沖縄県うるま市で生まれ育ち、沖縄民謡の唄者として活動を続けてきた、
上間綾乃。彼女は昨年リリースされたメジャー・デビュー・アルバム
『唄者(うたしゃ)』でポップスのフィールドにも自身の世界観を拡張させ、幅広く注目を集めたばかり。早くも到着したメジャー2ndアルバム
『ニライカナイ』は、
ASKAのサウンド・プロダクションをサポートしてきた
澤近泰輔が全曲のアレンジを担当。成長著しい彼女の現在の姿を捉えた力作となった。現在も沖縄を拠点にしながら、慌ただしく日本全国を飛び回る彼女。真っすぐこちらを見つめながら「前作以降でありがたいことに歌う場も増えたし、いろんな出会いがありましたね」という上間の現在の言葉に耳を傾けてみよう。
――前のアルバムを作り上げたことで自信を得られた部分もあったんじゃないですか。
「そうですね。沖縄の民謡には無限の可能性があると思うんですけど、以前はその可能性をどうやって表現するべきか分からなくて。でも、『唄者』でどう曲にすればいいのか、分かったことが多かった。今回の作品では澤近泰輔さんとやらせていただいたんですけど、スタジオで音を一緒に出してみたらスッと合ったんです。音で繋がる感覚があった」
――今回はイントロやインタールードが挟み込まれていて、全体として物語的な構成になってますよね。
「アルバム・タイトルの『ニライカナイ』っていうのは沖縄の海の彼方にあるとされる島で、命が生まれた場所と言われてるんですね。五穀豊穣、子孫繁栄すべての幸をもたらす島で、この世で命が終わると帰るとされている島。命の大きなサイクルを表してるんですね。今回はその“ニライカナイ”が大きなテーマ。一枚を通してストーリーが伝わる内容にしようと思ったんです」
――リード曲「ソランジュ」は作詞が康 珍化さん、作曲が都志見 隆さんという日本の歌謡界を支えてきた重鎮2人による書き下ろし曲ですね。 「曲を作っていく過程でみんなで何度も話し合ったんですけど、みんな泣いてましたね……(小声で)大の大人が(笑)。その思いを康さんが歌詞にしてくださったんです。康さんの歌詞は言葉ひとつひとつに魂が宿っていて、心の奥底を掴まれるような感覚がありました。今だからこそ歌わないといけない歌があるし、伝えないといけない思いがあると思うんですけど、この歌はまさにそういうものじゃないかな」
――“今だからこそ歌わないといけない歌”というのは震災以降の日本でどんな歌を歌うべきか、ということですか。
「そうですね。その点はみんなと話し合いましたし、そういう思いはだんだん強くなってる気がする。人との出会いが増えていくなかで意識が高まってるんでしょうね」
――今回は沖縄民謡の「ヒヤミカチ節」もカヴァーされてますよね。昭和28年、戦後の荒廃した沖縄で大ヒットしたものですが、そんな「ヒヤミカチ節」を歌っている点にもメッセージが込められているように思います。
「楽しいだけが沖縄の歌じゃないし、ああいう時代だからこそ生まれた歌だと思うんですね。"苦しいなかでも少なくとも前向きに生きよう""せめて音楽を聴いている間は明るい気持ちでいよう"という先人の思いがここに詰まってると思うんです。そういう精神を受け継いでいきたいと私も思ってて」
――最後の「あいうた」にもアルバムのメッセージに通じる思いが込められているように思います。
「〈ニライカナイ〉や〈ソランジュ〉は命のサイクルを歌ったものですけど、この曲もそうですね。いろんな人と出会うほど別れも多くなるわけですけど、そういうなかでしっかり前向きに生きていかないといけないと思ってて、今回アルバムで録音することにしたんです。この曲もね……レコーディング中に泣いたの」
――すぐ泣いちゃうんですね。
「そうなの。涙もろくて……この曲では自分の師匠のことを思い浮かべちゃったんです。歌の楽しさも芸の厳しさも教えてくれた人なんですけど、そういったものをちゃんと受け継いでいきます、という思いを持ってレコーディングしていたら泣けてきちゃって。すぐに入り込んじゃうんですよ」
――そういうこと、ライヴでも多いんですか。
「今は感極まる前にキチンと歌わないといけないから、自分をちゃんと落ち着けつつ、魂の部分はしっかりと歌おうとしてます。だから、歌い終わると結構ぐったりしちゃうんですよね」
「やってます。月に1回、4年目になりますね」
――これだけのハードスケジュールのなか続けるのはかなり大変ですよね。
「休めばいいのにねえ(笑)。でも、生徒さんも真剣なので、それに答えないといけないから……新しいことをやるには、地がしっかりしてないとダメだと思うんですね。土台があるからこそ新しい表現にも挑戦できるので、そこはしっかりやりたい。土台がしっかりしないとグラグラしちゃうから」