4月のソロ活動宣言を経て、今年の夏、本格的に活動をスタートさせた
堂珍嘉邦。デビュー第1弾シングル
「Shout/hummingbird」は、アメリカにて
SUM41や
リンプ・ビズキッドなどを手がけたことでも知られるエンジニア、ジョシュ・ウィルバー(Josh Wilber)と共に制作。自身の音楽ルーツであるロックに美しさとアンビエントな要素を融合し、ソロとしての堂珍嘉邦を堂々と打ち出している。
――ソロ活動がいよいよスタートするわけですが。ソロをやるにあたってどんなことを考え、準備してきましたか。
「今年の1月に
CHEMISTRYでリリースしたアルバム『Trinity』でも5曲、ソロ曲を入れたりしていて。そういう意味では前々から伏線を張ってる状態だったんですけど。そのレコーディングのときに、ある番組の企画でニューヨークに行ったんですけど、空いた時間で曲を作りたくてエンジニア兼プロデューサーのジョシュ・ウィルバーに出会ったんです。今回もその方と制作しようということになりアメリカに行きました。エンジニアとしてグラミー賞も獲られた方ですし、音作りに関しては本当に素晴らしいですね。日本だと分業制だけど、彼はひとりでプロデュースやエンジニアリング、ミックスまで全部やってくれるから、話が早いんですよ。アメリカの感覚と自分の日本の感覚を混ぜてバランスを取りながら作品を作ることが、すごく楽しい作業だったし、音色が圧倒的にいいんで、またやりたいと思ったんですよね」
――音色を重視したレコーディングだったんですね。
「はい、そこは大事ですね。特に〈Shout〉に関しては壮大なサウンドを作りたいとジョシュにもリクエストしました。自分のソロ活動においては、音楽の趣味も雑食なので、例えばR&Bみたいに流行りの音を取り入れてみんな一緒になっちゃうっていう感じじゃなくて。ロックって多少、流行りはありますけど、例えば
ビートルズでいうと、10年ぐらいの活動の中でアイドルっぽい時代があったり、インドに行っちゃったり、サイケな感じになったり、自分が気に入ったものや影響を受けたことをその時々で作品に落とし込めるってところがいいと思うから。ロックは遡っていけばルーツもあるし、それも引用したりしても面白いかなとか、そうやっていろんなことを考えながらやっていきたいんです」
――10月に行われたワンマン・ライヴでも、ビートルズの「Helter Skelter」や「A Day In The Life」などのカヴァーも披露されていましたが。ご自身のルーツであるロックを提示したいという思いがあったんですか?
「〈Healter Skelter〉に関しては、どん底まで落ちてお前に会いに行くみたいな歌で。その感覚がロックの楽しいところだと思い、ライヴでも1曲目の掴みとしてやったんです。〈A Day In The Life〉はごっそりアレンジを変えて、打ち込みでちょっとダークな感じにして
シガー・ロスをイメージした演出をしてみたりしました。そして
ジョン・レノンの〈Mother〉に関しては、〈ジョン・レノン スーパー・ライヴ〉でピアノ弾き語りに初挑戦したんです。あの曲は自分の呼吸でやらないと、演奏してもらって歌うだけっていうのはカッコ悪いから、1ヵ月くらい練習して何とかできて、っていうのがきっかけで。それも今回ライヴでまたやらせてもらいました」
――自分が歌うこと、だけじゃない音やロックへのこだわりがあるんですね。
「音楽って尊いものだと思うし、クオリティは下げたくない。自分なりの欲求っていうのが今あるんですよね」
――「Shout」に関しては、サウンドの中に美しく切ない情景が浮かび上がるような楽曲ですが、孤独を受け入れて前に進んで行くというような歌詞の内容も印象的です。
「この曲は導入から〈Shout〉って言ってて、それがすごくインパクトがあるなと思ったんです。でも、ただインパクトがあるだけの曲にはしたくなくて、自分が今、目指している──“耽美エントRock”って呼んでるんですけど──綺麗なものとアンビエントの融合というのが自分に合ってるんじゃないかなと思って。歪んでても綺麗に感じるようなものも美学だし、自分の声も、ロックをやるからといってハードに叫ぶわけでもない。だから〈Shout〉も、みんなでせーの!のシャウトじゃなくて、インナーなイメージ。そこに綺麗さやメランコリックなところがあるんです」
――確かに「Shout」とはいえ、熱血な感じというより、どこか内なる叫びというか、幻想的な感じですもんね。
「はい。この曲はアメリカで作った何曲かの中でもいちばん耳に残って、聴いた人からの反響もいいので良かったなと。結構シンプルなサウンドの〈hummingbird〉の方が好きですとか言われたらどうしようかと思って」
――それはそれで別にいいじゃないですか(笑)。
「いいんですけど(笑)。ちょっとチャレンジしている感じの〈Shout〉の、この程度で受け入れられないんだったら、ちょっとな〜って思っちゃうから。でも結構反応がいいので“全然大丈夫じゃん!”と思って。これまでにいろんな音楽を聴いてきたし、その上で10年〜11年のキャリアと知識で、その都度、実験しつつこれからもやって行きたいんです」
――受け入れられたら、それが自信になって、また新たな挑戦ができる?
「とは言え、あんまり(反応を)気にしてやってもしょうがない。自分がいいと思えるものを出し続けることには変わりはないので」
――そこは堂珍さんがソロをやるに当たって最優先すべきことだと。
「もちろん。自分のやりたいことがやれて今、すごく自然だし楽しいんですよ。音楽に対するストレスがないから楽ですね。もちろん全然まだまだここからですけど(笑)」
――ソロ・デビューした堂珍嘉邦としてはどういうアーティストでありたいですか?
「“耽美エントRock”ってこと自体が他にないと思うから、それをやります。綺麗なものを引き立たせるためには、激しいものも必要で、その激しさの中にまた綺麗なものがあると思うから、そういうこともやりたい。だからソロとしての立ち位置としても、現実的にできることをして、反響が良ければ大きくなっていくし。今はクオリティ重視で、そこを信じてやって行きたいです」
取材・文/上野三樹(2012年10月)