「何やったって、賛否両論なんだから、思うようにやっとかないと」──堂珍嘉邦、ソロ1stアルバム『OUT THE BOX』堂々完成! 

堂珍嘉邦   2013/02/27掲載
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 堂珍嘉邦がソロにおいて掲げる“耽美エントロック”。そこには自らのルーツであるロックの、美しさと、それを際立たせる激しさやダークな部分の両方を表現したいという想いがあった。ファースト・アルバム『OUT THE BOX』は、そうしたコンセプトと自由奔放なソングライティングの中に、自身の人間性をも浮かび上がらせる意欲作。グラミー賞獲得の名エンジニアとして知られるジョシュ・ウィルバー(Josh Wilbur)をはじめ、日本、アメリカ、イギリス、スウェーデンの作家らと作り上げた今作を語ってもらった。




――アルバム『OUT THE BOX』、聴かせていただきました。堂珍さんのルーツであるロックの多彩で自由な魅力が詰まった作品になってて。何度も聴きたくなりますね。
 「ありがとうございます。何回か聴かないとわかんない感じもあるんで(笑)、それは良かったなと思います。狙いとしては結局、純粋に自分と音楽が向き合った集合体だから、今はこうして半分インディーズみたいな感じでやってるんだけど、でもメインストリームにいた自分もいて、そういう色眼鏡で見る人もいれば、全然知らない人もいる、っていう、いろいろと混在した中で、シンプルに自分に向き合って自分の音楽を作ることが、まず名刺代わりだと思うし、そういう意味では今回のアルバムはそれがちゃんとできたので、良かったです」
――ソロになって1枚目のアルバムで、これだけレンジの広いもの、そしてクオリティの高いものを生み出すには、やっぱり半端な覚悟じゃできなかったと思うんですが。
 「まあでも、出会いが大きいですね。一緒に曲を作った人もそうだし、グラミー賞を獲ってるエンジニアでも、日本でたまに楽曲提供をしている人でも、一緒に作る上で、自分の音の選び方やメロディの出し方っていうのを頼りにやってるだけだったから。僕自身、ゼロから何も考えずにやってるから、偶然できたものもあれば、メロディはできたけど歌詞で何を言おうかな?って悩んだところもあるし。それは単純に生みの苦しみというところで」
――でもアルバムとしてまとまりましたね。
 「まとまってるのかなあ。僕としてはあれもこれもやりたいしっていう集まりなので、グランジっぽいルーズな感じの曲を書いて自分のパブリックなイメージを壊してやろうとか、でもそればっかりでも何だから、ちょっと真面目な自分もやっぱりいるし。自分が熱くなれる、みんなが聴きやすいものっていうのは一応入れておいたんですけど。そこはもう自分のバランス感覚でしかないんで」
――この11曲を聴いて堂珍さんという人が見えてくるという、そういう意味でのまとまりでもあるのかなとも思ったんですよね。
 「そうですね。僕は〈なわけないし〉と〈OKOKO〉の2曲で、ルーズな自分を出すっていうのを一番やりたかったんですよ」
――個人的にはこの2曲が一番好きです(笑)。気怠くミステリアスで。
 「そう、“気怠いの良くないすか?”みたいな(笑)。真面目に歌うのは少しでいいから、と思ってたんですけど。でも結果的には真面目に歌ってる曲が多くなって、それは今の自分の性格だなあって思うし、新しい自分の内面を出すっていうのはやったことのなかったことだから2曲ぐらいしかできなかったけど」
――パブリックなイメージを壊しながら、でも自分の中にある一面を出したかったと。
 「そうですね。こういうルーズな感じの曲はやっていきたいですね。面白さや茶目っ気がないと“何、真面目にやってんの!? ”っていう冷静な自分が出てくるし。とは言いつつ、“ごめんなさい、ちょっと真面目に歌います”っていう自分もいるし。“爽やかなこともちょっとやりますわ”みたいな自分もいる。それを曲にできるのは自分しかいないと思って」
――「OKOKO」とか歌ってるときの自分って新鮮でした?
 「気怠く歌ってハイお終い、みたいな感じでしたけどね。〈OKOKO〉は、アルバムの中でも一番、短い時間で、確かこれ20分で出来たんですけど。そういうのって大概、ユーモアに溢れるんですよ。このガレージ感とかも俺の好きなロックの範疇だったから、これを味付けするとこの世界観が壊れるし、だったら詞で遊ぼうぜ、ってなって。真面目なこと言ってもこのメロディが死ぬし。自分の中で面白くできるところって何かなって思ったら、ルーズなところだったんですよね。三枚目な自分ってところなんでしょうね。堺正章さんとか、所ジョージさんとか」
――ああ、なるほど。
 「昭和の時代には植木等さんという帝王もいらっしゃったなと思って、YouTubeを見たら昭和の無責任男として“はい、それま〜で〜よ〜”って歌ってて。昭和ならではの時代背景と無責任なキャラクターがすごくいいなと思って。僕も平成の無責任男だと自分で思ってるので、それをちょっと赤裸々に面白可笑しく書いたらいいんじゃないかと思って書いたのが〈OKOKO〉なんです」
――無責任男を継承していこうと(笑)。
 「そう(笑)、自分にもそういうところがあるから。この〈OKOKO〉っていうタイトルも勝手に作った言葉で。“あんた私のこと怒ってんの?”“怒ってる?”みたいな意味が“おここ?”になったんですよ。ずっと“おここ”って言っても仕方ないから、“無責任男”から“おとこ”っていいなって思い、“おとこ”と“おここ”で言葉遊びしちゃおうと思って。たまたまその頃、“おここ”って普段から会話で言ってたんですよね」
――自分がもし怒ってるのに“おここ?”って言われたら、もう怒る気なくしちゃうかも。
 「まあ、そうっすね(笑)」
――「なわけないし」も身も蓋もない歌詞ですよね。
 「はい、これも僕の私生活がよく出てる(苦笑)。なんかこう、ちっちゃいムカつきとかも、もう言っちゃえみたいな気持ちだったり、ちょっとエッチな感じもいいかなと思って。〈彼女くると/まるいあながあいてる〉とかも、自分の中でエロなんですけど」
――こうして表現の幅が広がるとヴォーカリストとしての向き合い方も曲によって変わってくるんじゃないですか? いわゆる歌唱力とはまた別のところで。
 「そうですね。技術じゃないですからね。気怠く歌うっていうこともひとつの技術なのかもしれないですけど。等身大なところはもっと増やしたいなっていうのはありますし、かえってそっちのほうが共感するっしょ?みたいなところもあるし。ただ歌を歌うってことに関して言うと、サウンドの一部っていう感じの曲もあれば、メロディラインに乗った強いメッセージとして歌を聴いてほしいというところもありますし。コンプかけて歪ませたりしてヴォーカルなんかは結構、“どっちでもいいよ”って感じですかね」
――そうなんですね。でも綺麗に歌い上げることの気持ちよさっていうのももちろん、知ってるわけじゃないですか。だけど今はちょっとそういうところではないと。
 「それはすごく精神力というか身を削る部分だから、そういうのって大変じゃない?と思って。例えば〈Lasers〉なんかは、絶対に精神力を使っちゃいますもん」
――ああ、なるほど。「Lasers」はこのアルバムを締めくくる、すごく重要な曲ですよね。
 「そうですね。なんかこう、思い続けるピュアな自分なわけだから、そこに向かわないといけないし。どうでもいいと思ってこの曲は絶対に歌えないから(笑)」
――ご自身がソロで掲げている“耽美エントロック”というのは、美しさを際だたせるためのダークな部分や激しさの部分、その両方なのだとおっしゃってましたが。このアルバムは全体的にその“耽美エントロック”とは何であるかを描いていて、最後は「Lasers」で美しい光を見せて終わるというか。そういう感じになってますよね。
 「この曲はストレートなバラードだし、単純で普遍的な言葉で、歌いたいっていうのはあった。光のレーザーのイメージで想いを届けていく、届かせたいなって。地球からレーザーを飛ばしたら何億光年もの間、宇宙に届くようなイメージというか。そういうのを俯瞰して見たときに、美しいなと思ったんですよね。この曲はすごく熱量が要る代わりに、逆に熱量をもらう曲でもあるわけだから、元気になってほしいなとか、勇気を持ってほしいなとか、そういう意味だったり、優しさみたいなところも。自分なりの応援歌にしたかったんですよね。僕は常に人のことを疑ったりするし、自分のことも過大評価せず、このご時世だし、自分が今、これをしたらこのぐらい跳ね返ってくるみたいなこともすごく冷静に見てる。だから、そういうのを勘違いされないように、自分の思いだけで書くっていうことですね」
――自分がソロとして歌っていく上では、例えば応援歌にしろ、無責任なことは歌いたくないっていうことですよね。
 「うん、そうですね。無責任な歌は入ってますけど……」
――はい、無責任な男の歌は入ってますけどね(笑)。でも自分自身に誠実であるってことですよね。
 「そうです、そうです。だから洋楽とか邦楽とか、インディとかメジャーとかも関係ないし、ある意味すごく特殊な、今の立ち位置に要る自分、というところで、純粋に音と自分の言葉に向き合った作品だから、ある意味、すごく贅沢なものではあると思うんですよね。ヒットを作ってくれなんて誰にも言われてないし。でも勝手に、いい曲を作りたいという思いだけはあるから。そこに自分の色を、自分のモードを、ちゃんと1枚のアルバムにできたことはすごく贅沢なことだと思います」
――ちなみにタイトル・チューンの「OUT THE BOX」に関しては?
 「これはもともとアメリカでデモを作ってる時に、4曲できて、時間が1日余ったからもう1曲作ろうってできたのがこの曲だったんですよ。ジョシュ(Josh Wilbur)が“どんな曲が作りたいんだ?”って言うから、“ダーティな曲が作りたい”って答えて。自分の声とは間逆なサウンドの中に悪い匂いのする曲とかが作りたいって伝えたんです。そしたら次の日にスタジオに行ったらウッドベースの音色と、ヒップホップのような打ち込みのリズムでつくったトラックを用意して待っててくれて。ロックじゃねえし、どうしようかなと思いながら、とりあえずメロを作ろうってことになったんだけど、ヒップホップ的に作らなきゃいけないのかなとか思って煮詰まっちゃって。そんな時に、ジョシュが紙に点線をいくつか書いてきて、“ここに4つの線を引いて点をなぞってみて”って言われて。4本の線を引くと、何度やっても、どこかの点が余っちゃうんですよ。無理だな、わかんねえよ、とか言ってて、そしたらジョシュが“こうだよ”って大胆に線を引いてくれて、全部の点が線になったんです。僕はそのときに、決められたベースのラインのコードとリズムだけを意識して、決められたものの中だけに収めようとしてたからダメなんだ、ってことに気づいて。思い切ってもっとやってみる、間違えてもいいから、みたいなノリで再度メロディを入れたら、この曲が全部一気にできちゃったんですよ。それでこのときのことを枠からはみ出す、〈OUT THE BOX〉ってタイトルにしました。これが今回の、まず一発目のコンセプトだと思ったんですよね」
――なるほど、そんな出来事があったんですね。こうして今回のアルバムを作り終えてどうですか?
 「自分の中でのトライアルでしたね。もちろん今いてくれているファンは大事なんだけど、そこに対してだけじゃなくて、フレッシュなゾーンにちゃんと評価してもらいたい。いろいろあるけど、ただこうして自分がチャンジしていくことで変わっていくんだろうしっていうところはずっと持ってやっていきたいなと思うんです。何やったって、賛否両論なんだから、思うようにやっとかないとね。自分自身でツマんないと思うことは絶対やらない。そのプライドは持っていますよ」
取材・文/上野三樹(2013年2月)
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