井上陽水の
「長い猫」、
Salyuの
「マハラジャの夜」などを手掛けていた、作詞家の
依布サラサ。ご両親である井上陽水と
石川セリから表現者としての遺伝子を引き継ぎつつも、独自の感性を発揮している彼女。そんな彼女が12月5日に、シンガーとしてメジャー・デビューした。自身による作詞で、自由な感覚があふれた言葉が並ぶデビュー・シングルの
「カリキュラム」。その記念すべき作品について話を聞いた。
音楽的な響きの良さとハッとするようなフレーズを織り交ぜ、聴き手のイマジネーションを心地よく刺激してくれるリリック。そして、軽やかなイノセンスのなかにどこかシニカルな空気を潜ませたヴォーカリゼーション。音楽という表現方法が持つ自由をたっぷりと感じさせてくれるシンガーが登場した。シングル「カリキュラム」でメジャー・デビューを果たした依布サラサ。井上陽水の「長い猫」、Salyuの「マハラジャの夜」など、すでに作詞家としてのキャリアをスタートさせていた彼女だが、「自分で歌ったら、どうなるだろう?」という意識はかなり以前から持っていたと言う。
「歌詞を書きながら口ずさむこともあったし、“歌ってみたいな”という気持ちはあったんです。でも、ホントにやるってなったら、自己満足では終われないし、聴く人にもいろんなことを感じてほしいと思うので……。そこは難しいところでしたね」
果たして紡ぎ出された「カリキュラム」――
スキャフルキングのリズム・セクションをフィーチャーしたネオアコ風のポップ・チューン――は、彼女の言葉のセンスが瑞々しく反映された楽曲に仕上がっている。大学での生活の様子をカット・アップ的にレイアウトしていきながら、映像が“パッパッパッ”と連射されるような感覚に包まれるワーディングからは、依布サラサというアーティストの魅力がはっきりと感じられる。“いつでもまじめ猿”“モンド・セレクション”などの単語に、一瞬“ん?”と思ってしまうようなフックの作り方も、きわめて新鮮。
「一つのテーマに沿いながら、ちょっと引っかかりのある言葉を入れるのが好きなんですよね。八代亜紀さんの〈舟唄〉のなかに“あぶったイカでいい”っていう歌詞がありますよね。あの曲を聴いたときに、歌詞の中に“イカ”なんて言葉を使ってもいいんだ?”って衝撃を受けたんです。そういう影響もあるのかもしれない」
カップリングの「コトバトスライム」はエッジーな手ざわりのギター・ポップ。ここには“言葉”に対する彼女の思い、覚悟が内包されていると言う。
「いい言葉でもキツイ言葉でも、(“スライム”のように)身体にベタッと張り付いて、何日も取れなかったりすることがある。それだけ影響力があるんだから“自分、がんばれよ”っていう気持ちも込めながら書きました。あと、聴いてくれる人に対しても、言葉の力について何かを伝えられたらなって」
すでにライヴ活動もスタート。まったく新しい個性を持った依布サラサは、“井上陽水と石川セリの娘”という話題性を軽々と超え、ポップ・ミュージックの新たな可能性を私たちに見せてくれることになるだろう。
「歌詞を書くこともレコーディングも、音楽を作るのって、割と地味な作業が多いんです。でも、ライヴをやってみて、“お客さんからの反応を受けて、また私から発信する”っていうやり取りの楽しさもわかってきて。こういう経験を通して、歌詞もヴォーカルも、もっともっと幅を広げていけたらいいなって思ってます」
取材・文/森 朋之(2007年11月)