――ニュー・アルバムは、前2作以上に1曲1曲の完成度が高いですね。
「今回は制作期間が1年あったから、曲作りとレコーディングを同時に進めて、70曲作った。ニュー・アルバムには手の込んだ作品を中心に収録したけど、いいアコースティック・ナンバーがたくさん残っているから、次作はギター色の強いアルバムになるかもしれないね。コンセプトありきのレコーディングではなかった半面、(ロンドン・オリンピックが開催された)2012年のイギリスを象徴する“ひどい状況でも、いつか必ず良い方向に向かう”というポジティヴなメッセージは届けたかった」
――「ブリック・バイ・ブリック」では、つんのめるようなブレイクビーツがユーモラスな効果を上げています。
「共同プロデューサーでLA在住の、サム・ファラー(元
ファントム・プラネット)と最初に作った曲なんだ。うちの兄貴のトビーも参加したから、“サム、トビー、俺。3人の共作”ということになる。サムはヒップホップのビート作りが得意。一方トビーは、ドラムンベース系MCとして活動していたことがある。ヒップホップとドラムンベース、エクスペリメンタルなアコースティックという、三者三様の持ち味が融合した、おもしろい曲じゃないかな」
――アルバムの表題曲「ライト・イット・オン・ユア・スキン」では、英国人であることについても、歌詞で少し触れられているようですが。
「英国人である、僕の視点で書いた曲だからね(笑)。歌詞で描いているのは“逃避”。誰かから逃げる人もいるだろうし、自分の街や人生そのものから逃避する人もいる。そういったことについて歌っている。で、僕といえば、世界中をツアーして回っているけど、最終的に帰る場所はイギリス。興味深い矛盾が山ほどある国だから、思索を深めるにはいい場所だろうね(笑)」
――ギターの素晴らしさもさることながら、ヴォーカルの多彩な表現力もあなたの魅力です。影響を受けた人がもしいたら…。
――前作(『リビルト・バイ・ヒューマンズ』)収録の「ファースト・タイム」がピーター・ガブリエル、「レッツ・ゲット・トゥギャザー」にはポール・サイモンをほうふつさせるところがあります。 「2人とも大好きだよ。レコーディング中は全然意識してなかったけど、言われてみれば、確かにどちらにも少し似てるね(笑)。次のアルバムで真似してみようかな(笑)」
――レコーディングはLAとロンドンでおこなわれたそうですが、録音地が作品に影響を与えたと思いますか。
「うん。土地柄は常に音楽に影響を与えるよね。ただ、正直なところ、僕の音楽には土地を限定できない側面もあると思うんだ。僕自身、1年の約半分をどんよりしたロンドンで過ごしているのに、曲を聴いた人たちから、“サーフ・カルチャーを連想させる”って言われたりするわけだから(笑)。今回、イースト・ロンドンにあるホーム・スタジオでも録音している。簡素なスタジオだけど、居心地がいいんだよね。自宅にあるから、作業も楽だし」
――ところで息子さんの名前が素敵ですね。ボー・ヘンリー・フォークナー・リチャーズ。何かいわれのある命名なんでしょうか。
「ボウ(Bow)の鐘(注:セント・メアリー・ル・ボウ教会)が聞こえる範囲内で誕生したら、“生粋のロンドンっ子”と呼ばれる。息子はまさにその教会の近所で生まれたので、Bo Henry Faulkner=Richards。“ボー”って響きもいいし、いざという時は“ヘンリー”もついてるから、大丈夫かなって(笑)」
――ありがとうございました。
「こちらこそありがとう。5月に日本を訪れる予定(※Green Room Festival'13へ出演)だ。楽しみにしているよ」
取材・文/真保みゆき(2012年12月)
通訳/湯山惠子