1stアルバム
『New!』から、約1年ぶりとなるニュー・アルバム
『Modanica』 を完成させた
LAMA。
フルカワミキ(vo, b)、
ナカコー(vo, g)、
田渕ひさ子(g, cho)、
agraphこと牛尾憲輔(prog)という編成によって生み出された、ロック、ポップス、エレクトロニック・ミュージックの融和された音の世界観は、前作からさらなる深化を遂げた。新たなアプローチで、ポジティヴな光を放つ『Modanica』の楽曲について、ナカコーに話を聞いていこう。
――前回『New!』から新作『Modanica』で、制作方法の変化はありましたか。
「前回は、それぞれ自分たちの楽曲をデータで持ち寄って、それをみんなでビルドアップしていく形だったけど、今回は、小さなループから作りはじめて、その上にどんどん楽曲の要素を付け足してビルドアップしていくというスタイルを採りました。LAMAのライヴのスタイルが、牛尾くんのコンピューターに乗っかって僕らが演奏するというものだったので、今後ライヴをやる上でも、やりやすいということもあって」
――作品自体のテーマはありましたか。
「作曲方法そのものがテーマだった感じですね。このやり方で形になれば、それが自分たちのやりたいことになるっていう」
――実際の制作作業はどのように行なったんですか。
「ほぼスタジオでの作業でした。前回はWEB上でのやり取りで、誰かが曲を投げて、そこから自分達なりに解釈して曲を広げていったんだけど、アイディアを深く考える時間があまりなかったんです。今回は実際スタジオに入ることで、メンバーと直接的にコミュニケーションを取ることができたので、曲を解釈する時間が自然と多くなったんです」
――4人でガッチリ組み合ってのフィジカルな作業だったんですね。新しい発見もできたんじゃないですか。
「そうですね。スタジオに入って、みんなで音を出しながら楽曲を作っていくという意味では、通常のバンドに近いのかなと思いました。このバンドには牛尾くんがいるから、元がコンピューターベースでの制作になるんです。1小節くらいのトラックをループさせて、それをひたすら聴きながら思いついた人が音を入れていくっていう、とてつもなく地味な作業だったんですけど(笑)。その作業を何曲か同時進行でやって」
――確かに地味ですね(笑)。いろんな曲を同時に進めることで、違った曲のアプローチが増えました?
「それもあったけど、最初の頃は曲を限定しないでループだけ作ってたから。どの曲にも合うようにループを作ったり、その中で何種類かカラーの違うものができ上がっていった感じで。あえて変化をつけようって意識はしてなかったですけどね」
――じゃあ、ループの組み合わせをどんどん変えたりしたんですね。
「パズル的なことは何曲かやりました。ただ、それはほんとに最初の段階。CDに入ってる曲は、パズルを終えてから作り上げていったものなので。大体、打ち込みで作るときはそういうことをするのが多いけど、それを4人で共有しながらやるのは初めてに近いですね」
――それぞれの感性が入ることで、結果、音の世界観も広がったと。2作目ともなると、メンバーの関係性もさらによくなったんじゃないですか。
「ライヴも何度かやったし、1枚目より仲よく作りましたよ。田渕さん牛尾くんとも、よりお互いのことが分かって、和気あいあいと作れました(笑)」
――では、曲に触れながら話を進めましょう。1曲目の「For You, For Me」は、ジワジワとサウンドが高揚していく感覚があります。
「曲の構成を作るときに、なかなか歌が出てこない、メインのキックが出てこないとか、今っぽいなと思う構成にしたんです」
――今回、後半にかけて盛りあがりが増していくという曲調が多いですね。
「それは、作り方がシフトしたからですね。既存のフォーマットの曲はなるべくなしにして、メンバー個々が良いと思うところに歌やメロディを入れていって。やっぱり、このバンドの作り方としては、ダンス・ミュージック的な方が作りやすいのかな。ただ、ダンス・ミュージックそのものをやりたいわけじゃなくて、ダンス・ミュージックといわゆるポップスを上手く掛け合わせた、今っぽい擦り合わせをやってみたいなと思ったんです」
「これは、今回のアルバムの制作スタイルに辿り着く前に作った曲なので。EDM(注)って、僕も牛尾くんも、いまだによく分からないけど、ちょっと冗談でEDMを想像してやってみようと思って作ったんです(笑)」
――(笑)。「Know Your Rights」も、『エウレカセブンAO』で使われた曲です。
「元々、劇伴として作ったインストものに、歌を入れて、LAMA的に制作した形でしたね」
――ナカコーさんはサントラ『EUREKA SEVEN AO ORIGINAL SOUNDTRACK 1 & 2』も手掛けられていますね。
「あれは今まで一番頑張ったアルバムかなって(笑)。作品に寄せて作るって一番難しいし、楽しいし、力をいっぱい出さないといけなかったし(笑)。作品として、今までとは全然違う作りだから、初めてのことが多すぎて、一番刺激になりましたね。あと、今の若い子にとって、アニメって、小説とかと同じくらい、すごく大事な文化のひとつになってるから、そこに携われたのは嬉しく思いますね」
――ではアルバムに話を戻して、「DBA」は、明確なループを中心に組み立てられた、ダンス・ミュージック色の強い楽曲です。
「一番最後にできた曲で、これは他の曲と作り方が全然違うんです。一度全員で演奏したものをサンプリングして全く違う曲に構築するっていう。(このアルバムの)次のアプローチって感じがしますね。サンプラーを使った音楽はしばらくやってなかったけど、これはガンガン使ってるから新鮮だなって。あと、今ってサンプラーを使った面白い音楽がいっぱい出てるから、そこからの影響もあります」
――次への展開の一部も垣間見れると。あと本作での、ミキさんとナカコーさんの歌の振り分けは?
「2人でメロディを作っていく中で、どちらが歌うか最初から決めこまなかったんです。歌いながら、聴き心地の良い方を採用しようっていう感じでした。なので、バラバラだったり、2人のヴォーカルが混在してるものが多いんです」
――歌詞は、曲によって書きたい人が書くって感じだったんですか。
「そうですね。ミキちゃんも僕も、牛尾くんも書いてるし。歌詞は合作ではなく、別々に書いたんです」
――『Modanica』の全体のイメージとして、前作より、音も歌詞も、明るさ、希望感があるものに向かっている印象を受けましたが。
「やっぱり、今の時代性というか、そういう方向に向かっていく時期だと思うから。作ってるときはあんまり考えてなかったけど、あとからそういうものになったなと思いましたね。やっぱり去年が去年だったから……その気分をずっと引きずるわけにもいかないし。行くしかないって気持ちが出てますね」
――LAMAの音楽としても、より外に向かってるのかなって。
「外向きには作ってるし、今回のアルバムで、それがより広がったとは思いますね」
――これができて、アルバム全体が見えたという楽曲はありますか?
「しいて言えば、〈Domino〉〈So〉〈Strawberry Burn〉とかのリズムを作ったときに、この方向で良いかもって思いましたね」
――どの楽曲も上ものは別にして、わりとミディアム・テンポなビートですね。
「ループで構築していても、いつもどこに行き着くのかは考えるから。それを今回は、ロック的でも、ダンス・ミュージック的でもない、ちょうど真ん中あたりに落とし込みたいと思ってたんです。このリズムができた段階で、そういう構成ができるなって」
――どこかに寄せるんではなく、あえて真ん中を目指すという新しいトライをしたわけですね。
「今のモードではそうですね。でも、毎回自分が作品を作るときは、常にそのときの真ん中に置きたいって意識はあるんです。どちらかに偏ったものではない曲を作りたい。ただ、自分では真ん中だと思ってる作品が、それほど真ん中じゃないってことはよくあるけど(笑)。だから、自分なりの真ん中を作りたいんです」
――なるほど、自分なりの真ん中感というのは、どんなものですか?
「すべてのものにリスペクトがある楽しさのあるエンタテインメント、っていうのが真ん中なのかなって気はしますね」
――エンタテインメントであり、きちんと意志もある音楽が、真ん中のものであると。では、タイトルの『Modanica』には、どんな意味が込められてるんですか。
「エレクロニックなものと肉体的なものの真ん中にある今っぽい解釈やスタイル、ですかね。あるいは、マニアックなものとポップスの真ん中だったり。今っぽさに相当する言葉があまり浮かばなくて、なんとなく浮かんだのが“モダン”という言葉だったんです。制作中は、“これ現代的アプローチだね”“現代的な作曲方法だね”って言いながら作ってたんで、だったらそのまま『Modanica』にしようって」
――1作目のアルバム・タイトルは“新しい”を意味する『New!』だったわけですが、『New!』と『Modanica』の違いをナカコーさんの中であえて言語化するならば?
「うーん、『New!』はとにかく“新”なるもので、『Modanica』は昔からあったであろうものを、どう構築して今のものとして解釈するかということ。その差は、洗練の差だと思う。前からある概念を、どれだけ今っぽく洗練して見せていくかって違いはありますね」
――「モダン」って言葉のに中にすでにノスタルジックな響きが含まれていますしね。再構築と洗練のリアルタイム感の共存が、『Modanica』には宿っていると思います。完成した作品に対して、どんな思いがありますか。
「いろいろ話してきたけど、聴いてくれる人には、まずは先入観無く自由に聴いてほしいです。LAMAとして、普通に楽しく作っていったので。やっぱり、楽しく作れること自体が、音楽にとって一番良いことだと思うんですよね」
取材・文 / 土屋恵介(2012年12月)
【注:EDM】
Electronic Dance Music の略。ハウス、ダブステップ、テクノなど、文字通りエレクトロニックなダンス・ミュージックを総称する言葉。