アリスター、最近ではソロとしても活躍する
スコット・マーフィー(Scott Murphy / 写真左)と
ウィーザーのリバース・クオモ(Rivers Cuomo / 写真右)による新ユニット、
スコット&リバース(Scott&Rivers)。両者の組み合わせもさることながら、先行シングル「HOMELY GIRL」リリースの時点から話題となっているのが、2人が日本語詞によるオリジナル曲に挑戦していること。それぞれが親日家として知られてはいるが……。メインの作詞作曲をリバースが担当し、彼の書いた英語詞をスコットが翻訳。下手ウマな日本語を歌う姿は、2人のナイーヴなポップ・センスや憎めないキャラクターをあらためて印象づける結果にもなっている。1stアルバム
『スコットとリバース』について2人に訊いたが、2人の希望によって会話は日本語。おまけに通訳さんの同席もなし。スコットがペラペラなので特に問題はなかったが、リバースの初々しい日本語をはじめ、ちょっと摩訶不思議な取材の雰囲気もお楽しみいただければと思う。
――スコット&リバース結成のいきさつは?
リバース 「ケッ……セ!?(どういうこと? といった表情でスコットを見る)」
スコット 「How About Start? ってことだよ」
リバース 「オー! ずっと日本語のCDを作りたかったです。少し歌を書きましたけど、 日本語の歌詞は難しすぎました。私の日本語の先生や家内(リバースの奥さんは日本人)にも“助けて”と言いました。でも、難しかった。だから相手が必要でした。それで、“誰か助けてくれる人はいますか?”とレコード会社に相談したら、スコットさんを紹介されました」
スコット 「以前から僕は(J-POPのカヴァー・シリーズ
『ギルティ・プレジャーズ』で)日本語カヴァーをやっていたし、お互いに日本ではユニバーサル(・ミュージック)所属。それでリバースと話をしたら気が合って、“だったらユニットを組もう”ということに」
リバース 「スコットさんは、私の歌詞をよくわかってます。私が日本語で書いた歌詞に厳しい家内も、“素晴らしい翻訳。心配しないで”と言ってます。私もまだまだ日本語が合っているのかわからないけど、スコットさんの歌詞を歌うのは楽しい」
スコット 「日本人じゃないから、そんなに自然と日本語が出てくるわけじゃないけど(笑)。英語の歌詞を日本語に置き換えるのに時間だってかかるし、何回も書き直したりしている。特に日本語は英語に比べて音節が多くて、リバースのイメージはこうなんだけど、メロディに当てはめるために言葉を膨らませなくちゃいけなかったりする。まあ、リバースの考えを汲み取って、言葉どおりに訳していない場合もあるんだけど(笑)」
リバース 「〈HOMELY GIRL〉は最初、“たくさんの彼女を愛してる”といった歌詞だった。だけど、翻訳してもらったら、ひとりだけを愛することになってた。結果的にはそのほうがよかったと思う」
――リバースがずっと、日本語詞のアルバムを作りたいと思っていたのはどうして?
リバース 「んっ……!?」
スコット 「Why do you make……(とリバースに通訳)」
リバース 「(スコットの通訳にうんうん頷いてから)2006年、日本人と結婚しました。後で時々日本の音楽番組を観たり、家内の家族のCDを聴いたりしました。それで日本の音楽に恋に落ちました。とにかくメロディやコードが、繊細でソフィスティケイテッド。アメリカの音楽に比ベ、チャレンジングだと思う。それで自分もやりたくなりました」
――スコットも以前からさまざまなインタビューで、「J-POPのメロディは素晴らしい」とコメントしているよね。
リバース 「たぶんこの後、次のウィーザーのCDはJ-POPに影響を受けたものになる」
――ホントに? ちなみに、リバースが最も挑戦的だと思うJ-POPナンバーは?
リバース 「
木村カエラさんの〈Butterfly〉です」
――紹介作では同曲をカヴァーしてもいるよね。
リバース 「こういう曲は、アメリカでは無理。アメリカはもっと構成やコードがシンプル。とても革新的な曲だと思う」
スコット 「日本の音楽シーンには、いっぱいいいバンドがある。だからこのアルバムを作ることで、世界にJ-POPの素晴らしさを発信できたらなって思う」
――逆にスコット&リバースとしてのJ-POPからの影響と言えば、どんな点が挙げられる?
スコット 「そうだね。特にこういう感じの曲を作りたいとか、こういう歌詞を書きたいといった具体的なことはなかったと思う。とはいえ、2人とも日本の音楽をたくさん聴いているから、自然とJ-POPからの影響が出ているんじゃないかな」
――なるほど。今作はオープニングからラウドな音作りにキラキラしたポップ感が印象的な「BREAK FREE」や、ダンサブルなビートに人懐っこさが交錯する「FREAKIN’ LOVE MY LIFE」、ビート感にJ-ラップからの影響が見て取れる(?)「おかしいやつ」など全12曲が入ってて、クレジットを見ると、ウィーザーの3人や元POLYSICSのkayoが参加していたりも。それこそいろいろな表情の楽曲を収録した一枚になっているよね。
リバース 「1年ぐらい前に初めて通して聴いた時に、驚いた。イイネ!って(笑)。こんなに違うスタイルの曲ばかりなのに、アルバムとして面白いし、気持ちいい」
スコット 「今作は3年間をかけて少しずつレコーディングしてきたもの。だから1曲に集中する時は、全体のバランスを考えずに1曲に集中。そして気がついたら、この収録曲ならば最高のアルバムができるんじゃないかって思えたんだ」
リバース 「このCDは大好き。いい曲ばかりだから、たぶんロング・セラーでしょ」
――よほどの自信作なんだね。
リバース 「少なくとも何年かは、スコット&リバースとして新しいCDを出す必要がないと思います」
取材・文 / 兒玉常利(2013年1月)
ライヴ写真 / TAKU FUJII(2013年1月23日 タワーレコード渋谷にて)