地元スウェーデンでは2011年にリリースされた1stアルバム
『ウルリック・マンター(Ulrik Munther)』が、当地のアルバム・チャートで初登場1位を記録。17歳にして国民的アイドル・シンガーの座に上った
ウルリックだが、注目すべきはこの若さにして完成度の高いポップ・ロック・ソングをものする、ソングライターとしてのポテンシャルだろう。オープニングに置かれた「ウルウル・サマー(原題:Sticks And Stones)」こそ、エレクトロ風味の勝ったポップだが、「モーメンツ・アゴー」や「ライフ」では、若者らしい“今を生きる”感覚に、思春期ならではの内省が交錯。こんな曲を、ちょい切なさがのぞくハスキー・ヴォイスで歌ってみせるのだから、今後の伸びしろに期待大、の18歳なのだ。
ウルリック・マンター(以下同) 「〈ライフ〉は、英語で歌詞を書いた最初の曲のひとつなんだ。14歳だった。2年後、アルバム用にレコーディングした時、多少手直ししたけど、歌詞の大筋は変わってないよ」
――「モーメンツ・アゴー」もそうだけど、若いなりに“生きているって、どういうことだろう?”と、自分の来し方を見つめ直すような歌詞が多いですね。
「基本はどこにでもいる普通の男の子。アマチュア時代、友人とやっていたバンドでは、
クイーンや
AC/DCの曲をコピーして、“スターになって注目されたらいいな”みたいなことを考えていたんだけど(笑)。一方で、部屋に引きこもってギターで曲作りしながら、あれこれ思いをめぐらせるのが好きだった。そういう状態って、おのずと人生について考えるようになるよね」
――作曲を通じて、自分自身を“再発見”する側面もあるんじゃないかと。
「どうだろう…そういう見方をしたことはなかった。でも、そうかもしれない。曲を書くことって、自分の魂を作品に注ぎ込む作業でもあるから、自分の内面について、より深く理解するようになること自体、けっして不思議じゃないよね」
――「アルバーン・ロード」の、風景が目に浮かぶような歌詞も印象的です。
「実在する通りの名前じゃないんだけど、具体的な地名を入れることで、映像的な効果が上がったんじゃないかな。“アルバーン”という音の響きは、秋を意味する“オータム”にも似ている。秋の景色ををイメージさせる、というか…。歌詞に描かれているのは夏の思い出なんだけど、歌っている僕が立っている季節は、秋なんだよね」
――「ヒーローズ・イン・ディフィート」や「ソルジャーズ」では、ハーモニカも吹いてますよね。
「子どもの頃、父が吹いているのを見て興味を持ったんだ。父はあんまりうまくなかったけどね(笑)。その後、ライヴをやるようになってから、ふと思い立って〈ヒーローズ〜〉でハーモニカを吹いてみたら、すごくウケた。曲をドライヴさせてくれたんだ。最近では、あまり使われない楽器だし、僕なりの特色が出るような気がして、気に入ってるよ」
――ところで〈フール〉の一節にあるように、“サングラスをかけて外に出る”ことって、よくあるの?
「スウェーデンにいる時は、よくあるかな。デビューして以来、地元では有名になってしまったから。なんとなく周囲から距離を置きたい気分になることって、あるよね。文字通り自分の周りにシェードを下ろす、みたいな」
――じゃあ、初めての日本はどうですか? 「おもしろいよ。プロモーションのために、ロンドンやパリ、LAやNYを回ってきたけど、初めての土地で、いろいろな人たちに出会うこと自体が、曲作りのヒントになる。つい先日も
『ロスト・イン・トランスレーション』を観て、“今の僕そっくりの映画だなあ”と感銘を受けたばっかりなんだ」
――手のひらに、あれこれメモが書いてあるのが見えますけど(笑)。
「うわ〜、恥ずかしい(笑)。日本語のフレーズをいくつか書き込んであるんだ。“ニッポン、ダイスキ”とか“ゲンキ”。あと“カワイイ”(笑)」
――スウェーデン語の決め言葉も教えてくださいよ。
「“Lagom(ラーゴム)”という言葉がある。“適当”とか“ほどほど”という意味だね。ライヴの時上がりすぎて歌詞を忘れないように、僕自身モットーにしているよ(笑)」
取材・文/真保みゆき(2012年8月)