凛として時雨   2013/04/09掲載
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 凛として時雨の2年半ぶりとなるフル・アルバム『i’mperfect』(インパーフェクト)が届いた。「I’m perfect」と読めそうなところだが、実際の意味はその正反対を指すという、いかにも時雨らしいシャレの利いた本作は、TKのソロ活動を経て、改めてこの3人でなければできない音楽が奏でられた作品となっている。今回はTKへの単独インタビューを敢行。タイトルに込めた意味や作曲方法、この3人であることの必然など、話題は多岐に及んだ。まずはリリースペースの話から。
「“まだこの楽曲が持ってる色が他にあるんじゃないか?”
って疑うことはマスタリングの日までやめないかもしれないです」
――2年半ぶりの新作ですが、これは自然なターム?
 「はい。むしろ、みんなが早いんですよ(笑)。毎回、久しぶりですねって言われるんですけど」
――でもソロもあったから。
 「動いてる印象はあったかもしれないですね」
――TKさんは曲が大量に出来るタイプではないんですよね。
 「そうですね。作り溜めるタイプでもないので。作るってなったときに、自分をそこに向かわせる。アルバム用に20曲ぐらい作るとか、そういうのも一切やったことないんです」
――「作らないと」って気持ちになって書く?
 「楽器を持ったときに、どこに導かれるかを探りながら曲を作っている感じです。ギターを弾いたりしてるとき、なんとなく入り口が分かるときがあって。それを3人でどこまで持っていくかっていう作業をする感じですね。到達点が自分の中でなんとなく見えてるときはいいんですけど、自分がどういう絵を描きたかったかを忘れちゃうことがあって。瞬間的にイメージが思い浮かんでイントロを作ったとして、そのときには何かをイメージしてたと思うんですけど、それに対して描きたいものを探す作業が作曲みたいなところがあります。イメージを描き切れたと思うまでは、ずっとやってますね。だから、楽曲としては完成していたとしても、“まだこの楽曲が持ってる色が他にあるんじゃないか?”って疑うことはマスタリングの日までやめないかもしれないです」
――ああ、なるほど。だから『i’mperfect』なんですか。
 「そうですね。自分の作品に関しては、未完成な状態で完成してるっていうのがすごく強い。音楽ってずっと鳴り続けてるものなので、そこに対してアルバムって釘を打たれて、あくまでもその瞬間に映されてる楽曲っていう」
――変化してる間の、ある地点。
 「そうです。それを見られるっていう恥ずかしさもありますし、曲が完成しちゃうとあまり聴かないですね。それまでは毎日のように何度も聴くんですけど。完成を迎えると自分の手から離れてしまうような感覚があって」
――それはどこで区切るんですか? まだ変化していくかもしれないわけじゃないですか。
 「完成形みたいなものは、なんとなく分かるんですよね。でも、それって自分が完成したと思ってるだけで、完成してないんじゃないか?みたいな気持ちもあったりして」
――たとえばマスタリングの日が1週間後だったら、違う曲になってる可能性も高い?
 「そうですね。でも、“あと1週間あったらもっと良くなったのに”とか思うことも全然ないんですよ。ある地点までは、自分に対する疑いを持つことは大事だと思うんですけど、作り終えたときは、それが信じることに変わる。だから、未練みたいなものは不思議とないんです」
「ソロを経て、カラフルな音像からシンプルな音像まで表現出来たことによって、
より時雨で出すべき音像だったり、3人でしか出せない音を意識するようになりました」
――今回はミックスをいろんな人とやってますよね。
 「シングル(〈abnormalize〉)のタイミングで高山(徹)さんにやっていただいたんですけど、いろいろ気付かされることがあって。自分でミキシングをしてしまうと、足りない部分を何かで補ってしまうんですね。たとえばダビングだったり。そういう風に作ることも愉しみだったりするんですけど、そうじゃなくて、シンプルなデータを人に渡して、それを別の角度から見てもらいたい気持ちがあって。プロフェッショナルな人にお願いすることで、より3人の音が伝わるのであれば、それを聴いてみたいなと思って。それが軸となっていて、今回はイメージするエンジニアさんがいる楽曲に関してはお願いしてみようということになりました」
――ご自身ですべてを完結させたいタイプだと思ってたんです。
 「意外とそうでもないというか」
――みたいですね(笑)。
 「自分にしか出来ない音像と、人にしか作れないものと、どちらにも興味があったりするので。本来はバンドにいるメンバーが録音して、自分でミキシングするっていうのは、いちばんピュアな状態だと思っていて。でも、それによって見えなくなってしまう部分もあると思うので、人に託すことによって、自分が出せる時雨の音像と、自分が見失ってる時雨の音像を確認するような感覚もあります」
――TKさんが作るサウンドって得体のしれないパワーみたいなものを感じるんですけど、他の方がやった曲も、これはこれで今までになかった新鮮な音だと思いました。
 「僕のミックスはすごい圧で3人の音が迫ってくるようなイメージで、それは時雨としてすごく自然な形で、狂気的に鳴ってると思うんですけど、それじゃちょっと分かりづらいと思っちゃう人もいると思うんです。逆に分離がいい音を物足りなく感じる人も結構いると思うんですね。僕も人にお願いして最初のミックスが来たときに、これだけ分離がよくなって見えるものがありすぎると、本質が分からなくなっちゃうかもしれないなと感じることもあって。それを自分の方向に寄せていく作業が面白かったですね。エンジニアさんからしたら、自分でやったほうがいいじゃんって感じる場面もあったかもしれないですけど。でも、エンジニアさんが作った解釈を自分に寄せていくプロセスっていうのは、僕がプロの方に寄せていくのとは全然違うものになるので、すごく新鮮だった。出来るだけ怯まずに、エンジニアさんを通して自分たちの音を作るんだっていう意識を持って臨んだところはありました」
――前作は、吐息でリズムを取ったり、鍵盤を入れたりした曲があったじゃないですか。端的に言うと多彩なことをやっていたと思うんですけど、今回、すごく3ピースを感じる音になってますよね。
 「ソロを経て、カラフルな音像からシンプルな音像まで表現出来たことによって、より時雨で出すべき音像だったり、3人でしか出せない音を意識するようになりました。ソロは、ミュージシャンの数もそうですし、いろんな枠を取り外した状態で表現したいことを出来るので、なんでも出来るんですよね。弦やピアノが入っていたり。だから今回は3人でやる理由と強みを究極まで突き詰めないといけないなと思いました。この3人でやる意味を強く感じたかったので、そこに対する挑戦でもあったんです。“やっぱり、2人の演奏はカッコいいな”って興奮出来るようなところまで持っていくのも自分の役目でありたいと思ったので、自分へのプレッシャーも凄かったですね。345と中野君は、本人たちが思ってる以上に魅力的なものを持ってると思うんで、それを引き出す作業っていうのは意識しました」
――アレンジは3人で詰めていくんですか?
 「3人で詰めるっていうのはあまりないですね。今回も僕がほとんど録りをやってるんですね。録りをやってるのは結構大きいかもしれないです。録ってる中でのディスカッションを通じて、フレーズや曲がどんどん変わっていくので。別の人が録るときは、決まった曲を録るときしかやらないので、そこにおけるミラクルみたいなものはあまりないんですけど、自分が録るときは、“これも録っといていい?”とか“3拍子にしてみよう”とか、無限の可能性があるので。今回、ミックスは人に頼んでも、録りはあまりお願いしなかったっていうのは、そこが影響してるんです。データを渡すときも、僕が1回ミックスして、エフェクトのトラックも含めて渡してるので」
――こういうイメージでっていう。
 「はい。なので、今回のアルバムも人に頼んだことによって何かが失われてしまったという感覚がないんです。いかにも人に頼みましたって感じでガラっと変わってしまうと違うなと思っていたので。自分が録りをやって、データを渡すところまでちゃんとやってるっていうのも結構、大きいかもしれない」
――2人の魅力を引き出すっていうところで、時間もかかりそうですね。
 「かなりかかりますね。だから、2人も“そんなことするの?”っていうことの連続だったりするんですよね(笑)。完成したときに、“TKがやりたかったのはこういうことなんだ”って初めて分かるようなイメージの描き方だったりするので。ドラムだけ録ってるときなんか、“何がやりたいんだ?”って感じだと思うんですよ」
――先が見えなすぎですよね(笑)。
 「3人いる状態で僕が曲を作るときも、こういうフレーズが欲しいって中野くんに叩いてもらって、それを1回録音して、それにベースとギターをフレーズを変えながら重ねていく。だからレコーディングと曲作りがすごく密接に関係してるんです」
「不思議なトライアングルだと思うんですよね。
3人で一緒に曲を作ることが一番、凛として時雨から離れるっていう(笑)」
――今回のアルバムは歌メロがいつも以上にメロディ然としてるなと思いました。
 「もともとJ-POPを聴いて育ってきているので、自分が作るものはポップでありたいっていう意識が強くあって。ヴォーカルのヴォリュームもそうですけど、歌に対する意識は、今までに比べると言葉も含めてちょっと変わってるかもしれないですね」
――なんでだと思いますか。
 「今まであったフィルターを通さなくても、自分を出せるようになったのかもしれない。何か伝えたいことがあったとしても、尖ったもので隠してた部分もあったんですけど、それって結局、尖った部分しか見えなくなっちゃうんで(笑)」
――そこばっかり目立っちゃうみたいな。
 「意識的にフィルターを取ったわけではないですけど、歌とか歌詞を作りながらオケを作っていったのも大きかったかもしれないです。1回オケを作って、そこに歌をはめてしまうと、どうしてもサウンドのトゲのイメージが自分の中にも植えつけられてしまうので。そこに意味のある言葉を投げかけるのってあまり好きじゃないんですよね。スピード感が落ちてしまう感じがして。でも、今回はAっていうセクションを作ったとしたら、そこにまず歌を入れてみてっていう感じで作ったりもしました」
――ちょっとずつ音と歌を作っていくのって、大変じゃないですか?
 「僕はセッションで作っていく方が大変なんです。今回は最初、セッションで作っていこうとしてたんです。勢いで作ってみようと。今までセッションで曲を作るということに対して、自分から逃げていたところもあって。曲作りにおいては、完全にひとりでやってるという感覚でいるので、それを3人にすることによって、自分が作りたいものの純度が薄まってしまうんじゃないかと。言い逃れが出来るような感じもしちゃったんです」
――みんなで作ったものだし、って。
 「それはそれで3人の色が出るのかもしれないですけど。で、試しにセッションをやってみたんですけど全然良くなくて(笑)。やっぱり凛として時雨というバンドは、2人の魅力をいかに僕の楽曲で引き出すことによって出来てるんだなということが改めて分かりました。僕が何も見えていない状態で3人でスタジオに入っても本当に時間が過ぎていくだけなので(笑)」
――演奏が上手いから、ある程度は形になるんでしょうけど。
 「そう、“ある程度”なんですよ(笑)。そこはあの2人も感じてると思うんです。“俺たちにも曲を作らせてほしい”とか、そういうこともないですし」
――そうなんですね!
 「普通、僕がこれだけ全部を作ってたら、メンバーから不満みたいなものが生まれてくると思うんです。その感覚がまずないですし。あの2人はその領域には踏み込まない」
――345さんと中野さんとは、いつぐらいから今みたいな形で制作のコンセンサスを取るようになったんですか。
 「最初からそうですね」
――それは驚きました。
 「ドラムを募集するときにも、すでにデモがあったので。345に関してはベースを始めるところから僕が教えてたりしたので」
――2人は、ミュージシャンとしてのエゴみたいなものを演奏そのもので昇華してるのかもしれないですね。
 「そうですね。そこも含めて僕が提示してなきゃいけないっていうのはあります。“本当はこういうのをやりたいのに”とか思われないようなものを。デモを渡す段階で“この通りに叩かなくていいよ”とは言うんですよ。でも、〈abnormalize〉とか、本当にデモそのままですから」
――(笑)。
 「“TKが作ってくるフレーズはカッコいいから”って言ってくれて。ソロに参加してくれたBOBO(ds)とか、ひなっち(日向秀和 / b)は結構、自分なりにフレーズを変えてくるタイプなんですよ。でも、あの2人は僕のフレーズを忠実に再現してくれるんですよね」
――ある意味、とてもプロ的ですよね。監督とプレイヤーの関係。
 「徹してるというか。常に受け入れられる態勢にあるっていうのが、結果として凛として時雨という3人の音になるという。不思議なトライアングルだと思うんですよね。3人で一緒に曲を作ることが一番、凛として時雨から離れるっていう(笑)」
「凛として時雨というものを壊したくないと思ってるのは誰よりも自分だと思うし、
その裏返しで自分自身を苦しめてるところはあるのかもしれませんね」
――すごく素朴なことを伺ってもいいですか? 10年間、なんで続けてこられたんだと思いますか?
 「自分に対して満足出来てないからでしょうね。日々の中で、次はどんな曲を書こうかなとか、次はどんな作品にしようとか、楽しみに出来る人間じゃないんですよ、僕は(笑)」
――そうみたいですね(笑)。
 「極限まで息を止めていて、最後の最後に息を吸うような感じで、なんとか作品を産み落としてるみたいな。首を絞めてるのも自分なんですけど(笑)。そんな感じの10年でしたね。アルバムを作り終えたあとに“次、こんなアルバム作りたいんですよ”って言ってる人とかほんと凄いなと思います」
――教えてくれよって(笑)。
 「はい(笑)。これは変な意味じゃないですけど、いつ終わるか分らないっていう儚さは僕自身も感じてますし、独特な危うさみたいなものが曲から出てるような気がするんです。でも、そういう形でしか時雨の作品を産み落とせないんですよ。ソロではそういう危うさがあまりない気がするんです。たぶん凛として時雨に取り組んでる自分の精神状態が異常なんでしょうね(笑)。凛として時雨というものを壊したくないと思ってるのは誰よりも自分だと思うし、その裏返しで自分自身を苦しめてるところはあるのかもしれませんね。だから作品を作ることも、ライヴをやることも、楽しいっていう感情だけでは出来ないんですよね。凛として時雨は、自分が表現したいものをちゃんと表現出来てるかということを何度も確認するような精神状態でライヴをやってるので。終わって解放された瞬間はすごく気持ちがいいんですけど、その他の部分はすごく苦しいというか。凛として時雨に対する自分の中でのハードルって、すごく高いんですよ」
――高すぎですよね(笑)。常にそういうアンバランスな感情を抱えながら活動を続けてきたわけですね。
 「そうです。でも、自分に対するフラストレーションみたいなものがソロで結構抜けた感じはありましたけどね。これ以上バンドを続けられないからソロをやるっていう精神状態ではなかったんですけど、たまたま中野君が足を故障してしまったり、そういうタイミングでソロを作ることになって。結果的に、自分が枠の中で苦しんでいたのが分かったっていうのはありますね」
――俯瞰で見られたと。あと、作品の受け取られ方も考えているじゃないですか。ファンの方の反応も気になったりしますか?
 「うーん、ファンの反応よりは2人の反応の方が気になりますね。さっきも話に挙がりましたけど、アルバムが完成した時点で自分の役割は終わっちゃうので。どうアウトプットするかに異常に執着するんですよ。だから、それがどうインプットされるかというところにはあまり意識が行かないというか。出来上がったら手から離れてしまうので、そこから先はみんなの作品になればいいかなと思ったりしますし。それよりは、あの2人にカッコつけたいという気持ちのほうが強いですね(笑)」
――なるほど(笑)。実際、完成形を聴いてもらって、どんな反応が返ってきましたか?
 「あの2人が良くないと言うようなものをそもそも持っていかないので、“今回も凄いね!”ってすごく喜んでくれて」
――それはよかったです(笑)。
 「よかったです(笑)。プレイヤーに徹してくれてる以上、それを飲み込むような楽曲を僕は提示しなきゃいけないと思っているので。“この曲を弾きたい!”とあの2人に思わせる義務が自分にはあると思うんです」
――常に“弾きたい”と思わせるフレーズを提示し続けた10年。
 「変な言い方かもしれませんが、2人には常に僕の楽曲の1番のファンでいて欲しいんですよね」
――お2人も自分のポテンシャル以上のものが見れたら、それは単純に嬉しいですもんね。
 「ライヴは大変ですけどね(笑)」
――そっちですよね(笑)。ライヴも予定がありますね。
 「そうですね。徐々に準備して」
――とりあえずは6月28日の武道館まで。
 「頑張ります」
取材・文/南波一海(2013年3月)
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