【黒田卓也】歴史の先っちょに立っている――世界が注目するトランペッター、ついに凱旋リリース!

黒田卓也   2013/07/26掲載
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 ニューヨークを中心に活動するトランペッター、黒田卓也の日本デビュー作『シックス・エイシズ』がP-VINEから6月に発売された。2010年に『Bitter and High』、2011年に『Edge』、2012年に本作と3枚のアルバムを自主制作。その3枚目が日本で出ることになったのだ。1980年2月21日兵庫県芦屋市の生まれ。甲南中・高・大学を経て、2003年に渡米してニューヨークはマンハッタンにあるニュースクール大学に進学。ホセ・ジェイムズ・バンドでも活躍中の好漢に話を聞いた。
(C)Katja Liebing
――そもそもトランペットを吹くようになったのは?
黒田(以下、同) 「おやじが趣味でクラシックを聴いていましたが、特別音楽的な家庭というわけではなかった。兄が中学・高校のビッグ・バンドでトロンボーンを吹いていました。兄貴がいるからいやだと、最初は入りたくなかったったんですが、たまたま体操部の部室に行く途中、兄貴の友達につかまって無理やりトランペット吹かされたのがきっかけですね。ビッグ・バンドでカウント・ベイシーグレン・ミラーを吹いていました」
――よく聴いたトランペッターは?
 「10代の頃はクリフォード・ブラウンばっかり。マイルスはニューヨークに行ってから聴きました。ブルー・ミッチェルとかディジー・ガレスピーとか、みんな好きです。ロイ・ハーグローヴはヴィレッジ・ヴァンガードに出ている時は、ずっと見てましたね。ホセ・ジェイムズのバンドで2年半前のジャワ・ジャズ・フェスティヴァルに出た時、憧れのロイ・ハーグローヴと同じステージに立ったんです。ロイが吹くのをソデで聴いていて、次が自分たちの出番。同じお客さんを前に、同じトランペットをロイのあとに吹かなくはいけないと思うと、頭がおかしくなっていましたね。ロイからはたくさんのことを学んだし盗んだし……。本人のあとでやると、彼のクローン人間みたいに思えて、これじゃいけないと、それから自分自身を探すようになりました」
――どのようなジャズを目指しているのですか?
 「12歳でジャズを始め、カウント・ベイシーやクリフォード・ブラウンを聴き、大阪のクラブで演奏するようになり、スタンダードをたくさん覚えて、ニューヨークに行って10年。いろんな音楽に触れたり同世代のミュージシャンと関わっているうちに、自分の意識の中で、自分は歴史の先っちょに立っていることをすごく感じるようになった。いま生きている人はみな先っちょにいるわけだから、いまというのを意識した音楽をやりたい」
――『シックス・エイシズ』について聞かせてください。前のアルバムでは「ラウンド・ミッドナイト」とか「フォー・オール・ウィ・ノウ」のようなスタンダードもやっていましたが、本作は全曲オリジナルですね。
 「〈グラッパ〉は食後酒のこと。景気づけのオープニング・ナンバーです。〈ジャフロ〉はそのものすばりのジャパニーズ・アフロ〈ペッパー・キャラメル〉は昔の淡い思い出、キャラメル状の苦い思い出といったイメージの曲。〈トランク・ベイ〉はヴァージン諸島セントジョン・アイランドにあるきれいなビーチの名前。〈レッド・コーナー〉はプロレスとかボクシングの赤コーナーのこと。タイトル曲の〈シックス・エイシズ〉はセクステットの全員がエースだという意味」
(C)アカセユキ
――個人的にはブルースの「バイト・ザン・バーク」がお気に入りなんですが。
 「ブルース大好きなんです。ブルースしかできなかったから、ニュースクールでみんながコンテンポラリーなことやってるなか、“ブルースの時だけ元気になる日本人”みたいな扱いを受けましたね」
――3管編成のダイナミックなジャズですね。
 「ビッグ・バンド出身、ホーン・セクションが好き、アレンジが好きなんで、結果としてこういう形になりました」
――ところで、ホセ・ジェイムズとの関係は?
 「学校(ニュースクール)が一緒。彼は少しあとから入ったんで、学校で交わることはなかったけど、たまたま共通の知り合いのコンサートで一緒になった。その時、彼は『ブラック・マジック』の録音中だった。今年のスケジュールは12月まで、ほとんどホセのバンド。月に2週間は一緒ですね」
――使用楽器は?
 「バック。ニューヨーク・バック。ニュースクール2年の時、親友が楽器屋で働いていて、朝9時に電話がかかってきた。お前が探していたやつが中古で入ったぞと。音色に惚れてしまって、とりあえずその場は100ドル置いてきた。でもこの楽器、じゃじゃ馬ですぐ故障するし、扱いがとても難しい」
――夢は?
 「いつかはストリングス・アルバムを作りたい。クリフォード・ブラウンのストリングス・アルバムは、ぼくのバイブルです」
取材・文 / 市川正二(2013年7月)
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