まさに疾風怒濤。演奏時間がわずか30分強という初来日公演でも、
ハウラー(Howler)は確かなインパクトを残した。ロンドンの老舗インディ・レーベル〈ラフ・トレード〉がひさびさにアメリカから発掘してきたインディ・バンドというのもあって、早速
ストロークスを引き合いにされているこのバンド。しかし彼らのデビュー作
『アメリカ・ギヴ・アップ』から聴こえるパンキッシュなサウンドには、たとえば
ジーザス&メリー・チェインや
ビーチ・ボーイズといった、さらに時代を辿った音楽との連なりも感じる。バンドの背景について、ジョーダン・ゲイトスミス(vo、g)に話を聞いた。
(C)David McCrindle
――こうして作品を出す以前は、〈ラフ・トレード〉というレーベルにどんな印象を持っていたのでしょう?
ジョーダン・ゲイトスミス(vo、g/以下同)「それほど詳しくは知らなかったけど、すごいレーベルだってことはわかってたよ。僕らも
スミスや
リバティーンズが大好きだったし、なによりストロークスの歩んだ歴史を知っていたからね。そんなところが自分たちに注目してくれるなんて、やっぱりすごく驚きだったな」
――実際、あなたたちはそのストロークスと比べて見られることもあるようですね。
「そうなんだよね。でも、彼らが
『イズ・ティス・イット』を出した当時って、僕らはまだ8歳だったからさ。どちらにしても後追いで好きになった感じなんだ。初めて彼らの作品を聴いたのは、たぶん18歳の頃だったかな。その時にはすでにハウラーの曲を書いていたし、僕は直接的に彼らから影響を受けたというわけではないんだ」
――では、そんなあなたにとってのヒーローと呼べるアーティストを、あえてひとりだけ挙げるとすれば誰になるのでしょう?
「
リプレイスメンツの
ポール・ウェスターバーグだね。彼も僕らと同じミネアポリスの出身で、地元でもパンク・バンドとして語られているんだけど、彼に言わせれば“ポップをダーティに演奏しているだけ”らしくてさ。それってすごく共感できるんだよね。僕は間違いなくその考え方に影響されていると思う。それに彼の“ファック・ユー”なアティチュードも好きなんだ。バンドにはシリアスになると陥りがちな罠があると思うんだけど、僕らはそれにはまらず、ポールのように自然体で音楽を続けていきたいんだ」
――楽曲に自分の内面的な部分は反映させることよりも、まずは楽しめることが大切ってこと?
「それはもちろん、どちらも重要だと思っているよ。ただ、僕は音楽を通した表現活動をする上で、自分の感情を素直に伝えることがすごく下手なんだよね(笑)」
――アルバム・タイトルについても教えてください。とても含みのあるタイトルだと思ったのですが、あなたがここでいう“アメリカ”とは一体どんな意味合いを持っているのですか。
「まさに今のアメリカそのものを指しているつもりだけど、もしかするとその裏では自分の生まれ育った町からの影響がすごく強く出ているのかもしれない。なんで自分はこんなに故郷が好きじゃないのかって、ずっと考えてたからさ(笑)。すごく疎外感を感じる場所なんだ。ミネアポリスへの不満ならいくらでも挙げられるよ!」
――(笑)。まあ、それは日本にいても同じですよ。
「故郷にフラストレーションを感じているのは僕だけじゃなかったんだね(笑)」
――でも、現在のようにこうして世界中をツアーで回るようになると、あなたの故郷に対する思いにもいくらか変化がありそうですが、どうでしょうか?
「たしかに少しノスタルジックな気分に駆られる時はあるし、故郷を出て初めて気づいたことはたくさんあるよ。でも、やっぱりあそこは自分にとって殻のような場所だったと思う。とにかく早く飛び出したかったんだ。これからもしばらくはずっとツアー生活が続くんだけど、次作に向けてもう動き出しているんだ。60年代のサイケデリック・ロックみたいな感じにしようと思ってるから、楽しみにしていて」
取材・文/渡辺裕也(2012年2月)