【田中靖人】 日英のトップ・サクソフォン奏者がタッグを組んだエンニオ・モリコーネ作品集

田中靖人   2012/02/14掲載
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 2011年から、吹奏楽ファンの憧れ“東京佼成ウインドオーケストラ”のコンサートマスターを務め、最近ではマイケル・ジャクソンの超人気曲をカヴァーしたヒット・アルバム『THIS IS BRASS ブラバン!〜Beat It〜』での演奏も記憶に新しい田中靖人。ソロ活動や、サクソフォン四重奏団“トルヴェール・クヮルテット”のバリトン担当として、クラシック・サイドでも名実ともに日本を代表するサクソフォン奏者のひとりである彼が、映画音楽史上きっての巨匠作曲家エンニオ・モリコーネの作品を集めた新作『モリコーネ・パラダイス』をリリース。プロデューサーに英国が生んだカリスマ・サクソフォン奏者、ジョン・ハールを迎え、豪華アレンジャー陣と魅力的なゲストで“聴かせる”夢のようなアルバムが誕生した。
――映画『ニュー・シネマ・パラダイス』から着想を得た「モリコーネ・パラダイス」という楽曲は、もう何年も前からコンサートでとり上げられていますよね。たいへんな人気曲だとか。
 田中靖人(以下、同) 「真島俊夫さんに書いていただいたサクソフォンとピアノの曲で、コンサートでこの曲を演奏すると聴衆の皆さんをよく泣かせてしまうんです。最初に依頼した時に、“出だしはちょっと華やかな感じではじめて、メドレーのように全体でひとつの物語が作れるような楽曲でお願いします”と希望を伝えたら、真島さんの得意とするボッサ調のモリコーネ曲を冒頭に持ってきてくれて、そこから『ニュー・シネマ・パラダイス』のメドレーに移って、最後は叙情的な〈愛のテーマ〉で締めてくださいました。ご本人もこの流れがかなりお気に入りだそうです(笑)。しかも真島さんらしさを感じさせるハーモニー進行もちゃんと入っている。今回はアルバム用に新たに編曲していただきました」
――今までの“モリコーネ・トリビュート”とはひと味違う、凝った作りのアルバムですね。編曲も選曲も。
 「自分の中で漠然と、あまりイージーリスニング的なものではなく、もう少し聴き応えのあるアルバムにできないかなと思っていました。サクソフォンの演奏スタイルに凝るだけではなく、複数のアレンジャーの方にお願いして、いろいろな編曲でモリコーネの名曲を楽しんでもらえるような一枚にしたいと。そこで、映画音楽への造詣が深いジョン・ハールさんにプロデュースをお願いしました。未公開映画の曲とか、これまで知らなかった作品もジョンが教えてくれた。たとえば映画『マッダレーナ』の〈キ・マイ(私だけが)〉は日本ではあまり馴染みがないけれど、ヨーロッパでは映画やテレビでよく使われ、多くの人を涙させた曲だとか……たしかにこの曲は美しいですね」
――ジョン・ハールさんは今回、編曲でも参加され、みずからソプラノ・サクソフォンを吹いての共演もありました。
 「彼はいつもアイディアにあふれていて、マルチな才能の持ち主。同じサクソフォン奏者でも私とは音が違うし、音楽的にも違うのかなとはじめは思っていました。一緒に演奏した〈ストリップティーズ〉(映画『明日よさらば』より)では、前もって自分で練習してきたのとはかなり違って、ジョンが歌いながら“ここはこういう風に”とか“もっとクールに”“ヴィブラートは使わないで”などと細かく指示するので、最初はそれを消化して自分のスタイルにするのに時間がかかりましたね。でも、ずっと一緒にいるうちに、だんだんと彼の考え方が見えてきて、じつはふたりとも同じ方向を向いていることがわかって、すごく共感できるようになったんです。モリコーネの音楽だからそういうことができたのかもしれない。同じクラシックの中でも、バロックにはバロックの演奏、ロマン派にはロマン派の演奏があって、またベートーヴェンラヴェルの音楽が違うように、ジャズもポップスもみんなひっくるめて、それぞれ等しく、スタイルの違いとして自分の中で消化していくっていう考え方が、一致した。それに気づいてからは、これまで以上に彼を信頼できたし、楽しかった。曲ごとにお互いのイメージを話し合いながらレコーディングを進めていきました」
――日本のアレンジャー陣も豪華。サントラの世界の第一人者ばかりです。
 「それぞれに趣向が凝らされていますよね。千住明さんの〈ラ・カリファ〉はアルト・サクソフォンがいちばん美しく響く“変ホ長調”を使って原曲の素直な旋律が見事に編曲されているし、山下康介さんの〈セルジオ・レオーネ組曲〉もシンプルだけどオーケストラの使い方が素晴らしくて、サクソフォンのアグレッシヴな部分がよく出ています」
――田中さんがすべてのパートのサクソフォンを演奏できるプレイヤーであることを活かした、多重録音による“ひとりサクソフォン四重奏&五重奏”も聴き所ですね。
 「自分との共演は予想以上に手強かったです。誰かと一緒に演奏すると、音色や息づかい、相手の間のとり方などを感じられるし、アイ・コンタクトもとれるのですが、それができないと難しい。相手が自分といえどもね(笑)。アレンジャーの小林洋平さん自身もサクソフォン奏者なので、こんなに面白いアイディアが出たのでしょうね。とくに〈エクソシスト2(メドレー)〉はレコーディングしていて自分でも怖かった。こんなモリコーネもあるんだって、驚かれる人も多いかもしれません」
――ジョン・ハールさんの息子であるダニエルさんがアレンジした「風、叫び」(映画『プロフェッショナル』より)では、フランスが誇るクラリネット奏者ポール・メイエさんとの豪華共演もあります。


 「メイエさんは“東京佼成ウインドオーケストラ”の首席指揮者で、レコーディング前の夏のシーズン中にずっとツアーで一緒でした。ツアー中はお互いにいろんな音楽の話ができて、とても有意義でしたね。その成果が今回の演奏に活かされていると思います。彼もモリコーネの曲、とくに〈黄金のエクスタシー〉(映画『続・夕陽のガンマン』より)が好きだそうですよ」
取材・文:東端哲也(2012年1月)
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