フラワーカンパニーズ
“新・フラカン入門(2008-2013)”
フラワーカンパニーズから、ニュー・アルバム
『新・フラカン入門(2008-2013)』が届けられた。メジャーに復帰した2008年以降の全シングルのほか、オリジナル・アルバムの収録曲、本作のために書き下ろされた新曲「ロスタイム」「ローリングストーン」、名曲「深夜高速」〈25th Anniversary ver.〉などを収録した本作には、40代半ばを迎え、ロックバンドとしての深みと凄味を増している彼らの“現在”が色濃く映しだされている。来年4月には結成25周年を迎えるフラカン。「どんだけ失敗したって しょっぱい嘘を重ねて / 生きるしかないんだろう?」(「ロスタイム」)と歌う彼らの新たなストーリーを、心あるロックファンとともに共有したいと強く思う。
――『新・フラカン入門(2008−2013)』は2008年以降の楽曲を中心に構成されていますが、この5年間はフラワーカンパニーズにとってどんな時期だと思いますか?
グレートマエカワ(b / 以下、マエカワ) 「そうですねえ……。まず、やりたいと思っていたことが実現できることが増えたというかね」
鈴木圭介(vo / 以下、鈴木) 「うん」
マエカワ 「それ以前(※メジャー・レーベルを離れインディペンデントで活動していた2001年〜2007年)は全部自分らでやっていたから、何か“こういうことをやってみたい”と思うことがあっても、すぐ“まあできんだろうな”と思って、ほとんど話すこともしなかったんですよ。でも、今はいろんなことが実現できるようになってるし、スタッフのほうから“こういうのはどうですか?”って提案してくれることも多くて。車線が広くなった感じがするよね。最近のことでいうとドラマの主題歌(テレビドラマ『まほろ駅前番外地』オープニングテーマ曲〈ビューティフルドリーマー〉)だったり、アニメの曲(テレビアニメ『宇宙兄弟』エンディングテーマ〈夜空の太陽〉)だったり」
鈴木 「CM(味の素のCMで鈴木が
ザ・ブルーハーツの〈人にやさしく〉をカヴァー)とかね」
マエカワ 「進研ゼミのCM(
水前寺清子〈三百六十五歩のマーチ〉をカヴァー)もやらせてもらって。そんなの、思いもよらなかったからね」
鈴木 「そうだね。やりたくなったわけじゃなくて、いままでは単に話が来なかっただけで」
マエカワ 「今年の頭のWWWのライヴのとき、サポートメンバーを入れたりとか(※シングル〈ビューティフルドリーマー〉の発売記念として行なわれたプレミアム・ライヴ。ストリングス、コーラスなど、総勢9名のサポート・ミュージシャンをゲストに迎えた)」
ミスター小西(ds / 以下、小西) 「すごく濃いですよね。その前は自分たちだけで動いていたから、ライヴハウスを回って、CDを作るっていうこと以外、やりたくてもやれなかったので。いろんなチャンスをもらったし、充実感もありましたね」
――40代になってから、さらに充実しているというか。
マエカワ 「まあ、その前はその前で“イイ感じだな”と思うこともあったんだけど(笑)」
鈴木 「30代のことを忘れちゃってるっていうのもあるし」
マエカワ 「(笑)。40代が精神的にもいちばんラクだって、
(遠藤)ミチロウ先輩も言ってたしね。気持ちも体力も充実してるというか」
鈴木 「ミチロウさんは今もすごい体つきだけどね」
――62歳とは思えないですよね。フラカンはここ最近、音楽的な幅も広がってる印象がありますが。
竹安堅一(g / 以下、竹安) 「そうですね。レコ―ディングにしても、以前は“ライヴの感じを封じ込めたい”っていうことが中心だったんですよ。それはそれで難しかったんだけど、最近は作品とライヴを分けて考えることもあるんですよね。作品として、いちばん良い形で仕上げるということがようやくできてきたのかな、と」
――「ビューティフルドリーマー」のとき、「制作の方法が少しずつ変わってきた」と言ってましたよね。
竹安 「ライヴでは再現不可能なこともやってるんですけど、そこは“曲ありき”という考え方で」
マエカワ 「おもしろいですよね。もちろん“せーの”で録ってる曲もあるんだけど、曲によってはまた違った選択もできるっていう」
鈴木 「エンジニアの人の力も大きいよね」
竹安 「うん、かなり大きい。僕らの受け入れ態勢もできてるし、エンジニアやスタッフのアイデアを聞きながら、一緒に楽しんでるというか。でも、僕らが好きな洋楽のテイストもすごくあるんですよ」
――新たな発見も多そうですね。
マエカワ 「発見だらけですよ。いかに自分らが狭いところでやってたか、ということだよね。それは悪いことではないと思うんだけど、来年、結成25年とか言ってるわりには、あまり知識がないままやってたのかもしれない。〈エンドロール〉のアレンジを
スキマスイッチの
常田(真太郎)君とやったときも、“やっぱりプロは違うな”って思ったもん(笑)。俺らより10歳くらい若いけど、音楽の言い回しというか、表現の仕方が全然違うんだよね」
――ポップスの人ですからね、基本的に。そういう意味では、新しい出会いも多かったんじゃないですか?
鈴木 「そうですね。30代のときはいろんなバンドと知り合ったんだけど……」
マエカワ 「バンド友達というか、横のつながりが一気に増えたよね。とにかくライヴばっかりやってたから、有名なバンドから、地方のアマチュアバンドまで」
鈴木 「30代でライヴをやりまくったことが、40代になって実を結んでいることが多いかも」
――なるほど。今回のベストには新曲が2曲(「ロスタイム」「ローリングストーン」)も入っていて。
鈴木 「最初は“新曲を入れる必要はないかな”って思ってたんですよ、個人的には。でも、今回のベストって、アソシ(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ)に移籍してからの曲がほとんどじゃないですか。だから新曲が入ってないと、これで契約終了というか“あ、フラカン、契約切れたな”って誤解される可能性が高いなって(笑)。お客さんにも“大丈夫かな? フラカン”って心配されちゃう恐れがあるから、やっぱり新曲は入れたほうがいいな、と」
マエカワ 「そういう理由なんだ(笑)。ただ、“ここに入れても遜色ない曲じゃないと”っていうのはあったんですよね。ベストだからこそ、劣るような曲は入れられないなっていう。なかなか曲ができなくて、タイムリミット2日前にギリギリで鈴木が持ってきたんですけどね」
――まずは「ロスタイム」ですが、これ、いいタイトルですよねえ。
マエカワ 「相当いいですよね。曲ができあがってから最後についたんですけど、“このタイトル、いいな”って、しみじみ思ったもん。40歳を越えて〈ロスタイム〉なんて言ったら、ヘンなふうに取られるかもしれないけど、ロスタイムって無限だと思うんですよ、ある意味。サッカーでいうと、45分を過ぎて、その先もまだチャンスがあるっていうことだから」
――しかもこの曲、メロディが明るいんですよね。
竹安 「そう、重苦しさがないんですよ。歌詞だけを読むと重そうな感じなんだけど、それを軽やかというか、ダンサブルなサウンドに乗せてるっていう」
マエカワ 「爽やかだよね(笑)」
鈴木 「特に爽やかさを意識してたわけじゃないんですけどね。ぜんぜん余裕がなくて、ギリギリになってできた曲だから。ただ、曲が先にあったから、最初から曲調は明るかったのかも」
――軽やかなイメージの曲をどこかで求めてたのかも。
竹安 「そうかもしれないですね。ずっと
ビートルズ以降の音楽を意識して聴いてきたんだけど、最近はビートルズ以前のヒットチャートが心地よくなってきたというか」
鈴木 「こういう50'sっぽい感じの曲って、いままでなかったからね」
マエカワ 「遡っても60年代までだったというか。60〜70年代が下敷きになってるからね、やっぱり」
鈴木 「本来はね。かといって、50'sの音楽に詳しいわけではないんだけど。ミスタードーナツに行ったときに聴くくらいで(笑)」
竹安 「個人的には重いものが聴けなくなってきてるんですよね、最近。グッと集中しなくちゃいけないものがしんどくなったというか、50年代、60年代のポップス、2分半で終わるような曲がいいなって」
マエカワ 「重いというか、考えさせられるような音楽ね」
鈴木 「プログレとかね。確かにちょっと“めんどくせえな”って思うかも(笑)」
――最近のバンドって、アレンジがどんどん複雑になってますけどね。
鈴木 「そうだよね。今の若いバンドって、プログレっぽい感じが多いかも」
マエカワ 「まあ、いろいろと新しいものが入ってるから、昔とは違うけどね。今の音楽になってるというか」
――「ロスタイム」も“新しいフラカン”が感じられる曲だと思います。「ローリングストーン」というタイトルも印象的でした。
鈴木 「このアルバムの曲順で言うと、〈ロックンロール〉のあとに〈ローリングストーン〉だからね。“こんなタイトル、アリなのかよ?”っていう」
マエカワ 「避けて通るよな、ふつう(笑)」
鈴木 「20代のときはつけられなかったんでしょうね。〈ロックンロール〉にしても、気軽に使えないじゃないですか。よほど自分の意志表示が強くないと」
――結成25年のバンドだったら、説得力を持って表現できるんじゃないですか? 「ロックンロール」も「ローリングストーン」も。
マエカワ 「まあ、そうかもしれんね」
鈴木 「今だったら使ってもいいかって、思っちゃったんだろうね。“俺は転がる石だ”とか、いまはあんまり言わないだろうけど」
マエカワ 「“俺は石じゃない”って思ってるだろうからね、みんな(笑)」
鈴木 「そうだよね。俺も“転がる石”みたいな言い方がカッコ悪いなって思ってた時期もあったし」
マエカワ 「(バンドで)活動してると“転がる石みたいな感じだな”って思うことはあるんですよ。でも、それを口に出して言うとカッコ悪いっていう……。20代、30代のときはそういう感じだったかもね。〈深夜高速〉もバンドがツアーに出てるときのことを歌ってるんだけど、10年前はあのタイトルがしっくり来たし」
――歌詞やタイトルについても、やれることの幅が広がってるんでしょうね。
マエカワ 「それね、〈ロスタイム〉の2番の歌詞を見たときに思った。鈴木が“ストーリー”っていう言葉を使うなんて、前は考えられなかったからね」
鈴木 「そうね。ストーリーって言えば、〈ネバーエンディング・ストーリー〉しか浮かばない(笑)」
――「喜怒哀楽をはみ出した 国語辞典にも載ってないところで / 黙り込んだストーリー」ですね。
マエカワ 「ここまで来たかって、ゾクッとしたからね。この言葉を上手く使うのって、相当難しいと思うんですよ。80年代の歌謡曲的なイメージがあるじゃないですか、“ストーリー”って」
マエカワ 「あとは『ハートカクテル』的な(笑)」
鈴木 「『ハートカクテル』、けっこう好きだったんだよな。言わなかったけど(笑)。いい車に乗って、夜景とか見て、ワインとか飲むっていうね。あれがカッコいいと思ってたわけでしょ?」
――戻ってきてるのかもしれないですねえ。“プロデューサー巻き”も復活したみたいだし。
鈴木 「そうだよね(笑)」
マエカワ 「流行り廃りってあるからね」
鈴木 「歌詞にしてもさ、お酒とかタバコの名前を入れたりしないからね、今は」
マエカワ 「それをカッコ良く歌える人もいないしね」
――アレンジやリズムに関してはどうですか? 最近のロックバンドのリズムって、4つ打ちが主流になりつつあると思うんですが。
竹安 「そうかもね。8ビートをやってるバンドが少なくなってるかも」
マエカワ 「昔は8ビートが基本で、そこから広げていったんだけど」
竹安 「(8ビートの曲を)やれないのかもしれないよね」
鈴木 「速い8ビートはあると思うけど、ミディアムテンポで、しかもバラードじゃない8ビートってホントにないよね。横ノリっていう言葉も完全になくなったじゃないですか」
――それが出来るのって、フラカンかザ・ピーズくらいかも。 鈴木 「ホントにそうかも。ミディアムテンポの8ビートでグルーヴが出せるのって、ピーズくらいじゃない? いまは4つ打ちが、お客さんもノリやすいのかも。」
――ちなみに「フェス用に4つ打ちの曲を作ってみよう」って話になったことはないんですか?
鈴木 「いや、4つ打ちの曲もありますよ(笑)」
マエカワ 「スタジオで“自分たちがやったら、どうなるんだろう?”って試すこともあるし」
小西 「リズムは4つ打ちでも、全体としてはそこまでわかりやすいアレンジにはならないんですよね」
マエカワ 「そうね。自分の好みっていうのもあるから」
――基本的にはオーソドックスなロックンロール・バンドですからね。
マエカワ 「そう、僕らはオーソドックスですよ。そのへんはあんまり変わってない。この前もデビューした頃の曲をライヴでやったんだけど、やっぱり“変わってないな”って思ったし。アレンジが稚拙だったりはするけど、基本的な部分は同じだよね」
鈴木 「むしろ最初の頃のほうがオッサンくさい音楽をやってたかもしれない」
竹安 「若気の至りだよね(笑)」
マエカワ 「今、オッサンくさいことをやったら、“そのままじゃん”って思われそうだけど(笑)。だから新しいものが欲しいと思ってるのかもしれないし」
鈴木 「今って、ホントにいろんな情報があるからね。ジャンルレスでいろんなものを聴けるし、昔みたいに“これしか聴かない”ってことじゃないでしょ。前は
ストーンズみたいなバンドがたくさんいたけど、全然いなくなったもんね」
――最後にフラカンの25周年について聞かせてください。こういうタイミングって、大きな会場でライヴをやるバンドも多いですが……。
マエカワ 「まだ決まってないこともあるんだけど、まずは細かくツアーを回ろうと思って。ワンマンだけじゃないけど、全都道府県を回るくらいの感じで、丁寧にやろうっていう意識ですね。それプラス、いろんなことがまとまれば、何かおもしろいことができるかもしれないけど」
――地に足が着いてるというか、フラカンらしいですね。
マエカワ 「あんまり舞い上がり過ぎてもね。もちろん多少は舞い上がるだろうし、“25周年”って大げさに言うと思うけど」
鈴木 「いつもそうなんですよ、俺らは。派手なバンド、売れてるバンドの横でコツコツやってきたというか。だから、これだけ長いこと生き延びたのかなとも思うしね。デッカイ打ち上げ花火じゃなくて、ドラゴン花火みたいな……」
マエカワ 「古いな(笑)」
――結成25年、プロとして活動している期間も約20年ですからね。すごいことだと思います。以前、圭介さんは「若いバンドと話してると、音楽のことよりも先に“どうしてそんなに長くやれるのか”って聞かれる」って言ってましたが。
鈴木 「若いバンドだけじゃないよ。取材でも大概、そういう話ですね」
――いい加減、飽きちゃいますよね。
鈴木 「いやいや、僕はもう、質問されるの大好きだから。質問はしたくないんですよ、他人に興味ないから(笑)。でも、自分に興味を持ってくれた人には丁寧に答えますよ。必要以上の情報量で(笑)」
マエカワ 「仕事は丁寧だよな」
――(笑)。バンドを続けていくうえで、モチベーションの変化みたいなものはあるんですか?
鈴木 「うん。これね、表向きのカッコいい顔を出す人だったら、“変わってない”とか言うと思うんですよ。あのときの気持ちのままでやってる、とか。でも、変わってますよ、僕らは。少なくとも僕は変わってる。20歳のときとはぜんぜん違いますからね。めんどくせえなあって思ったことも何回もあるし、ツアーやってるときも“もういいだろう”って思うこともあるから。ただ、ライヴが始まった瞬間の感じは変わってないかもしれないですね。あとパッとスポットライトを浴びたときの感じとか。たとえお客さんがいなくても、それは同じだと思うんですよね。舞台役者の人がずっと舞台をやり続けるのと同じで」
――それこそ、死ぬまで舞台に立ち続ける方もいらっしゃいますからね。
鈴木 「そうですよね。やっぱり何かあるんですよ、ステージって」
マエカワ 「今も忘れられないのは、2006年に初めて(SHIBUYA)AXでワンマンをやったときなんだよね。自分らでAXのワンマンを切ったときは、まわりからも“大丈夫?”って言われてたんですよ。でも、わりといっぱい入ってくれて。ステージに出て行ったときの光景はずっと覚えてますね」
鈴木 「宣伝力がないなかで、あれだけ入ったからね」
――当たり前ですけど、バンドでライヴをやるってことが圧倒的に好きなんでしょうね。
鈴木 「まあ、そうですよね」
マエカワ 「めんどくさいこともたくさんあるけど、好きじゃないと、細かく全国を回ろうなんて思わないからね」
鈴木 「○○とか、普通はあんまり行かないよな」
マエカワ 「そういうことを言うなよ(笑)。ただね、自分たちだけじゃなくて、周りを含めて全体的に上がれるような活動をしていきたいと思ってるんですよ、最近は。そこは難しいバランスがあるんだけど、少しずつでも広げていけたらいいな、と」
取材・文 / 森 朋之(2013年10月)
撮影 / susie