「この歌詞が来たときに腹をくくりました。“生きていくためにはここで歌わなきゃダメなんだ”」──でんぱ組.incインタビュー

でんぱ組.inc   2013/01/11掲載
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「この歌詞が来たときに腹をくくりました。“生きていくためにはここで歌わなきゃダメなんだ”」──でんぱ組.incインタビュー
 インパクトのある楽曲を数々発表し、ユニークで独創性の高いライヴ・パフォーマンスで、昨年知名度をグンとアップした、でんぱ組.inc。2013 年のスタートダッシュをばっちりキメるように、両A面シングル「W.W.D / 冬へと走りだすお!」をリリースする。「W.W.D」は、ヒャダインこと前山田健一が作詞作曲した、メンバーの実話を元にした勢いみなぎるナンバー。そして「冬へと走りだすお!」は、かせきさいだぁが作詞、木暮晋也が作曲を手がけた、キュ−トなポップ・チューン。カラーの違う新曲2曲について、相沢梨紗、古川未鈴、成瀬瑛美が語ってくれた。
――「W.W.D」は、メンバーの今までが赤裸々に描かれた曲ですが、最初にこういう曲作るって話があったんですか?
古川未鈴(以下、未鈴) 「なかったですね。最初に歌詞がメールで届いたんです。歌い出しが“いじめられ〜”で驚いて(笑)。読み進めるうちに、前向きな曲になって、なるほどなと思ったんです。でも最初は、前山田さんが書いてくれたって分からなかったんです」
成瀬瑛美(以下、瑛美) 「私は、もふくちゃん(でんぱ組.incプロデューサー)が書いたと思いました(笑)」
相沢梨紗(以下、梨紗) 「私も(笑)」
未鈴 「じゃなきゃここまで詳しく書けないと思ったら、前山田さんだよって。いつの間に詳細なことを知っててくれたんだろうと思ったんです。特にこの曲のためにインタビュー受けたわけじゃないし」
――てっきり、歌詞用に事情聴取されたのかと思いました。


未鈴 「してないんですよ。レコーディングの合間の会話から拾ってくれたのかなって」
梨紗 「事前に、もふくちゃんと前山田さんが話し合ったらしいけど、それでも驚きましたね。パーソナルすぎて(笑)」
瑛美 「歌詞の修正すべきとこがあったら言ってね、ってことも言われて(笑)」
――本人チェックがあったと(笑)。直したとこありました?
未鈴 「細かいところなんですけど、(最上)もがちゃんとの掛け合いで、最初は“大好きだった ゲームの敵集団に〜”だったんです。“ここは、ゲームじゃなくネトゲで”って言いました(笑)。もがちゃんのパートは、元々“スペースバー足で押してた”だったのを、“ファンクションキーです”って(笑)」
梨紗 「最初、私のところは、夢を見つけられて良かったって、イイ感じで書いてあったんです。でも、もふくちゃんから“自分の殻を破れ”と言われ(笑)。でんぱ組で充分破ってると思ったけど、まだまだだって。メンバーからも“もっと気持ち悪さをちゃんと出した方が良い”と言われ(笑)。もふくちゃんに、私の強い部分や内面を書いてほしいって言ったら、“中二病 ヒドくて みんな ひいてた”って歌詞になったんです(笑)。メンバーが納得するなら合ってるんだなって(笑)」
瑛美 「私は直しはなかったんですけど、田舎住まいが小さい頃からコンプレックスだったんです。東京はなんであんなにアニメやってるんだとか、歌ってて熱くなります(笑)」
――ネガティヴなノンフィクションを歌うっていうのも、でんぱ組らしいですよね。
梨紗 「歌詞カードの最後に、“これは実話をもとに構成されています”って書いてあるんですけど、そうじゃなかったらすごく嫌みな歌になると思うんです」
瑛美 「私、不幸自慢はイヤなんです。そうじゃなく、みんなほんとに実話なんで。ただドラマチックにするためのストーリーだったら自分で歌うのは無理ですね」
梨紗 「私も、個人的にそういうのが一番嫌いで」
未鈴 「オタクのあるあるですよ、ニワカが大嫌いっていう(笑)。全員、そういうのをやっちゃダメだって分かってるからこそ、できた曲かなと思いますね」
――でんぱ組で前山田さんの作詞作曲は、初めてなんですよね。
瑛美 「そうなんです。前山田さんも同じような境遇を経験してるから、こういう歌詞が書けたんじゃないかなって」
――前山田さんのソロ・アルバムのイントロダクションの語りで、ドブ人生だったってくだりがあるくらいですからね(笑)。
未鈴 「たぶん、近いところがあると思いますね(笑)」




――サウンド面では、勢いがあるし、展開も多いし、かなり面白い作りになってます。
未鈴 「前山田さんが、この夏丸ごと〈W.W.D〉に費やすほど、何度も手直ししてくださったそうで」
瑛美 「前山田さんはめちゃめちゃ忙しい方なのに、1曲でそんなに時間を割いてもらったことが、ありがたくて」
未鈴 「それだけ気合を入れてくれたんだなって」
梨紗 「ほんと、曲の展開がすごくて。サビは印象的だけど、途中で急にスローになったりワルツになったり、サビになったと思ったら急に落ちたり」
未鈴 「音ゲーのボス曲っぽいです」
――それだけ難しい曲だと。実際、歌ってみてどうでした?
瑛美 「最初は恥ずかしさがあったんです。自分を丸裸にされる感じがして。でも今は誇りを持って歌えるようになって、恥ずかしさはまったくないですね」
未鈴 「最初は暗いけど、最後の方はすごく貪欲になっていて。“やってやるぜ!”っていうのを声を大にして言いたい歌なんです。でも、普段言えないことだし、曲に乗せて言えるのがいいですね」
梨紗 「今だから歌えるところはあります。私は、昔、自分に自信がなさ過ぎて、オーディションの自己紹介で喋れず、しまいには泣き出すくらいだったんです(笑)。だから、こんなに自分のことを、世界に届ける歌に入れられるとは思ってなかったですね。でも、この歌詞が来たときに腹をくくりました。“生きていくためにはここで歌わなきゃダメなんだ”って」
――生きてくために歌うと。
梨紗 「ハイ。この曲をライヴで歌うとき、自分の気持ちが浄化されるような気がするんです。なので、自分と近い境遇の人の気持ちも、代わりに歌えたらなって思いがあるんです。この歌に出会えてよかったと思いますね」
瑛美 「一見、メンバーの自己主張が強いような曲だけど、実はみんなが共感できるし、聴いてくれる人の気持ちを明るい方に導くことができればという気持ちで歌ってます」
――素晴らしい。あとやはり、梨紗さんの“マイナスからのスタート 舐めんな!”ってところはインパクトありますよ。
梨紗 「ライヴで歌うときいつも緊張するんです。6人分の気持ちを背負ってるから、毎回ノドつぶしてもいいって気持ちで歌ってます。そのあとの握手会で、ほんとに声が枯れてるんですけど(笑)」
――デス声握手会になってると。でも、それくらい気持ち込めなきゃダメなんですね。
梨紗 「じゃないと、曲に負けちゃう気がします。“舐めんな!”ってすごい言葉だけど、なぜかすんなり歌えましたね」
――でんぱ組の活動を重ねた今だからこそ、過去をさらけ出して負けずに上を目指すという歌を歌えるようになった、というようにも受け取れます。
未鈴 「そうですね。まさか自分の口から武道館でライヴがしたいなんて言えると思ってなかったし、全国ツアーができるなんて思ってなかったし。今でも若干、“マジか?”と思うんです(笑)。それくらい想像してなかった未来なので、ほんとに夢って叶うんだなって。このタイミングだからこその 〈W.W.D〉だなって」
梨紗 「やっぱり、この1年がすごく変化があったと思うんです。今まで以上にたくさんの方々が応援してくださったのもそうですが、一番は、自分たちの気持ちがすごいスピードで変わったと思います」
――1年間で、自分のどこが一番変わりましたか?
梨紗 「2011年の終わりに6人になって、しばらくお互いを探り合う時期があったんですね。すごいガムシャラだったんですけど、結果に繋がりにくかったり、自分が思うようにできなかったりで。でもやっと今、6人でいるのが自然になりましたね。自分のやるべきことが見えるから、走りやすくなった気がします」
未鈴 「実は私は、〈ピコッピクッピカッて恋してよ〉のときに、もふくちゃんにすごい怒られて、初めてみんなの前で泣いたんです。そのときに“見返してやる”って思ったんです(笑)。ずっとその気持ちが続いてて、負けず嫌いが日に日に倍増してます(笑)」
瑛美 「私は、全力で楽しくやりたいというのは昔から変わってないです。でも、6人になってすぐはフワフワしてたんです。〈でんぱれーど JAPAN〉の出るちょっと前から、ガチでプロやってく気持ちがより強くなりました。周りの評価をいただくことや、福島の地元の人から応援されることが多くなったのが大きいですね。ずっと“東京で何やってるの?”って言われてたので(笑)」
――昔の夢が叶ったのが今ですが、ここから先のみなさんの夢ってなんですか。
未鈴 「私は、もっと海外に行きたいです。台北に行ったことで自信がついたし。YouTubeで〈W.W.D〉が公開されて、シンガポール、カナダ、 フランスとか、いろんな国から反響があるんです。動画で観てる人に、ライヴを直にお届けするのが夢です。フランスの〈ジャパンEXPO〉に出たいなって」
――「ジャパンEXPO」は、でんぱ組にピッタリですよ。
未鈴 「パスポートも取ったので行きたいです」
――あ、今までパスポート持ってなかったんですね。
瑛美 「ハイ、行く機会がなくて。台北が初海外だったんです」
梨紗 「私もそうでした(笑)」
――ガンガン海外行きましょう! じゃあ、夢の話に戻りますか。
瑛美 「武道館よりももっと大きなとこでやりたいです。アニソンのイベントでさいたまスーパーアリーナに行ってたので、あそこでライヴをやりたいです。夢はでっかく言っときます(笑)」
梨紗 「私は、アニソンを歌いたいです。でんぱ組で地上波のテーマ曲のアニソンを歌って『アニサマ』に出るとか。やっぱり、アキバから世界に発信してるチームなので、そういうことをやりたいですね」
――それは、もっともな話ですね。では、両A面曲「冬へと走りだすお!」の話題に移りましょう。この曲は、「くちづけキボンヌ」に続いて、作詞かせきさいだぁさん、作曲が木暮晋也さんの、キラキラなポップ・チューンです。
瑛美 「“だすお”とか“キボンヌ”とかって、微妙に古いネット・スラングなんです。でも、その微妙さがキュンとしてたまらないです(笑)」
――歌詞が、好きな人への想いを歌う甘酸っぱいラヴ・ソングです。
梨紗 「現実感のある曲ですけど、でも、でんぱ組からしたら非現実で。こっちの方が二次元ストーリーっぽくていいなって。少女マンガのアニメのワンシーンが浮かんでくるようで。キラキラ過ぎて、歌いながらニヤニヤしちゃいます(笑)」
瑛美 「冬の朝に学校に遅刻しちゃって、食パンくわえてヤバいと思いつつ、彼も気になるってイメージです!」
梨紗 「それ、絶版になってるマンガっぽい(笑)」
瑛美 「その感じが響くのかな」
未鈴 「そんな素朴さが心地いいんです。聴いてて、気持ちいい曲だなって」
――タイトルに掛けて、最近走り出したいこと、やりたいことはなんですか?
梨紗 「DVDが超観たくて。私、映画が好きで、観に行きたいのもいっぱいあるけど、日中は時間がなくて行けなかったりするので。家で早く寝なきゃいけないのに、映画を借りてきて遅くまで観ちゃったり、ってのを毎日やってます(笑)」
――映画はどんなのが好きなんですか。
梨紗 「サスペンス系とか、サブカルっぽいのも好きだし。最近だと、小泉今日子さんの出てるドラマ『贖罪』とか、映画『ダークナイト・ライジング』とか観ました。あと『悪の教典』を観に行きたいんですよ〜」
瑛美 「忙しいけど、コミケに行きたくて。なんとか早起きして朝イチで行こうかなって(笑)。行かないとヤバいです。仕事を頑張れる糧になれるんで。私を奮い立たせてくれるんです!(笑)」
未鈴 「iTunesストアでやたら買うのにハマってるんです。ソニーの音源が解禁された恩恵を直に受けてますね。近藤晃央さんの〈フルール〉をたまたま聴いたらすごくいい曲で、久々にJ-POPを買ったんです。そこから曲を聴きたい熱が上がって、昔聴いてた曲から最新曲とかいろいろ聴いてます。大きく変わったのは、昔は歌詞をあんまり見てなかったけど、今は共感できるようになったところ。“あ、私も人間になった”って(笑)」
梨紗&瑛美 「未鈴が人間になれた!!(笑)」
未鈴 「でんぱ組を通じて、ちょっとだけ心が豊かになったのかなって(笑)。昔はメロディと音でしか聴いてなかったから、バラードが苦手だったんです。でも、切ない歌詞のバラードでも切なくなれるし、楽しい曲でハッピーになれるし。より人間に近づけた気がします(笑)」
梨紗 「未鈴ちゃんから“これいいよ”って聴かされて衝撃だったのは、学校で歌う合唱曲で(笑)」
未鈴 「学生時代に、〈時の旅人〉〈大地讃頌〉とか合唱曲が好きだったんです。そういうのをiTunesストアで買って聴いてノスタルジーに浸るっていう(笑)」
梨紗 「私も合唱は結構好きで、テンション上がるんです。いつか歌おうって(笑)」
未鈴 「ほんともう、iTunesストアでは月50曲くらい買っちゃいます。走り出してます(笑)。でも、好きなものにお金を使うのは良いことだと思うんです。で、みなさんが、でんぱ組を買ってくれたらなって、強引にまとめたりして(笑)」
取材・文/土屋恵介(2012年12月)
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