自身の本当にやりたい音楽を求めて、ガールズ・ロッカー宇浦冴香がアーティスト・ネームを
Cherie(チェリー)と改名し、気持ちも新たに活動をスタートした。約2年の間に、アーティストとして、人として磨きをかけてきた彼女は、作詞だけでなく、作曲も行なうようになり、よりリアルな感情を音楽で表現。1stアルバム
『JACK』で展開されている音楽性は、エレクトロとロックをミックスしたサウンドをベースに、ポップ・チューン、ハードなナンバー、スロー・チューンと、実にカラフルだ。人間味溢れる歌詞を、さまざまなスタイルで歌っていく彼女のヴォーカルは、人を惹きつけるパワーを感じさせるものがある。1stアルバム『JACK』の話題を中心に新たな一歩を踏み出した彼女に話を聞いていこう。
――Cherieとしてアーティスト活動を再スタートさせた経緯から聞かせてください。
「2010年の年明けに宇浦冴香名義での活動を終わらせて翌年にCherieとして活動を再開するまで、本当に自分の表現したい音楽は何かと、ずっと探していったんです。その中で、エレクトロ・ミュージックを知り、新しいプロデューサーとの出会いもあって。私は元々ロックが好きだったので、エレクトロとロックをミックスしたサウンドをやってみたら、自分の声に合うと気づいたんです。今までとは一歩進んだ表現だし、名前も変えて改めて音楽をやっていこうと思って。歌詞もサウンドも、聴いてスカッとする、悩みが吹っ飛ぶような音楽を追求したかったんです。前は歌詞を押さえ気味に書いてるところがあったけどそれを取り払って、あとは自分で作曲をやり始めたり、表現にどん欲になりました」
――音楽に、より自分の素が出せるようになったと。
「はい。もちろん以前の活動で身に付いたことはたくさんあるし、それを経た上で、自分なりのいい音楽をどういう表現をしていくかというのが今の状態ですね。歌詞なら、恋愛をテーマに書くにしても、昔は理想のシチュエーションを考えていたけど、実際は甘いだけじゃないし、友だちと話しててもグチの方が多い(笑)。でもそっちの方が案外分かりあえたりする。そういうリアルな、人間臭い部分を切り取って表現していきたいと思ってます」
――Cherieという名前には、どんな意味が込められてるんですか。
「“人間臭さ=エロティシズム”ってところがありますよね。フタをしたいけど覗いてみたいという意欲をかき立てられるような。“Cherie”という言葉に、私はそういう香りを感じたので、新たなアーティスト名にしようと思ったんです」
――アーティスト性の象徴ってことですね。では、1stアルバム『JACK』ですが、制作するにあたって、どんな作品にしようと思ったのですか。
「今の私がやりたい音楽がギュッと詰まったものにしたかったんです。制作自体は1年くらいかけてやっていて、40〜50曲くらいある中から今一番聴いてもらいたい曲を選び抜きました」
――1曲目のタイトルが、いきなり「あばよ」というのはインパクトあります(笑)。“回りからはダメな男といわれてもやっぱり好き”という思いを歌った、ストレートなロックチューンです。
「タイトルも音もパンチがある、一番正統的なアメリカン・ロックっぽい曲ですね。歌詞で一番言いたいのは、幸せのカタチは人それぞれ違うんだってこと。友だちに恋愛の経験を聞いたり、ネットでディープな話を読んだり参考にしたんです。リアルなところを出したかったので、細部まで詰めて歌詞を書きました」
――この歌詞は恋愛の話ではあるけど、自分の夢を追っていく=やりたい音楽をやっていくという、Cherieさんの気持ちの比喩になってますよね。これまでの活動に「あばよ」と言って、ここから新たな一歩を踏み出すイメージもあるし。
「そうですね。他の人になんと言われても貫くことは大切だっていう気持ちを込めています。この2年で、開き直りの大事さを感じたんですよね。悩んで溜め込んでいくだけじゃ何も起らず終わってしまうけど、開き直って自分がアイディアを出したら物事が上手く運んだってこともあったりして。音楽でもそうだし、人間関係でもそうだし、これが私の生きる道だという人生観も反映されています」
――ちなみに、開き直るきっかけになった具体的なエピソードは何かあるんですか?
「去年の夏過ぎにニューヨークに行ったのは刺激になりました。これから音楽をどう続けていこうか悩んでた時期だったんです。で、向うに行ったら、すごく上手いメトロ・ミュージシャンがいっぱいいた。最初は、“そんなに上手いのに、ここでやってていいの?”と思ったけど、彼らはどこでもいいから表現したいという欲望に溢れてる。だから惹かれるんだって気づいたんです。それも開き直りじゃないですか。自分もやりたいことを信じて表現していけばいいんだ、飛び出していけばいいんだって決意に繋がりましたね」
――そうした気持ちは、アルバム収録曲「TRIP」の歌詞に如実に表れてます。
「そうですね。人からのイメージとか、いろんなしがらみ、自分で作ってた檻から脱出していく、現状に甘んじないで上がっていこうって前向きな思いを書いたんです」
――サウンドも、4つ打ちのダンサブルな側面とロック感が上手く混ざっているし、Cherieさんのカラーが見える楽曲のように思います。
「結構、遊び心がある曲ですね。やっぱり聴いてくれる人が楽しくなって、明日がんばろうって前向きな気持ちになってほしいし、それがすごく出せたなって」
――メロディのポップさと突き抜け感が気持ちいい「恋のフシギ」、しっとり和のムードとエレクトロニカがミックスした「涙ヒラリ」、ヘヴィロック的なハードさのある「激情」など、音の振り幅もかなりあります。ヴォーカルも、楽曲の雰囲気に合わせて、さまざまな歌声を聴かせていきますね。
「声に対してのこだわりはすごくあります。プロデューサーと一緒に、刺さる声の響き方をすごく考えたし、マイク選びもエフェクトの掛け方も本当にこだわりました」
――要所要所で見せるコーラスも、すごくいいアクセントになってますね。
「コーラスって好きなんですよ。一本のヴォーカルだけじゃ味わえない声の面白さや、曲の広がりも出るので。プロデューサーが困るほど、めっちゃ重ねました(笑)」
――さてアルバムは、ポジティブな歌詞とダイナミックなサウンドの「Ready to Go」から、スローで温かい雰囲気の「そのままで」で最後を締めます。
「エレクトロを追求していく中、デザートみたいなイメージで<そのままで>を最後に入れたんです。人が生まれ持ってる、その人自身の真ん中にあるものって、どんな鎧をつけても変わらないと思う。たとえ、どんなことがあっても、どんなに離れていても、大切な人の素敵な笑顔は変わらない、そのままでいてほしいって願いを込めて歌詞を書きました」
――まさにアルバム『JACK』は、人間らしさを描いたカラフルな楽曲が詰まった一枚になりましたね。完成した今の気持ちを聞かせてください。
「Cherieの1stアルバムとして時間もすごくかけたし、細かいところも含めて最高の状態を届けられるように仕上げられたと思っています。タイトルの『JACK』は、根底にエレクトロがありつつ幅広くサウンドを作れたので、ジャック・イン・ザ・ボックス=びっくり箱のように、いろんな曲が飛び出してくる、みんなを驚かせるという意味で付けたんです。あと、電波ジャックという言葉のように“Cherieの音楽で聴いてくれる人の心をジャックするぞ!”ってイメージもあります(笑)。アルバムがみなさんのお気に入りになってほしいし、リスナーの心を強烈にジャック!したいですね(笑)」
取材・文/土屋恵介(2011年10月)
撮影/高木あつ子