2012年秋。2年後に、国際宇宙ステーションで訓練を受けた後、ソユーズ・ロケットに乗船し、宇宙に旅立つ計画を進行させているとの
サラ・ブライトマン(Sarah Brightman)の発言は、世界を驚かせた。そのサラが、4年ぶりのオリジナル・ニュー・アルバムを発表する。
『ドリームチェイサー(夢追人)』と題された新作について、少女時代から夢見た宇宙飛行への思いの深さだけでなく、その冒険心の強さが常に自分の音楽創造とつながっている事を、改めて示していると感じ、その辺を中心に、新作について聞いてみた。
――ザ・キュアーやダイド、U2、ビューティフル・サウス等を手懸けてきたイギリスの大ベテラン・プロデューサー、マイク・ヘッジスをプロデューサーに選ばれているのには少なからず驚きました。どういう理由からマイクを選んだのですか? 「ご存知の通り、約16年間、フランク・ピーターソンという同じプロデューサーと仕事をしてきた訳ですが、先ず今回は、別の事を試したい、と思ったのです。そこで、じっくりと考え、アルバムを作りたいという“旅”を共にする上で、これまでにはない理念的で精神的な部分はもちろん、物理的なレベルも含めた両面で、私と考えを共にしてくれる人は誰なのか……例えば、曲を選ぶにしても、幅広い視点からとらえる事が出来る人は誰なのかを考え、マイクに行きついたんです」
――僕の印象では、マイクは、尖鋭なロックからクラシックまで、幅広く手懸けてきたベテランで、どちらかというとエンジニア型のプロデューサーだと思うのですが、物理的なレベルの面というのは、そのエンジニアリングの点を指すのですか?
「ええ、そうです。彼は先ずエンジニアとして一流の人です。そしてザ・キュアーやダイドのようなソング・オリエンテッドな人を手懸けると同時に、クラシックの楽曲も手懸けるなど、いかなる分野にも造詣が深いんです。この新作のプロジェクトにおいて、私が必要とする事全てを満たし、理解してくれるに違いないと思ったんですね。
今回のアルバムは、宇宙をテーマにしています。同時に『ドリームチェイサー』というタイトルがつけられている通り、理念的な意味での“夢を追う者”も描いています。そのように“形の無い”何かから、音楽アルバムという“形のあるもの”を創る作業において、これまでとは異なるサウンドを作り出す事が出来るテクニカルな知識を持った人が必要だったんです。私がこれから出ようとしている宇宙への旅が、このアルバムのインスピレーションになった事は間違いありません。そして、その宇宙旅行にしても、宇宙の驚異に触れたり観たりという理念や精神の部分だけではなく、非常に科学的で技術的なもう一方の部分も存在するんです。だからこそ、優れたエンジニアでもあるマイクと組む事で、良いコンビネーションが成立すると思いました。私という“宇宙への思いをインスピレーションにして夢を追う人間”を、マイクというテクニシャンが、技術的に支えてくれた、という事です」
「ええ、まさに旅路のようでした。潜在的に宇宙の広大さを、聴く人に感じさせられる曲を選んでいったのですが……私に与えられた美しい色彩のパレット……音楽で、進む事が出来る広大なスペース(宇宙)を私は手に入れていた訳ですが、その心の旅を象徴する曲を絞りこむのが、作業としては大変な事でした(笑)」
――敢えて、新作のそのコンセプトを象徴する曲、特に思い入れのある曲をひとつかふたつ教えてくれますか?
「それは難しいわ……うーん、どの曲も重要な意味があって……良い一例が〈星空のエンジェル〉。それから、アイスランドのバンド、
シガー・ロスの〈グロウソウリ〉。美しい曲で、非常にドラマティックで、宇宙に旅立つ時に使われる用語でもある“弾道的”な曲です。そしてポーランドの作曲家ヘンリク・グレツキの『非歌のシンフォニー』の中の〈レント・エ・ラルゴ〉。非常に心を動かされた曲です。今回、アレンジを変えてこの曲を取り上げる事を私は初めて許可されましたが、このアルバムに本当に美しいまでにフィットするのです。戦時下のポーランドの強制収容所の壁に残した女性の詩が使われている曲ですが、人間が置かれ得る最も恐ろしい状況の中で一筋の光明を見出し、これ以上無い程にポジティヴな心を歌っています」
取材・文/大伴良則