BUCK-TICK   2012/09/21掲載
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 デビューから25年の間、一度も休止することなく不動のメンバーで活動を続け、しかも兄弟がリズム隊を務めるという世界にも稀なバンドと同輩たちでさえ賞賛するBUCK-TICK。5人が揃ったときの子供の頃から変わらないであろう自然体ぶりと、ストイックに独自のサウンドや曲を追求し続ける姿勢には常に驚かされてきた。18作目になる最新作『夢見る宇宙』は、これまでになくポップで華やかな曲に耽美な色彩を織り込んだ、彼らにしかできない作品だ。25周年を意識したものではないというが、今だから生まれた傑作である。その誕生秘話を櫻井敦司今井寿に訊いた。
──ニュー・アルバム『夢見る宇宙』の発売、おめでとうございます。このアルバムの構想から聞かせていただけますか?
今井寿(以下、今井)「作曲に関しては、ライヴで盛り上がれるというか、リズムの骨格が分かりやすい曲を意識しました。歌詞に関しては櫻井さんのプロットみたいなものが先に何個かあって。同時進行みたいな感じで、デモを渡して刷り合わせていくみたいな感じでした」
──櫻井さんはどんな構想を持っていたんでしょう?
櫻井敦司(以下、櫻井)「『夢見る宇宙』というタイトルは去年の10月とか11月にはありまして、4〜5行ぐらいの物語のイメージだったり、歌詞の骨格になる部分というか、そういったものが7曲ぶんぐらいあって。ただ1曲1曲は独立しているもので、トータル的なイメージというものは、あまりない状態でした。1曲1曲の核になるところぐらいで。デモ・テープを聴いて、はじめて肉付けをしていく感じでしたね」
──「夢見る宇宙」という言葉が、アルバムのキーワードというかテーマだったんでしょうか。
櫻井「いえ。このタイトルを考えたときは、アルバムのタイトルもまだ先の話でしたし。最初に出たのがこの言葉であって、あとは、〈猛禽=RAPTOR〉だったり、〈ADULT CHILDREN〉だったり、そういった曲タイトルと、骨格の核になる部分だけがあって」
夢見る宇宙
(初回盤)

(通常盤)
──「夢見る宇宙」という言葉は、どういうイメージから生まれてきたんですか?
櫻井「この歌詞に関しては、去年の10月ぐらいに、言葉を先に考えてくださいというふうに、(ディレクターの)田中淳一さんから言われまして(笑)。その頃は震災のことだったり、放射能や原発のこととか毎日、朝から晩まで報じられていて、それとこれとは別に考えようと思ってはいたんですけど、どうしても、自分もそこを避けて通ってはいけないんじゃないかと。何かしら自分なりの答えを出さなければいけないんじゃないかと思ったんですね。ちょうどその頃、“ママ、早く元気になって帰ってきてね”という言葉と共に子供が寝てる横顔の写真が新聞やニュースとかで報じられて。つまり、その子のお母さんは津波に流されて亡くなられてしまってるんですけども。具体的に言っちゃうと、夢を見て、さよならの向こう側に行けば、愛しい人とも逢える……ざっくり言うと、そんな感じですね。あくまでも作品全体ではなく、この曲に関して言えば、ですが」
──震災から1年半ですけど……その記憶をとどめるのも必要なのかなと思ったりもします。
櫻井「自分が一歩踏み出せなかったんで……そういう想いが、このタイトルに繋がったのかなと思います」
──言葉を先に考えるという方法は初めてだったんですか?
櫻井「僕に関してはデモ・テープが来て、はじめて歌詞を書くというやり方をずっと採ってきて、今回のように無音の状態で何かを書くというのは初めてでした。最初はどうしようかな、というのはありましたけど、あとになってそのやり方で随分助かったなと思いました」
──純粋に言葉を練り上げる作業になるわけですね。
櫻井「そうですね。歌詞としてではなくて、自分の歌いたいテーマが多くあったので、デモ・テープを聴いて、どうしようかな、という感じではなかったですね」
──ちなみに他に歌いたいテーマというのは。
櫻井「〈INTER RAPTOR〉とかは、生きるためだけに殺して食うという動物のシンプルな行動と……あと〈RAPTOR〉という名前の戦闘機があるんですけど、猛禽は生きるためだけに殺すけれども、戦闘機は何のために人を殺すんだろうと。……この歌詞では本能とか野生の感じを表現したいなと思いました。〈ADULT CHILDREN〉は、そういった境遇の少年の描写だったり。他にも断片的にはいろいろありましたけど。僕の作詞に関してはそんな感じです」
──今井さんの作業としては、いつものようにデモを渡して詞をつけてもらうというのではなくて、歌詞があって曲を作るという感じになるわけですか?
今井「同時に進んでいく感じでしたね。ストーリーを見ながら曲を書くということではなくて、作曲は作曲で進めておいて、デモを渡して、あっちゃんに歌詞を刷り合わせてもらうという感じでした」
──歌詞を全部書き上げたあとで曲をつけるということではなくて。
今井「刷り合わせの作業には、作曲してる2人(今井、星野英彦)は携わってなくて。家で作曲しながら、あっちゃんが書いたプロットをたまに眺めるとか。〈INTER RAPTOR〉でいえば、“猛禽”という言葉が目についたんで、それを英語で“RAPTOR”として、それを仮タイトルにしたデモを渡してっていう。そういう感じでした。いわゆる歌詞が先で、それをイメージして曲を書くという感じではなかったです」
──BUCK-TICKでは、歌詞は櫻井さんで曲は今井さんというイメージが強いと思うんですけど、ここ最近はシングルの曲でも今井さんが歌詞も曲も書いてるものが目立ちますよね。それが新鮮ですが。
今井「ちょっとバランスが悪いなとは思ったんですけど(笑)。全部俺じゃん、みたいになってるから。でも、シングルはこれかなと思って」
──言葉にしたいことが多かったのかなと思いました。
今井「作詞に関してはそうです。書きたいことがあったり、ここはどうしてもこのメロディにこの言葉を載せたいとか、譜割について、イメージが出てきた場合は自分で作詞をします」
──以前よりそういうケースが増えてるということですか。
今井「そうでもないです。そういう要求が自分の中に出てきたら、というスタンスです」
「MISS TAKE-僕はミス・テイク-」
──シングル「MISS TAKE-僕はミス・テイク-」「ONLY YOU」を聴いたとき、櫻井さんは純粋にシンガーとして、このシングルに関わっているという、ちょっとおもしろい形だなと思ったんですけど。
櫻井「はい……純粋にシンガーとして(笑)」
──そういうスタンスでシングルのレコーディングに臨むのはいかがでしたか?
櫻井「やっぱり割り切りますね。説明を100パーセント受けて納得して歌ってるわけではないですし、そういう必要も感じないので。純粋に歌としてマイクに向かって。自分の思いつきでここはこんなふうにしたらいいかな、みたいなことはありますけど。自分の言葉ではないので、まっ平らにはならないように心がけてます」
──そういうこともあってか歌の表情が曲ごとに違ってて、すごくいいなと思ったんです。シンガーになりきる瞬間があったりすると歌に対する取り組み方も変わってくるのかなと思うんですけど。
櫻井「どうしても人間なんで、好みみたいなものはありますけれど……そこを1歩踏み越えて、自分の身体から出てきた言葉を歌ってるときと同じように、またそれ以上に歌おうとは思いましたね。特に今回はいつも以上に。遠慮とか後悔はしたくないので、やりすぎじゃないのかなというところまでいって、ちょっと調節したり、という感じです」
──最初に今井さんが仰った、メロディやリズムをはっきりしたものにさせていくという考えがあって、そのせいか非常にポップで華やかな作品になっていると思うんですけど、歌のほうもそのあたりを意識していらしたのかな、と思うんですけど。
櫻井「このアルバムは最初から向かい方が違っていましたね」
──というのは?
櫻井「120パーセント自分で出せるところまで出してみて、微調整(して抑えて行く)というか、“これはトゥマッチだけど、ここだったらすごくいいじゃないか?”みたいな。自分で調節ができるようになったというか」
──どの曲も目一杯みたいな感じじゃなくて、いろいろ振れ幅があるという感じですか。
櫻井「そうですね。物語にいちばん合うような歌い方とか声の質感とか、そういうものをコントロールできるようになったのかなと思います」
──それは曲によっては、あらかじめキーワードみたいなものがあるので歌詞ができるまでのプロセスを自分の中でイメージしやすいというか。最終形がいきなりくるんじゃなくて、それまでにいろいろ構築できていくというのもあるんですか。
櫻井「そうですね。それが大きかったのかなと思いますね」
──レコーディング作業自体はスムーズでしたか?
今井「今回はダビングの仕方を変えていて、ほぼドラムを最後に入れてるんですよ。いちばん最後というか、ベースを録って、ギターを録って、シンセを入れて、仮歌を入れて、最後にドラムを入れるっていう。そういうやり方にしたんで、実験的ではあったんですけど、アニイ(ヤガミ・トール)もやりやすかったみたいで」
──なにゆえにそういうやり方にしたんですか?
今井「今までだと、アニイのリハの時間がそんなにとれなかったんです。俺とかヒデが作ったデモを聴きながらのプレイなんで。今回は本チャンの音でアニイが叩くっていう。結構良かったです」
──ある意味、合理的なのかもしれませんね。
今井「ただ、(録音が)ユータからなんで、結構、ド根性出してましたね(笑)」
──最初にその録り方を伝えたとき、ユータくんはどんな反応でしたか?
今井「すべて空気を読んで“やるよ”って(笑)」
櫻井「ふふふ」
今井「デモに結構細かく打ち込んだドラムのパターンが入ってたんで。それを聴きながら弾いてもらいました。それに合わせてプレイすることは難なくできるんだけど、そこに、いわゆるグルーヴというか、前に行ったり後ろに行ったりみたいな、そこでまず自分が納得するノリを作らないとっていうところで結構、頑張ってましたね」
──その成果はありましたか?
今井「音の分離がはっきりした感じはありますね」
──確かに最初に聴いたとき、すごくリズムが立ってる印象を受けて、バンド感が増している気がしました。
今井「その効果も多少あったのかもしれませんね」
──不思議なものですね。一緒にやればバンドらしさが出るのかといえば、そういうことでもなくて。そういう新しい試みが幾つもなされた今回のアルバムですが、自分たちで聴いてみて、手応え的にはいかがですか?
今井「すごく気に入ってます」
櫻井「今までにないぐらい満足しています。作詞や歌という自分のパートはもちろん、さきほど話題に挙がった、新しい録り方だったり、すべてがいい方向に向かって。聴いた感じが、まさにリズムが立ってて……あの兄弟、離したほうがいいかもしれませんね(笑)」
今井「はははは(笑)」
──「CLIMAX TOGETHER」という曲がありますね。これは92年のライヴのタイトルで、その後に同タイトルの映像作品(ライヴビデオ『Climax Together』/92年)が出てますけど、このタイトルの曲は今まで出てこなかったですよね。今まで温めてきたものかと思ったんですが。
今井「そんなに大したものじゃないです(笑)。曲タイトルにしようと思ったことは今まで一度もなかったです。みんなで一緒に盛り上がれるような、シンプルなグラムっぽい曲を作ろうと思って。歌詞を書くときに、どうせだったらフェス用の曲にしようと思って、そういうノリで書いて。で、書き終わってタイトルを考えるときに、“一緒に盛り上がる”っていうところで、いちばん分かり易い言葉として、〈CLIMAX TOGETHER〉がいいかなと思ったんです」
──ジャケットにクリムトの絵画を使われていますが、このアイディアは?
櫻井「デザイナーの秋田(和徳)さんのアイディアです。クリムトの絵のこの部分(初回盤ジャケットの上方部分)に宇宙を感じたらしくて(笑)。ジャケットで使わせてもらった“金魚”という絵はクリムトが自分の意志で描いた作品だったんですけど、当時、酷評されたらしくて。発注を受けて描いた作品は絶賛されたらしんですけど、自分の意志で描いた作品は酷評されて。この絵は批評家たちに向けて描いた作品らしいんです。“ざまあみろ”みたいな感じでお尻をこちらに向けているっていう。そういう反骨精神がBUCK-TICKにはいつもあるんじゃないかと。そういった秋田さんのアイディアで。そう言っていただけるのは光栄ですし、僕もクリムトが大好きなので、使用の許可が下りたときは、すごく嬉しかったです」
取材・文/今井智子(2012年9月)
【BUCK-TICKデビュー25周年を記念した映画が来年劇場公開】
記念すべき“デビュー日”にあたる9月21日、BUCK-TICKから新たな情報が発表。「ニコニコ動画」での特番の中で、デビュー25周年を記念した映画が来年劇場公開されることが明らかに。この度開設されたオフィシャル・サイト(http://bt-movie.com)は、文字と音声のみの謎めいた内容となっており、気になる映画の全貌はベールに包まれたまま。関係者によると既に収録は500時間を超え、膨大な映像素材が集まっているとのこと。

BUCK-TICK FEST 2012 ON PARADE
9月22日(祝・土)、23日(日)@千葉ポートパーク内 特設野外ステージ
http://www.bt-onparade2012.com/


BUCK-TICK 2012年ホールツアー「TOUR 夢見る宇宙」
料金:¥6,500(税込) ※3歳未満入場不可 / 3歳以上有料
〈日程 / 会場〉
10月6日(土)神奈川:よこすか芸術劇場
10月8日(月・祝)静岡:静岡市民文化会館大ホール
10月12日(金)埼玉:川口総合文化センター リリアメインホール
10月13日(土)栃木:栃木県総合文化センター メインホール
10月20日(土)奈良:なら100年会館 大ホール
10月21日(日)滋賀:滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール
10月25日(木)岡山:倉敷市芸文館
10月26日(金)徳島:鳴門市文化会館
10月28日(日)佐賀:唐津市民会館
11月3日(土・祝)兵庫:神戸国際会館こくさいホール
11月9日(金)埼玉:大宮ソニックシティ 大ホール
11月11日(日)神奈川:神奈川県民ホール 大ホール
11月13日(火)東京:渋谷公会堂
11月14日(水)東京:渋谷公会堂
11月18日(日)千葉:千葉県文化会館 大ホール
11月22日(木)石川:金沢市文化ホール
11月24日(土)新潟:新潟市民芸術文化会館 りゅーとぴあ 劇場
11月25日(日)長野:ホクト文化ホール 中ホール
12月1日(土)大阪:オリックス劇場
12月2日(日)大阪:オリックス劇場
12月7日(金)宮城:東京エレクトロンホール宮城 大ホール
12月9日(日)北海道:札幌市教育文化会館 大ホール
12月12日(水)群馬:群馬音楽センター
12月15日(土)福岡:福岡市民会館 大ホール
12月16日(日)広島:広島アステールプラザ 大ホール
12月22日(土)愛知:日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
12月29日(土)東京:日本武道館
【BUCK-TICK オフィシャル・サイト】
http://buck-tick.com/
【BUCK-TICK Debut 25th Special Site】
http://buck-tick.com/25th/
【BUCK-TICK 直筆サイン入りポスターをプレゼント!】
ニュー・アルバム『夢見る宇宙』発売を記念し、BUCK-TICKメンバー全員による直筆サイン入りポスターを1名様にプレゼント。プレゼント・ページより、奮ってご応募ください。
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