纐纈歩美
“Brooklyn Purple”
クールな佇まいを持ちつつ、王道のジャズに一直線。どこか“献身”という言葉も思い浮かべたくなる
纐纈歩美のライヴ・スケジュールを見ると、そのハード・ワークに驚かされるだろう。「月20本ほど入っている」そうで、彼女は本当にいろいろな場所に出向き、さまざまな編成のもとライヴを行っている。「だって、ジャズですから」と微笑む纐纈だが、驚かされるのは事務所に属さず、そのブッキングを自らやっていること。当然、会場へ向かう移動のチケット手配なども自分で行なっているという。まさに独立独歩。そんな彼女の新作
『Brooklyn Purple』はニューヨークのブルックリンで録音されている。多忙ななか、ジャズの本場に飛んで彼女が求めたものとは、何だったのだろう。
――初海外レコーディングだった前作『レインボー・テイルズ』(オスロで、ノルウェー人奏者たちと録音した)に続き、今作はニューヨークでレコーディングしています。やはり、今回も海外で録音することを望んだのでしょうか。 「前作はすごくいい経験でした。あの時は初海外録音でしたが、あの雰囲気を経験したら、絶対次も海外でやりたいなと思ってしまいますよね」
――ニューヨークという今回の場所は、どういう経緯で決まったのでしょう。
「私がやっている音楽〜ビ・バップというと、ニューヨークが本場。やはり、本物のサウンドの中でやってみたいと思いました。それに、もともとニューヨークには絶対行きたいという気持ちもありました。今回が初めてだったので、全然勝手が分らなかったのですが、本当にワクワクしましたね」
――では、まずニューヨークでレコーディングすることが決まり、その後に共演者を決めていったわけですね。
――これまでのアルバムもそうですが、今回もピアノ・トリオを起用し、ワン・ホーンで録音していますよね。自分を最大級に出すにはワン・ホーンだという気持ちはありますか?
「もう一人ホーンを入れてとか、いろんな編成でやってみたいという気持ちもあります。過剰にワン・ホーンにこだわってはいません。でも、今回は初めてニューヨークで録音するので、これまでと同じ編成のもとニューヨークでやるとどうサウンドが変化するのか、ということに興味がありました。そして、参加するメンバーのことを考え、いろいろとイメージして、曲を決めていきました」
――今回は収録曲の半数をオリジナル曲が占めますが、自作曲を多くやりたいと考えたわけでしょうか。
「オリジナルをたくさん入れたいというのは、前のアルバムを作るときからありました。それで最近自分で書いた曲が増えていて、より多く入れたいという気持ちが強くなっていましたね。だから、今回はたくさん入れることができて良かったです」
「いろんな方がカヴァーしている有名曲ですが、インストでやるのは珍しいかもしれないですね。もともと好きな曲で、これはカルテットでやるよりはヘイゼルタインとデュオでやると自由にできると思い、2人でやってみました。〈イン・ア・メロウトーン〉も、前半はベースとデュオでやってみたりして、今回はそういったいろいろな場面が作れたらいいと思いましたね」
――レコーディングをしたのは、今年の6月ですよね?
「はい。リハをやって、その後のレコーディングは2日間です。レコーディングはスムースに進み、2テイクを録ったら次の曲の録音に進むという感じでした。リハーサルの時のことなんですが、彼らが一音だしたら、すごいグルーヴ感で驚いてしまったんですよ。スピード感があって、こちらが気を抜いたら、振り落とされちゃう感じ。それは初めての経験でしたね。それに彼らとやると、私のオリジナルがこんなふうになるんだという驚きもあり、また私のソロも違う感じで出てくるという思いも得ました」
――自分で、ライナーノーツを書いていますね。
「前作から自分で書いています。海外に行って得たものは、自分の言葉で自ら発するものでないと、ちゃんと伝わらないと思うからです。曲に対する思いも、その方が伝わると思っています」