デビュー25周年を迎えた
遊佐未森が、2枚組ベスト・アルバム
『VIOLETTA THE BEST OF 25 YEARS』をリリース。「瞳水晶」「地図をください」などを収録したオールタイム/ベスト(DISC1)、
渡辺等(b)を中心としたバンドメンバー、アコースティック・コンサート“cafe mimo”のメンバーなどとレコーディングしたセルフ・カヴァー(DISC2)から構成される本作は、彼女のキャリアと現在の音楽性をたっぷりと体感できる、まさに記念碑的な作品に仕上がっている。
――25周年を記念した『VIOLETTA』は、ベスト盤とセルフ・カヴァー盤で構成された作品。充実の内容ですね。
「2枚ぶんの力を注いだ感じですね。ベストですけど、オリジナルに近いような感覚もあるし。DISC1はレコード会社3社の垣根を越えて選んだ14曲なんですが、それも初めてのことなんですよ。DISC2はどちらかというと、ライヴ盤みたいな捉え方なんですね、私のなかでは。いま、いろんなタイプのコンサートを年間通してやっているので、それぞれの良いところが出せたらなって思って。渡辺等さんを中心としたバンド、アコースティック・スタイルのcafe mimo、あとは
栗コーダーカルテット、
tico moonの方々だったり、“いま、こんな形で音楽をやっていますよ”というお知らせにもなったらいいな、と」
――“現在の遊佐未森”も体感できる、と。DISC1の選曲をする際、当時の事を思い出したりしました……?
「いろいろ思い出しました(笑)。今回、マスタリングをし直してるんですね。Calum Malcom(スコットランド在住のプロデューサー/エンジニア)にやってもらったんですけど、すごくカッコいいマスタリングを施してくれて、いままでとは違う印象で聴こえてくる曲も多いんですよ。そのことによって、“あ、こういう音で弾いてたな”とか、いろんなことを思い出して……。置き忘れていた思い出が掘り起こされていくような感覚もあるし、ファンの方も新鮮に聴いてもらえるんじゃないかなって。Calumは“変わったことはしていない。原曲を活かして、自然に仕上げた”って言ってるんですけど、やっぱり素晴らしいですね。上品なカッコ良さっていうのかな。芯があって、上質な音を提供してくれるんですよね」
――“芯があって、上質”という表現は、遊佐さんの楽曲にもそのまま当てはまると思います。デビューは88年ですが、当時からアーティストとしてのビジョンは明確だったんですか?
「その頃から、作ることに対する真ん中の思いみたいなものは変わってない気がするんですね。聴いてくださっている方に、音楽を聴いている間だけでも夢を見られたり、少し優しい気持ちになったり、明日が楽しみだなって思えたり。さりげないけど、必要なものになったらいいなって」
――音楽的なスタイルも、デビュー当初から確立されてましたよね。
「当時は女性アーティストの数も少なかったし、ロックやバンドが強かったせいもあって、“地上3cmくらい浮いてる”みたいなイメージで捉えられてることも多かったんですけどね(笑)。自分としては、やりたいことを当たり前のようにやってただけなんですよ。“森、空、星”が歌のなかに出てくるのも、そういうものを見るのが好きだったからだし、ミヒャエル・エンデや宮沢賢治に通じるような世界観を表現してみたい、ということも思っていたので。とにかくワクワクしながら作ってましたね」
「制作のスタッフサイドのなかで、“ニューウェイヴ”っていう言葉が出てくることはありましたね。もともと(のルーツ)はクラシックなんですけど、プログレっぽいものとか――変拍子が好きなんですよ――童謡、昭和歌謡、ヨーロピアンな雰囲気のものを含めて、いろいろなものがミックスされてるんだと思います」
――キャリアを重ねるごとに、多彩な要素が出てきますよね。
「そうかもしれないですね。こうやって曲を並べてみると、時代時代によってかなり変化してるんだなって思います。アレンジャーの方やバンドのメンバーも、少しずつ変わってますからね。
羽毛田丈史さんと一緒にやってた時期もあるし、最近だと渡辺等さんと作ることが多いし……。自分ではいろいろなチャレンジをしてきたつもりなんですけど、“ずっと変わらないですね”って言われることも多いんですけどね(笑)」
――(笑)。どこかに一貫したものがあるんでしょうね、きっと。
「たぶん、この声が乗ることで、景色が続いていくんだと思うんですよね。どんなサウンドであっても、自分の声が乗ることで、こういう空間が出来あがっていくんだなって、最近思いました。あと、DISC2を作ったときに感じたのは、ミュージシャンの方々がどれだけ心地よく演奏してくださるかによって、私の歌が変わるんだないうことなんですね。歌って、体の調子とか体重、そのときの状態によって、微妙に変わっていくんですよ。そのときにどんな音が鳴っているとか、どの音が好きかによってもすぐに変化するし。神秘的なものを感じますよね、歌うということに対しては」
――歌という表現の神秘性を体現しているのも、遊佐さんの音楽の魅力だと思います。25年のキャリアのなかで、ターニングポイントとなるような出来事はありましたか?
「ひとつだけ挙げるとすると、
Nightnoise(アイルランド人ミュージシャン、ミホール・オ・ドーナルを中心としたバンド)との出会いですね。それがなかったら、いま、どうなっていたかわからないって思うので」
――Nightnoiseとは、ミニ・アルバム
『水色』(94年)を共作してますね。
「デビューから6年くらい経った頃なんですけど、“この先、日本の音楽業界でどんなふうに音楽を続けていけばいいんだろう?”って考えてた時期なんですよね。ずっと先までスケジュールが決まっているのもプレッシャーだったし、歌だから、いつも体調をよくしておかなくちゃいけないっていうこともあったし……。いろいろな意味で、自分のペースに合わせるのが難しくなって、ちょっと考え込んでたんですよね。ちょうどそのときに“ミニ・アルバムを挟むから、アイデアを挙げてほしい”って言われて。そのときに挙げたアイデアのひとつが、Nightnoiseと一緒に制作するということだったんです。実現しそうにもなかったんだけど、ディレクターがメンバーの居場所を探してくれて、こちらからいままでのCDを送って、OKをもらって。メンバーの4人と一緒にオレゴンで1ヵ月くらい制作したんですよ。泊まってるホテルの宴会場みたいなところでリハーサルして、そのあと、スタジオでレコーディングして」
――貴重な経験ですね、それは。
「時間の流れ方がぜんぜん違ったんですよね。Nightnoiseのメンバーは普通の暮らしも大事にしていたし、音楽をすごく楽しんでいて。アイリッシュの音楽って、暮らしのなかに自然に溶け込んでいるんですよ。メンバーもすごくフレンドリーで、ぜんぜん年齢が違う私に対しても対等に接してくれて。活動のペースとか音楽の接し方も含めて、“いいな、素敵だな”って思えたのかな。自分自身も気持ちをラクにしてもらえたというか、“こんなふうに音楽をやっていきたい”と思って。私が勝手に思っただけなんですけど(笑)、そこからスパッと気持ちが変わったんですよ」
――いまはその理想像に近づいてる?
「だんだん近づけてる気がしますね。いろいろな人たちの出会いのなかで、無理なく音楽を作れる環境が出来てきたというか。どういう人たちと、どんな話をするかということも、すべて作品につながってますからね。いま、“やってみたいな”と思ってることもあるし、これからも新しいことをやれるんじゃないかなって。新しいことをやるときは、ちょっとジャンプが必要というか、勇気を持って臨まないといけないんですけど、私自身もすごく楽しみですね」
取材・文/森朋之(2013年8月)
【ライヴ情報】
Mimori Yusa 25th Anniversary Concert
“ミモリアル ソングス”10月27日(日) 東京・渋谷公会堂 開場16:15 / 17:00 全席指定6,500円遊佐未森 (Vo)
Member: 渡辺 等(B) / 今堀恒雄(G) / 佐野康夫(Dr) / 渡辺シュンスケ(Key)
Guest: 栗コーダーカルテット(栗原正己、川口義之、近藤研二、関島岳郎)
and more...Ticket now on sale
チケットぴあ 0570-02-9999 Pコード:199-528
ローソンチケット 0570-084-003 Lコード:76388
イープラス問い合わせ / ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999www.red-hot.ne.jp遊佐未森 オフィシャル・サイトwww.mimoriyusa.net