『D.O.H.C』
「金色の8/GOLDEN8/俺ら金八の生徒」(「GOLDEN8」)、「発育盛りでもワキ毛なしのマッチが履いてる靴ナイキ」(「SCAN★DALLAS COWBOYS」)……ご存じの通り、現在は2012年である。にも関わらず、上記のような昭和感溢れすぎるリリックや、プロレス・ネタ、そして身内ネタなど、過剰なまでに自分の半径5メートル以内のことをラップにたたき付けるグループがいる。その名は
TOJIN BATTLE ROYAL。そう書くと非常にコミックなグループだと思われそうだが(実際リリックに関してはその“笑撃度”は圧倒的なのだが)、90年代初期のNYヒップホップを感じさせるざらついた煙たいサンプリング・ビートと、タイトに踏まれた韻、そしてキャラの立ったラップ・スタイルと、ヒップホップのゴールデン・エラを感じさせる内容は、お好きな人にはたまらない魅力を誇っている。
90年代の末期にごく短期間活動し解散、しかし、10年以上の時空を飛び越えてアルバムをリリースする彼らの新作
『D.O.H.C』からは、ヒップホップの復興を感じずにはいられない!
――まず、これまでの活動、特に90年代の活動を教えて頂けますか?
HATAJI-LO(Beatmaker、MC) 「もともと横浜に、自分とハタナイアツシ a.k.a 総裁(MC)の“J.J.D”、博多にKATSUYAとIWASHI(MC)の“パーバーツ”っていう二つのグループがあったんですよ」
KATSUYA(MC) 「90年代の中頃に、僕の姉がイベントを主催した
ライムスターのライヴ会場入口で関係者でもないのに手書きの名刺を配ってたハタナイ総裁と知り合って。その後J.J.Dが作ってた音源を聴かせてもらったんですけど、HATAJI-LOさんのトラックがとにかく凄くて。当時の博多はオリジナルでトラックを作ってる人が少なかったから一緒に何かやりたいなって。ただ、J.J.Dのラップは英語に沖縄方言、それ以前はスペイン語というすごい構成で(笑)」
TOJIN BATTLE ROYAL
――ハタナイさんはスペイン語喋れるんですか?
HATAJI-LO&KATSUYA 「全然」
――ハタナイさんは沖縄出身なんですか?
HATAJI-LO&KATSUYA 「いや全く」
――スゴすぎる!(笑)
KATSUYA 「その後すぐにHATAJI-LOさんが横浜から福岡市内の唐人町に活動の拠点を移したんです」
HATAJI-LO 「それで、ウチに集まって曲作ったりプロレスの技かけあったりしてたのがTOJINの原点で。そこに集まってた連中で、コンピレーションとして『TOJIN BATTLE ROYAL VOL.1』ってカセット・アルバムを作ったんですよ。そしたらそれがグループ名だと思われちゃって、それでライヴのオファーがあったりしたから“じゃあ、グループ名もそれでいいか”って。それが97年ですね」
KATSUYA 「そのテープは一週間ぐらいで作りましたよね。そういう号令がハタナイさんからあって」
――タイトですね。本人にとっても大変だったでしょうね。
KATSUYA 「いや、ハタナイさんは自分のとこだけ既に作ってたから、あとはメンバーのケツ叩くだけっていう(笑)。テープは3本作ったんですけど、全部で2,000本近く売れましたね」
HATAJI-LO 「ただ全て自宅録音だったから、音的には不満が残ったのは確かですね」
KATSUYA 「当時はヒップホップを理解しているエンジニアが博多にはいなかったし」
HATAJI-LO 「だから、自分たちでやるしかなかったし、どうやったらNYの音に近づけられるのかって模索してましたね。リリックの中身は他人には理解不可能なマニアックなモノになってたけど、自分達が好きなモノをとにかくラップしようって言うのが原点にあって」
KATSUYA 「人に聴かせるっていう発想があんまりなかったんで」
『1997〜1998 COLLECTION』
――お話しが出たので話は飛びますが、00年近くにTOJINは活動を停止されて、知る人ぞ知るグループになるわけですが、08年にベスト盤『1997〜1998 COLLECTION』を突如リリースされますね。
KATSUYA 「博多で活動してた当時から、ライムスターの
宇多丸さんや
D.L(ILLMATIC BUDDAHA MC'S)はすごく評価してくれてたんですよね。でも色々あって活動が停滞して、僕とHATAJI-LOさんが仕事の関係で東京に引っ越した後は、ほぼ解散状態で。その後僕とD.Lがよくお茶するようになって、会うたびに“再リリースした方がいい”と長年説得され続けました。紆余曲折を経て、
餓鬼レンジャーの
ポチョムキンさんが紹介してくれたウルトラ・ヴァイヴから旧作をまとめた音源をリリースしたんですが、最初は全然オーダーが入らず(笑)。でも、D.Lが色々宣伝してくれたり、宇多丸さんがラジオでかけてくれたり、今回のアルバムに参加してくれてる
ダースレイダー、
サイプレス上野さんも猛プッシュしてくれて、なんとか再プレスできるぐらいは売れました。TOJINは“三つ星レストランのシェフが通う定食屋”というか、影響力のある人が評価してくれたっていうのが大きかったのかなって」
――そしてその勢いのままニュー・アルバムのリリースとなった訳ですね。
KATSUYA 「コンセプトは“90年代”っていうのはありましたね。だから、時代感のある言葉はあまり入れないようにして」
――内容的には時代に逆行しすぎて、逆に時代を感じないですからね。
HATAJI-LO 「トラックに関しては、時代とともに制作環境も良くなり、いい音質の作品を作れるようになった。また日本のトラックメイカーの全体的なレベルも上がっている中でどう勝負するかって考えた結果、もともと自分たちが持ってるサンプリング・スタイルで貫くことにしました。ただ、一聴すればシンプルかも知れないけど、相当作り込んでるから、細かく聴いてもらえると嬉しいです」
――リリックに関しては……。
KATSUYA 「説明はないです(笑)。韻にはこだわってるけど、そこは聴いて感じてもらうしか。好き嫌いは相当分かれると思いますね。もしかしたら“今”の作品に慣れてる人は全くしっくり来ないかもしれない」
――ただ、だからこそのオリジナルさを感じます。
HATAJI-LO 「14年間の年輪のつまったデビュー・アルバムなんで、ぜひ聴いてもらいたいですね」
KATSUYA 「自分たち、やりたいことしかできんとです!」
――なぜ最後に来て博多弁を(笑)。
取材・文/高木晋一郎(2012年6月)
[タマフルでDJ JINがTOJIN BATTLE ROYALの歌詞を読み上げる!]【6月30日(土)21:30〜24:30放送】
■TBS RADIO『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』
〜23時台「サタデーナイト・ラボ」〜
<日本語ラップ最後の秘宝>
キエるマキュウとトージン・バトル・ロイヤル。
偉大な二組のニューアルバムの歌詞を読み上げて
男とは? 人生とは? ヒップホップとは?
を学ぼう!特集 feat.DJ JIN!
今月発売された2枚の日本語ラップアルバム。ひとつは、キエるマキュウ9年ぶりのアルバム「ハコニワ」。もうひとつは、トージン・バトル・ロイヤル14年ぶりのアルバム「D.O.H.C」。そのアルバムの素晴らしさ、ひいては日本語ラップの素晴らしさを皆さんに知って頂くため、日本語ラップ歌詞朗読の第一人者、DJ JINが歌詞を選定&朗読! あなたの知らない日本語ラップの世界へ、いざないます!
http://www.tbsradio.jp/utamaru/index.html[TOJIN BATTLE ROYAL『D.O.H.C』を読み解く「唐人大辞典」]TOJIN BATTLE ROYAL『D.O.H.C』封入の歌詞カードに掲載できなかった曲のリリック、そして新たなキーワードやエピソードはオフィシャル・サイトでチェックを!
http://www.tojinbattleroyal.com/