その歌声を介してルーツや記憶の源流をさかのぼるヴォーカリストの畠山美由紀、そして、感覚や技術を研ぎ澄ませた先で未知なる風景を夢見るギタリストのDSKこと小島大介。近年はソロ活動や別プロジェクトを精力的に行なっている彼らだが、ひとたび、Port of Notesという名のもとに集うと、そこにはノスタルジアとフレッシュネスが合わせ鏡のように同居した不思議な磁場が生まれる。そんな得も言われぬ魅力が、彼らの結成10周年を記念した初のベスト・アルバム『Blue Arpeggio 〜Own Best Selection〜 青いアルペジオの歌』には詰まっている。
「私にとって、Port of Notesはものすごく特別なものなんです。ダイちゃん(DSK)が自然に奏でる和音は私のイメージをかき立てるものがあって、決して一人では生みだすことのできないメロディが浮かんでくる。その最初のインスピレーションを純粋な気持ちで追っていくと、いいものが出来るんです」(畠山美由紀)
1997年春に4曲入りEP
「Port of Notes」を携えてシーンの扉を開けた彼らは、1999年の1stアルバム
『Complain Too Much』、2001年の2ndアルバム
『Duet With Bird』、2004年の3rdアルバム
『Evening Glow』と、ゆったりとしたペースでリリースを重ね、湖面に広がる波紋のように支持を広げてきた。
「渋谷が音楽の街として華やかな時期に活動を始めて、2008年はレコード屋がなくなって、みんな、データで音楽を買うようになって、時代の節目を跨いだ感はありますけど、今、ライヴで10年前の歌を歌っても、昔の歌を歌ってるっていう感じはないんです」(畠山)
「その時々の流行のスタイルは否定しないし、やるんだったら、徹底的にそういうスタイルに寄せるのもありだとは思うけど、本質的な部分では“そういうことじゃないじゃん!”って思って戦い続けてきましたからね。でも、音楽がこれだけ多様化すると、スタイルとしての音楽の効力はさすがに弱くなってきているし、“やっぱり、そうだったじゃん。伝わるのはやっぱり真実なんじゃん”っていう思いは強まってますね。そういう意味において、かつてと比べて、活動しやすくはなったかな、と」(DSK)
日本における90年代後半以降のアコースティック・デュオ・ブームの先駆者である彼らの歌は艶やかではあるが、しかし、多くのグループがそうであったように、味や雰囲気に逃げていないことは本作を聴けば明らかだ。真摯に自分と向き合い、音楽と向き合うことで紡ぎ出されるブルーな色彩のアルペジオ。その滑らかな流れは本作で新曲「あなたについて」を産み落としながら、階段を上るように音楽の真実へと向かっている。
取材・文/小野田 雄(2008年1月)
【Port of Notesベスト・アルバム『青いアルペジオの歌』リリース記念黄金ライヴ】
公演日:2008/03/23
地域:東京
会場:恵比寿LIQUIDROOM
開場:17:30
開演:18:30
料金:前売/税込4,500円 当日/税込5,000円
フロント・アクト:Stoned Green Apples
問い合わせ先:恵比寿LIQUIDROOM 03−5464−0800