大西ユカリが2年ぶりのニュー・アルバム
『直撃! 韓流婦人拳』で初の韓国録音を決行。2月には全編韓国語で歌った
韓国盤(豪華写真集などの付録もついた、まさに韓国仕様のパッケージ!)が出たばかりだが、3月には日本語を織り交ぜた日本盤もリリース。シン・ユンチュル(ギター)率いるソウル電子音楽団や若手ファンク・バンド、ファンカフリック&ブースダーといった地元バンドのほか、ソウル・インディー・シーンの中心人物でもある日本人ギタリスト、長谷川陽平も参加したその内容について、ユカリ姉さんに語っていただきました。
日本盤
韓国盤
――韓国の文化に興味を持ったきっかけは何だったんですか?
「ポンチャックを聴いてた15年ぐらい前、韓国には一度行ってるんですけど、ズボッとハマるきっかけになったのはドラマですね、やっぱり。前作(『やたら綺麗な満月』)のレコーディングのとき、煮詰まって『朱蒙(チュモン)』というドラマのDVDを観始めたんですけど、全部で81作もあるのに、気づいたら普通にハマってましたね。そのへん、新大久保にいるお母さんと何も変わらへん(笑)」
――韓国盤と日本盤としてリリースされる今回の『直撃! 韓流婦人拳』はどういった経緯で作ることになったんですか。
「
『やたら綺麗な満月』の次に行くためにはどうしたらいいのか迷いに迷いまして、2年ぐらい何もできなかったんですよ。そのころP-VINEのスタッフから“ライヴでやってるカヴァー曲を中心に何か出しちゃえば?”って話がきて、だったら『朱蒙』のテーマ曲もカヴァーしようかと。私、2年ぐらい前から韓国語も勉強してるんですけど、日本人が普通に韓国語を喋っても向こうじゃ通じないことも分かってるんで、一度韓国に行こうと思って、かつて私の作品を韓国で出してくれたビートボール・ミュージックに聞いてもらったんですよ。“私、韓国で何かできるかな?”って。そうしたらトントン拍子で話が進んで、去年の6月に現地に行くことになったんです」
――なるほど。
「ただね、ベーシックの録音は2、3月の段階でできてたんですよ。それが“せっかくだったら韓国のバンドとも一緒にやったら?”なんて言われてね、あれよあれよという間に18曲入りになっちゃった(笑)。そのバンドのなかに長谷川陽平がいたり、シン・ユンチョルがいたり、ファンカフリック&ブースダーがいたり」
――素早い展開ですね(笑)。
「そう、話が動き出してから録音するまで1か月かからなかったんですよ。韓国のバンドも勢いがあるから一発(録り)でしょ。スタジオに入ったら誰も譜面なんて見てませんしね。日本で録ったものがどうもしっくりこなくなっちゃって、その後ミックスでバラしたりもしました」
――韓国のスタジオはどんな感じなんですか?
「日本のスタジオって冬は暖房が入って暖かいし、夏はクーラーが入ってて涼しい。でも、韓国のスタジオって大抵地下にあってジメジメしてるんです。それがノドに良かったみたいで、ほとんどの歌唱は韓国で録ったんです。日本で録ったものも韓国で録り直したぐらい。あと、電化大国だけあって、向こうのスタジオの機材はちょっと良すぎるぐらい。腕のいいエンジニアが揃ってるし、可愛らしい女の子がプロトゥールズを軽く使いこなしたりしてるんです。特にインディーズの世界はエンジニアになりたい子がいっぱいいるみたい」
――ファンカフリック&ブースダーのメンバーも若いですよね?
「そうですね、30そこそこ。でも、基本大陸型の人たちなんで“いらち”(=せっかち)なんですよ(笑)。例えば翌日夜10時に待ち合わせするでしょ? そうすると彼らは8時ぐらいに集まって終わってる(笑)。彼らはファンクをベースにしてるんだけど、(マドンナの)<Like A Virgin>も演奏しちゃうようなところもあって、向こうではその音で若い子たちが踊ってる。昔の日本で言えばバンド・ブームのちょっと前の時期みたいなノリが今のソウルにはありますね。バンド自体が熱くなっちゃってる。“音楽をやりたいんや!”って風情が出てて、それが素直ですっごくおもしろい」
――韓国盤/日本盤という二種類をリリースすることは最初から決めてたんですか。
「いえいえ、一枚に完結させるつもりだったし、二枚組の話もあったんですけどね。最初は韓国盤としてリリースされたものをそのまんま日本語でやろうと思ったんですよ。でも、ミックスをしてたらどうもつまらなくなってきちゃって、まったく別のアルバムを作れるんじゃないかと思って工夫をしてみたらできてしまった(笑)。ミックスとマスタリングが違うので、まったく別の作品になったと思います」
――歌詞はどうやって書いていったんですか?
「
宇崎(竜童)さんにいただいた<韓流プイン〜韓流婦人>に関しては、韓国語の歌詞をインスピレーションで付けてみたんですよ。それを日本語に訳したので、日本語ヴァージョンのほうは、たどたどしくておもしろい出来になりましたね」
――この曲は最高ですよね(笑)。その他の韓国語の曲も一瞬日本語に聴こえたりして、不思議な“空耳感”がありますね。
「外来語なんかは一緒だったりしますからね。ただ、少しだけ発音が違う。例えば“ドラマ”は“ドゥラマ”だし、“冷麺”は“レミョン”。レコーディングの時は向こうのスタッフに細かく発音もチェックしてもらいましたし、そもそもそのために韓国に行ったようなものですからね。日本で録ったものを韓国のスタッフに聴いてもらったら“全然ダメです、これじゃ韓国で売れないです”って言われてしまったので、韓国人に囲まれて録りました」
――
クレイジーケンバンドの「けむり」「黒いオートバイ」やダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「身も心も」がカヴァーされていますが、これらの曲はふだんのライヴのレパートリーなんですか?
「そうです。<けむり>と<黒いオートバイ>はね、昔から“なんで
横山さんは韓国語で歌わないんだろ?”と思ってたんですよ。<けむり>なんかはパンソリの世界にも近いものがある気がして、メーター振り切れる勢いで歌いました。韓国の子は“いいじゃないですか!”って言ってくれたんですけど、アメリカ人のマスタリング・エンジニアは“これでいいのか?”と思ったみたい(笑)」
――韓国の人たちは熱いですよね。そういうところも大西さんとウマが合ったのかもしれませんね。
「大阪人も“いらち”ですからね(笑)。彼らも私たちも、やりたいことを今せなイヤやねん。道が込んでて待ち合わせに遅れたとしても、韓国の人たちは“込んでたのなら車をトバせばいいじゃないか!”なんて言うんです(笑)。スーパーでまとめ買いをしたときもね、“棚がスカスカになっちゃって、どうしてくれるんだ!”って怒る(笑)。そういう国民性、私は好きですね(笑)」
取材・文/大石始(2012年2月)