吉川友が1980年代〜2000年代のアイドル・ポップのクラシックをカヴァーしたアルバム
『ボカリスト?』をリリース! ということで、お話を聞かないわけにはいきません。希代のシンガーにして最強のインタビューイーであるきっかに、今回も多いに語っていただきました。
――前回のインタビューがものすごい反響で。ファンの方から言われなかったですか? 握手のときとかに。
「悪趣味?」
――握手会です。
「あー。言われたかも?」
――今回は、前回とは違って音楽中心というか、普通にいこうと思ってるんです。
「きっか、いつも普通にしか喋れないですよ」
――そうですよね、失礼しました(笑)。アトランタでのライヴはいかがでした?
「楽しかったです。流暢に喋れたので」
――きっかフェスのときに「英語で心をズタズタにされた」って言ってましたよね(笑)。
「それは税関で止められたんです。“何のために来たの? 予定見せて”みたいに言われて。うまく喋れないから通れなくて泣きそうになりました」
――でもライヴでは言葉が通じた。
「ライヴは覚えたことをズラーッと言うだけなんで」
――あはは。ライヴ自体はいかがでした?
「初めての人が多いから、ガッツキ度がすごかったです。ノリは一緒ですね。コールの入れ方も。やっぱネット世界ですね、今は」
――万国共通なんですね。それですぐに戻って、〈きっかフェス〉をやって。短期間で準備が大変だったんじゃないですか?
「大変でした。なんか大変でした」
――特に何が大変でした?
「帰ってきて次の日がすぐゲネプロ(通しリハ)だったんですよ。時差ボケで体が疲れてるじゃないですか。それで歌詞とか覚えられないのが、あはは、あはは、あはは」
――あはは。
「ははは、ははは……(しばらく乾いた笑いが続く)。歌詞が入ってこないし、入ったとしてもすぐ忘れちゃうんですよ。フリとか立ち位置とかもあやふやになってきちゃったし、時差ボケはすごいなって思いました」
――歌詞とかフリが覚えられないのは時差のせいなんですか?
「はい、時差の威力!」
――今回の〈きっかフェス〉ではダンサーがいて、振り付けが変わったじゃないですか。例えば「こんな私でよかったら」とか。
「サビがこれになりました(手を振る)」
――シンプルになったから覚えやすかったんじゃないですか?
「そうなんですけど、元のフリが染みついてるので、変わった部分で逆に難しい部分があって」
――日本に帰ってきたあと、通しで練習して。その前はどのくらい一緒に練習したんですか?
「アトランタ行く前に1日だけやって」
――1日だけなんですね! すごい。
「すいやせん……。(突然)そういえば、こないだ鼻にチューブ入れたんです」
――なんですか唐突に(笑)。
「風邪ひいちゃって。右の鼻の方が大きいってことで右に入れられて。痛かった〜。病院嫌い!」
――病院行かないといけないくらいの風邪をひかれてたんですね。
「そこまでじゃなかったんですけど、ライヴが控えてたので」
――8月下旬も風邪でしたよね。風邪ひきやすいんですか?
「弱ってきたんです、体も心も」
――バスケットで蓄えた体力も、二十歳を越えて……。
「免除に。免除?」
――免除(笑)。使い果たしちゃったんですね。
「はい」
――アルバムが1年のうちに2枚出るというハイペースで。
「じゃあ、落としますか? ローペースに」
――不自然に落とさなくていいと思います。
「年の頭にアルバム、締めにアルバムで。締めにアルバムなんで良い1年になると思うんです。でもハイペースなんですね。そこら辺は考えたことなかったです」
――今回のアルバムは全曲カヴァーになりましたね。曲は以前から知ってました?
「大体知ってたんですけど、〈風は秋色〉はあまり知らなかったですね」
――原曲でいいなと思う歌はありました?
「きっか最近キーが高い曲が多いので、低い曲の方が自分的にも歌いやすいし、聴きやすいから〈恋しさと せつなさと 心強さと〉と〈淋しい熱帯魚〉と〈少女A〉は、アルバムでできあがったのを聴いても、元の歌を聴いても好きですね。この3曲はマストです」
――キーの高さはやっぱり気になる?
「はい。だって高いんですもん……」
――喉がツラいとかですか?
「それもあります」
――他にはありますか?
「それだけですね」
――そうですか(笑)。
「それが90%くらいです。頑張って出さないといけないので。(低い声で)地声が低いので」
――いまワザと低く喋りましたよね?
「あは、でも本当に低いですよ。きっかは」
――「Twinkle Days」も高いから歌えるか心配してましたけど、ライヴでしっかり歌えてたじゃないですか。
「イエッサー」
――さすがでした。だからキーが高いというのを気にしなくていいと思うんですよ。
「でもこうやって言っておかないと、作家さんがどんどん高くしていく一方なので。ストップかけたいんです(笑)。デビュー当時から
〈ハピラピ〜Sunrise〜〉まではかわいらしくて、すごい乙女な声をしてたんですけど、今はガラガラ声というか」
――いやいや(笑)、「ハピラピ」からまだ1年くらいじゃないですか。
「やっぱりそれだけたくさん歌ってきたのかなっていう。それが今になってきてるんだと思います。歌以外の仕事だとやっぱり発声(練習)をしないし」
――ああ、なるほど。素朴な質問していいですか? 将来の夢ってありますか?
「将来ですか? もしこの仕事辞めたら……」
――え、辞めたら!?
「女SP!」
――……!?
「『PON!』に出たときに島田(秀平)さんに占い結果をもらったんですよ。そのときにいただいた紙が出てきて。話ズレていいですか? 昨日、部屋の大掃除したんです。部屋のベースの色が白だったんですけど、掃除したら、ものすごく白が出てきたんですよ。要らないものは捨てて、要るけど要らないものはトランクに詰めて(実家に)持って帰ります。すっっっごい綺麗ですよ」
――遂に掃除したんですね。何があったんですか?
「心機一転、リフレッシュ。いやびっくりしました。白いんです。皆さんも掃除した方がいいですよ。大掃除は年に2回は必要だと思う。気持ちも白くなりました。家具も白くしようと思います。布団も白く。雑巾がけもして」
――ええ、雑巾がけまで?
「暇だから」
――暇じゃないですよね(笑)。で、掃除をしたら、島田さんから書いてもらった紙が出てきたんですね。
「2012年は人脈の年だって言われて。いろんな人に会って、いろんなことをやるって。それで、2013年は花咲く年って書いてあったんです。それでその下に、年を取るにつれてボランティアの精神が出てくると。人を助けたい、みたいな。だから向いてると思うんです、ボランティア」
――SPはまったくボランティアじゃないですよ!
「でもでもでも、人を助けるじゃないですか。だからそれを思ったんです。年を取るにつれて」
――なるほど、それでSPになりたいと(笑)。僕が聞きたかったのは、将来は女優になりたいとか、歌手をこれからもずっと続けていきたいとかそういうことだったんです。
「あーー! そういうことですね。歌は出していきたいです。でも女優さんももっとやっていきたいです。どっちも欲張って」
――じゃあ、今をベースに広げていくような感じがいいと。個人的には歌はずっと続けるだろうと思っているので、まだガラガラ声にはなってほしくないなと(笑)。
「あ“ーい“やー○□×△○△□×□×(聞き取り不能)。……あの」
――はい。
「SPじゃなくて、保母さんに変えていいですか」
――また急に全然違う職業ですね(笑)。
「アトランタに行ったとき、赤ちゃんがいたんですよ。もう、ぷくっぷくでかわいい〜」
――それをいま思い出して、急に保母さんになりたいと。
「はい! 日本の赤ちゃんもかわいいですよね」
――将来の夢を語る時には、もうちょっと思いつきじゃないものを言って下さい(笑)。
「いや〜、夢は行き当たりばったりです!」
――「恋しさと せつなさと 心強さと」はライヴでもやってましたね。原曲を凌ぐくらいかっこよかったです。
「ほんとですか? やっぱり歌っていて気持ちいいです」
――そして「少女A」も歌いやすいと。
「♪じれったい じれったい いくつになっても〜。少女A〜。Aですよ。Bもあるんですか? なんでAなんですか?」
――あはは! なんですかね。
明菜さんのAじゃなさそうだし。
「そうですね……(歌詞がプリントされた紙を広げる)」
――たくさんメモ書きされてますね。
「そうですよ。字は汚いけど部屋が白くなったんです!」
――はははは。この矢印記号はどういう意味なんですか?
「きっか流ですけど、これは音程で、ピッと下がったり。くるりんしてるのは“会いたいぬぉーに”みたいに歌うところです。ハッキリ歌うところは丸をつけたり」
――歌手らしいところを見られました(笑)。これは貴重なメモですね。
「あっ。欲しいですか?」
――いや大丈夫です(笑)。例えば
斉藤由貴さんの「卒業」を聴いて、ここはこういう風に歌うといいんだっていう感じでメモしたりしたんですか?
「〈卒業〉は前から知ってたんです。きっか古い曲が好きだったので。最近ハマってるじゃないですか」
「でも最近聴いてないんですよ」
――どっちですか(笑)。
「最近の
安室ちゃんとか聴いてます。♪do it , do it, do it….do it, a-ha(〈ROCK STEADY〉)」
――なるほど。でも話が繋がらないですよ。
「そうですね」
――すごい短いタームで話されてますよね。ひと月前までは古い曲を聴いていて、ごく最近は新しい音楽を聴いてるということですか?
「はい。でもやっぱコロコロ変わっていきましょう」
――了解しました(笑)。僕からすると、
松田聖子さんと
広末涼子さんの曲ではかなり時代の違いを感じるんですが、吉川さんにとって、こういう懐メロをパッと渡されたときにどういう印象を持つんですか?
「なんとなく曲調違うなっていうのはありますね。昔っぽいなっていうのはわかります。〈MajiでKoiする5秒前〉はPVも見たんですけど、“若い!”って思いました。でも素が出ている気がしました。ああ、こんな人なんだなと思いました」
「♪どぅとぅとぅどぅーとぅるっとぅるっ(イントロを口ずさむ)。一番好きかも。色で言うと黒とか紫っぽいですよね。イントロがダーク」
――当時すごく流行ったんですけど、こういうダークな曲がヒットするのって今考えると不思議ですね。
「当時、Winkのお二人は笑わなかったんですよね? 逆に〈きっかフェス〉ではめっちゃ笑ってやってみようかなって思ってます。対照的に」
――「淋しい熱帯魚」は歌いやすい曲ということでしたけど、逆に大変だったという曲はありますか?
「〈卒業〉と〈LOVE涙色〉ですね。〈LOVE涙色〉は単純に
松浦(亜弥)さんの音程でいくとやっぱり高いから大変で。〈卒業〉は、テンポが遅いじゃないですか? 歌い回しで苦戦した覚えがあります。一番時間かかったんじゃないかな」
――たしかに歌詞の紙に赤線とかマークがたくさん入ってますね。
「はい、語尾とかが難しかったです」
――歌詞で面白いなっていうのはありました? 今と当時書かれたものとでは趣きが違うと思うんですが。
「なるほど……。(紙を机に広げて)いっぱいありますね! 歌詞が!」
――もしかして歌詞はあんまり考えない?
「(無言で頷く)」
――あはは! そうなんですね。
「追々ですかね」
――情景を浮かべたりして歌うわけじゃないんですね。
「内容も考えますけど、それよりは音程、メロディが先です。あと“You & me splashing along the beach”って流暢な英語で歌ってるので聴いてください!」
――
早見優さんの「夏色のナンシー」ですね。英語が上手いですよね。
「きっかも負けてないくらい上手いですよね?」
マネージャー 「うん……聴いていただければなと」
――なるほど(笑)。「抱いてHOLD ON ME」みたいな、グループの曲をひとりで歌うのはいかがでした? 原曲は細かい歌割りがあって成立しているところもあったと思うんです。
「〈きっかフェス〉で初めてやったときはすごい大変で、リハとかでも“歌えない”とか言ってたんですけど、実際やってみるとファンの方も知ってる曲で合いの手を入れていただけるので。グループの曲はファンの方と一緒に歌って成立するのかなっていうのはあります。ラップのところとかも絶対やりたくないって嘆いてたんですけど、ライヴで皆さんが合いの手入れてくれると楽しくて楽しくて」
――やってみたら楽しかったと(笑)。ラップが前後で重なるところはひとりでできないですもんね。
「歌えないところは皆さんがやってくれるので」
――有名曲のカヴァーはパッと聴いてすぐに対応できる良さがありますよね。
「そうですね。もう、歌詞覚えましょ。歌詞!」
――自分に言い聞かせてるみたいですね(笑)。
「ははは、ははは、ははは……」
――そろそろ終盤ですが、次はやはりオリジナル・アルバムですか。
「来年はそうですね。大人がどんな企みをしてるのかわからないですけど。大人は隠すのがうまいので」
――自分で“こうしたい!”とか大人に絡んでいかないんですか?
「挑戦してないです。じゃあこれからガッツリ絡みますよ!」
――ライヴでこういうことしたいって言わないんですか?
「それは言ってます! でも全然ダメなのばっかりで」
――通らなかった意見はどんなこと?
「衣装なんですけど、ここ(下半身)にこういう、白鳥が付いてるやつ」
――(一同爆笑)。なんで!?
「よくないですか? それでバラード歌ったりとか。ギャップ、ギャップ」
――出オチになっちゃいますよ。
「それがまたいいんですよ。いつかやりたいんです」
――その衣装で「こんな私でよかったら」って歌ったり(笑)。
「いいですねそれ(笑)! 最高ですね! どんな私なんだっていう」
――あはは。吉川さん本当に面白いですよね。見た目のイメージはクールなのに。
「そうなんですか? あらまぁ。(アルバムのジャケット写真を指して)この写真は部屋が綺麗そうに見えます?」
――また急ですね。でも綺麗そうに見えますよ。部屋が汚いっていうのは白日の下に晒されてしまってますけど。
「それはもう復讐しますよ」
――復讐(笑)。
「白く塗りつぶしていきます。これまでのことを白紙にします。要らないものは持って帰ります」
――何が要らないですか?
「壊れたイヤフォンとか」
――それは捨てて下さい。
「はは。あとはCDとかですか。もう聴かないだろうなっていう自分の曲とか」
――自分のCDは部屋に置いておきましょうよ(笑)。
「えっ。でも実家にあればいいな的な? あとは台本。たまっちゃうので実家に保存。あ、あの! 部屋にシュレッダーが置いてあるんですよ。昨日初めて使ってみたら、動かなかったんです! 紙系を実家に持っていくのもなあって思って動かしたんですけど、できなかったんです。だから結局トランクに詰め込みました」
――あの、このインタビューは急にシュレッダーが出てきて終わるという形で大丈夫でしょうか。
「へへ。全然、全然。最近の出来事がそれなので。綺麗にすることにハマってます!」
取材・文/南波一海(2012年10月)