(C)Austin Conroy
――素晴らしい新作で大好きです。前作(『ジュークボックス』)がカヴァーだったのでオリジナル・アルバムとしては6年ぶりですが、もっと早く出したいとは思わなかったのですか?
「ええ、もっと早く出すつもりだったんだけれど、じつは最初に書いたデモを聴いてくれた人のリアクションがよくなかったから、あらためてやり直したの。でもその人はまともに聴いてなかったってのが後でわかったんだけど(笑)」
――その頃から今度のレコーディングは全部一人でやろうと考えていたんですか?
「そう、というのも前作のツアーのとき、自分で楽器を弾いてなかったから楽器とのコネクションを失ってる気がして、それが寂しくてすごく弾きたいっていうのがあったの。ただ音楽を作っていく過程で、前のバンドのメンバーたちのサポートを得て、彼らの音を少しは入れてるけど」
――なるほど。セルフ・プロデュースってのも最初から譲れないことだったんですか?
「そうです。以前もやってはいるけど、今回は絶対にそうしたかった。なんでかというと、デモを聴かせたときに、プロデューサーをつけた方がいいって言われたのにもすごく傷ついて、今回は自分のやりたいことをすべて主張したいと思ったの」
(C)Jenni Li
――アルバム全体を貫くテーマみたいなのはありましたか?
「いいえ、一番のコンセプトといえば、アルバムを仕上げることだったかも(笑)。でも曲を書いていくうちにテーマみたいなものは出てきたわね。たとえばタイトル曲の〈サン〉が表わしているようなこと。この曲ってタイトルが先に決まってて、その理由ってのは覚えてないんだけど、無意識的に自分の何かとつながっている気がした言葉で、それに向けて書いたの。太陽っていろいろな物事、人生の象徴であり、死とかもそうだけど、人にはコントロールできないパワフルな存在だと思うので、それについて書きたかった」
――実際にレコーディングしていく過程で苦労したことはどんなことでしたか?
「一番難しかったのは、いろいろとスタジオを変わったせいでスタッフが多く、エンジニアもアシスタントを含めて合計8人もいて、そんな中でコミュニケーションが通じなかったりしたことね。誰かを非難したり批判したいとは思わないけど、やってる過程で疎外感みたいなものを感じてしまったの。女性だからこういう風に感じるだけなのかもしれないけど、たとえば男性がエンジニアに何かを言ったらすぐに対応してくれるんだけど、自分が言うとなかなかうまくいかなかったりして」
――ウーン、それって昔オノ・ヨーコがスタジオなんかで自分が言うとなかなか聞いてくれないけど、ジョン・レノンが言うとすぐに変わるって嘆いてた話を思い出しますね。 「フフフ、そうね。その話を教えてくれてありがとう」
――ところで「Nothin But Time」をデュエットしてるのはイギー・ポップですよね。これはどういう経緯から? 「当時付き合ってた彼氏のルチアっていう15歳の娘さんがオンラインのイジメにあって苦しんでたから、元気づけたいと思って。その時彼女が
『ジギー・スターダスト』が大好きだったので、知り合いを通して
デヴィッド・ボウイとイギー・ポップに連絡をとり、何かやってほしいとお願いしたの。ボウイはダメだったんだけどイギーは承諾してくれた。私はパリでレコーディング中で立ち会えなかったけど、素晴らしい歌になったわ」
取材・文/大鷹俊一(2012年7月)