2002年のデビュー以来、アメリカのインディ・シーンでも突出したクールネスを保ち続けるバンド、
インターポール。そのフロントマンである
ポール・バンクス(Paul Banks)がソロとしては3年ぶりとなる新作を完成させた。前作がジュリアン・プレンティ(Julian Plenti)名義でのリリースだったのに対して、今回は
『バンクス(Banks)』という堂々たるタイトルが与えられていることからも、ふたつのソロ作品に込められた心情はそれぞれ異なってくるようだ。そこでニューヨークのダンディズムを体現し続けるこの男にメールで真意を訊いてみた。
(c)Helena Christensen
――まず、あなたがジュリアン・プレンティとポール・バンクスをどのように分けて考えているのかを教えてください。
「ジュリアン・プレンティは、僕がインターポールとしてレーベルと契約する前の、学生時代に使っていたアーティスト名なんだ。前作(『Julian Plenti is... Skyscraper』2009年)に収録された曲はそのジュリアン・プレンティとして作ったものだったから、その名義でリリースしたかったんだ。一方でこのアルバムは完全に新しいものなんだよ。とはいっても、このアルバムにはジュリアン・プレンティ時代を振り返った<Summertime Is Coming>という曲がひとつだけあってね。これは『Julian Plenti Live…』(EP/2012年)にも入っているんだ。もしこれから90年代に作った曲をもっとリリースすることになったり、またジュリアン・プレンティとして曲を書く機会があれば、それはジュリアン・プレンティとしてリリースすることになるよ」
――前作はもちろん、インターポールの諸作と比べても、本作からは衒いなくストレートな印象を受けました。
「たしかにこのアルバムには〈Young Again〉や〈Over My Shoulder〉のような、とてもまっすぐな曲がいくつか入っているけど、全体的にはいつもと同じようなアプローチで歌詞を書いたよ。ただ、インターポールではダニエル(・ケスラー/g)が作る曲への反応として歌っているけど、ソロとしてやっている時は自分自身が作った楽曲を受けているからね。インターポールのために作られた音楽とはまた違った性質やトーン、雰囲気を持っていると思う」
――新作はシンフォニックなバンド・サウンドもさることながら、サンプリング等による遊び心が見られるのも気になりました。どのような制作過程を踏んで作られていったのですか?
「まずはギター・リフを考えるところから始めるんだ。そしてロジックというプログラムを使ってコンピュータに録音する。最初にベース・ラインを録って、それからその他の楽器、たとえばフルートやハープ、あるいはストリングスなんかを、プログラム上に用意されているサンプルで構成していくような流れだね。そこからは指でビートを刻んでいく。電子ドラムを使うこともあるよ。そして最後に曲の確認作業だね。アレンジのニュアンスを確かめたり、ヴォーカルを仕上げていく。それが終わったらピーター・ケイティス(今作のプロデューサー。インタポール、ザ・ナショナル、ヨンシーほかを手がける)に電話して、準備ができたことを伝えるんだ。そこまで録ってきたものを、よりよい楽器とプロデューサーを迎えて録り直せば完成」
――インターポールでは出来なくて、このソロでは可能になることを、あなたは具体的にどのようなことだと考えていますか?
「インターポールでの僕はヴォーカリストであり、ギタリストでしかないからさ。僕がダニエルに対して曲に関する要望を伝えることはないんだ。正確に言うと、僕が彼にこの曲は好きじゃないと言うことは可能なんだけど、今までにそんなことが起こったことはないんだよ! それはサム(・フォガリーノ/ds)に対しても同じことで。だからこそ、一人の時は聴きたいと思ったサウンドをなんでも作れるんだよね」
――たとえば「Young Again」や「Paid For That」などのリリックを見ると、この作品では“郷愁”が大きなポイントになっているようですね。あなたがこの作品で表そうとしたフィーリングとはどのようなものだったのでしょうか? 「郷愁というのはまさにこの作品のテーマだよ。特に〈Young Again〉はそうだね。“往年の夢に縛られている場合じゃない”っていう気持ちが表れている。僕は15〜16歳の頃に自分の人生設計を立ててから、20年近くその計画通りに生きてきたんだけど、もうそれは達成したつもりでいるよ。だから“そろそろ前へ進まなきゃ”と自分に言い聞かせてる。ようやく旅を終えて、これから僕の新しい人生が始まっていくんだ。自分への誓いを守ることで得られたものはとても大きいよ。ジュリアン・プレンティもそのひとつなんだ」
――この作品で描こうとしていることはあくまでも私的な内容なのでしょうか。それともあなたの目に映る社会の様相なども反映されているのですか?
「両方ともだね。たとえば〈I'll Sue You〉には嫉妬深くて強欲で最悪な人間の考え方を宿そうと決めていた。実際にそれをやってみるのはとても面白かったよ。僕にとっての音楽とは、ストレスを解消するためにどうしても必要なものなんだ。僕の理性的な心では作ることのできないすべての感情を、音楽を通じて和らげている。明確な理由を説明するのは難しいけれど、僕はただただ音楽を作り続けている。そうすることで少しの間だけほっとするんだ」
取材・文/渡辺裕也(2012年10月)