん飛躍できればいいなっていう意図があったんです。だから、最初の予定通り三部作をきちんと完結させる、みたいな意識はありましたね」
――ところでライヴとレコーディング、どちらが好きですか?
オカモトレイジ(ds / 以下レイジ) 「どっちも好きですねえ」
ショウ 「嫌いだったワケじゃないですけど、最近、レコーディングも好きになってきたって感じです。やっぱりライヴ・バンドっていう自覚もあったし、同級生で組んだこのOKAMOTO'Sは、もともと文化祭のライヴをやるために結成されたバンドだし、レコーディングをするっていう行為がどこか他人事だったんですよね、最初は」
――“デカい音出してえ!”みたいな初期衝動が強かったんですね。
ショウ 「アルバムを作っていくうちに、単純にレコーディングに慣れてきた部分もあって、自分の欲しい音を手に入れる方法が分かってきて、レコーディングもライヴと同じくらい楽しくなってきたという感覚ですかね」
ハマ 「やれることが増えてくると、やっぱり面白くなってきますよね」
――基本的なレコーディング方法は?
レイジ 「基本的には全員でせーの!で一発録りです」
ショウ 「一発録りがOKAMOTO’Sの基本スタイルです」
レイジ 「ただ今回初めて、<Give It Away>(
レッド・ホット・チリペッパーズのカヴァー)はバラバラで録りましたね。映画の中でレッチリがそうしてたから」
――あ! そういうことをやってみるバンドなわけですね(笑)。
レイジ 「俺らホントにめちゃくちゃレッチリが好きなんで、せっかく演るんならど真ん中やろうよ、全世界のレッチリファンに納得させられる完成度でやろうって。それでここに何の音が入ってる?とかめちゃくちゃ研究して。逆再生のギター・ソロを通常再生で耳コピしてそれを逆再生にして入れたり、終わり際に入ってる
ジョン・フルシアンテのなんの音か分からないノイズみたいに“ピュー!”って入ってる音を解明したりとか……そういう研究家みたいな作業をやってました」
――でもその作業、ドーパミン出るくらい楽しかったでしょ?
レイジ 「すごく楽しかったですねえ!」
ハマ 「やっぱりオタクなんで」
レイジ 「もう同好会ですね」
――いや、ロックンはオタクじゃなきゃできないですよ! 『Nuggets』『Pebbles』(共にガレージ・ロックのコンピレーション・シリーズ)みたいなものって他にはちょっとないですし。
ハマ 「しかもそれがずっと売られてるってことはそういうオタクみたいなヤツがいっぱいいるってことですもんね……でもこの<Give It Away>の完成度は、自分たちのオタク気質もそうなんですけど、ある意味、YouTubeとかで“コピーしました” “弾いてみました”って程度でやってる世の中への提示というか、いやいやそんなレベルじゃないでしょ!っていうのをきちんとアルバムとして出すという側面もあって」
レイジ 「“オタクが<Give It Away>演ってみた”って感じですよね(一同笑)。ただ、<Give It Away>をコピーしてまんま演るだけじゃオタクで終わっちゃうじゃないですか。でもショウのヴォーカルだけは彼オリジナルの感じでやってもらったからカッコよくなったと思うんですよね。俺らの色も出たし」
――カヴァーといえば
沢田研二の「カサブランカ・ダンディ」、これは誰のアイディア?
レイジ 「そこはハマくん」
ハマ 「前作くらいからリストに入れてたんですけど今作でいよいよ演りたいと。個人的には“
井上堯之バンドに挑戦”っていうのと、ショウが歌うジュリーってカッコいいんじゃないかと思って」
――ロック・バンドがディスコに色目使う軽薄さがよく出たナイス・カヴァーだと思います。
ハマ 「この曲が出た当時よりも10年くらい後のイメージというか、もっとシティ・ロックだったりAORみたいな都会のキザ男みたいな感じを目指しました」
レイジ 「バンド的にはストーンズの<Sex Drive>を意識して演ったんですよ」
――ああ! なるほど! そして3つ目のカヴァー、緩急つけたどころのお話じゃない、
エルヴィス・コステロの「Pump It Up」ですが。
ショウ 「これはレコーディングの日にいろいろ演ってみようよって、すごい遅いバージョンで演れば遅いなあ、ちょっと早めに演ったらこれはこれで早すぎるなあ、みたいなことを言ってたりしてて。なんかそのやり取りがおもしろくて、それもそのまま入れちゃおうよって話になったんですね」
――テープ・コラージュの類かと思ってましたよこれ!
レイジ 「声はあとから乗せたんですけど、あとは一発録りで」
――カヴァーの話ばかりしてきましたが、実はオリジナル曲がすごくいいなあと思ってます。ロックの歴史に敬意がありつつ、自分たちの個性もすごくよく出てて。特に今回は作家性が強いなあと。
ショウ 「基本的にはコウキがギターのリフだとか曲の種を持ってきて、それをみんなでセッションして完成するってパターンが今までは多かったんですけど、今回、ハマが曲持ってきたり、俺の曲も入ったり、レイジが作詞したりと、メンバーそれぞれの色が出てきましたね」
コウキ 「今回はメンバー個々がデモやフレーズやアイデアなどを持ってきてたんで、やっぱり曲ごとに個性が出てきてるなあと思ってて。そこは今までに比べてもおもしろくなったんじゃないかなと思うんですよね」
――メンバーにすごく愛されてるアルバムなんだろうなあと思いました。聴いてて分かります。好きでしょ? これ(笑)。
コウキ 「メンバーそれぞれが演りたいように演ったんですけど、そのうえですごくいいところで成立できたなあっていう思いがすごくあります。前々作〜前作をすごく短い期間でやってきて、その経験があって演奏だったりアレンジだったり前に比べても成長できたんで、そのうえでやりたい放題やっても形にできる自信がつきましたね」
――個人的にOKAMOTO'Sは
ザ・ゴールデン・カップスを彷彿とさせるんですよ。きちんと技量があったうえで、個性の強いメンバーがひとつスクラム組んでる感というか。
ハマ 「ボクはカップスめっちゃ好きですね! “ハマ・オカモト”も“
ルイズルイス加部”みたいなものなので。“名字+名字”で」
――なるほど(笑)。
ハマ 「GSの歴史そのものが好きなんです。あのムーヴメントって夢、幻みたいなもんじゃないですか、バッと咲いてバッといなくなったあの感じ」
――結局はガレージ・バンドに歌謡曲を歌わせてたっていうことですからね。
コウキ 「『Nuggets』に入っててもおかしくないもんね」
ハマ 「カップスと
ダイナマイツが割と好きなことをやれてたぐらいで、本当はみんな歌謡曲みたいなことやりたくなかっただろうし。
ショーケンさんがずっとカップスに“いいなあ、いいなあ”って言ってたという話も残ってるぐらいだし」
レイジ 「『ザ・テンプターズ・オン・ステージ』聴くとそういうの伝わりますよね」
ハマ 「今みたいにデータとかないから、ホントにラジオで聴いたものをその場で覚えたりレコード聴いてコピーしたり……だからプレイヤーとしてのレベルがすごく高いじゃないですか」
レイジ 「そう考えると当時のGSの人たちって超オタクですよね(笑)」
全員「確かに(笑)」
レイジ 「だってラジオ聴いて、めっちゃ家で弾いてるんですよ?」
ショウ 「録音の手段もないから」
ハマ 「メモしか出来ない」
――すっごいリアルタイミーな音楽ですよね、GSって。どんどんニューロックになっていって、歌謡界が手を離した瞬間に終わるっていう。
レイジ 「そういうリアルタイムの俺らの成長みたいなものを記したいっていう意味もあって、アルバムをばんばん出したんですよね、1年間で3部作って。でもそれがいい感じに俺らの成長が記されてて、よかったですよ」
レイジ 「いいですね! そうやって考えると」
ショウ 「<本牧ブルース>から始まってね」
ハマ 「やっぱり『10'S』で<The Kids are Alright>とか<Run Chicken Run>やってるのも、そういう意味で通じますよね。カップスも1枚目のアルバムでモータウンとかやってて、3枚目になるとサイケデリックとかちょっと進んだ年代のカヴァーになってるっていう」
――そうなんですよ、ロックをマジメにやってるとシンクロニシティがあるんですよね。ところで──(ここから延々とロック談義に突入)。
取材・文/フミヤマウチ(2011年7月)