2010年のデビュー以来、まったくメディアに姿を現さないという特異なスタンスを貫きつつも、生々しいまでにリアルな物語性を持った詞の世界が共感を呼び、多くのリスナーの支持を集めるまでになった
amazarashi。前作
『ねぇママ あんたの言うとおり』から約7ヶ月という短いスパンで届けられたニュー・アルバム
『あんたへ』は、「まえがき」から始まり、「あとがき」で幕を閉じるなど、これまでの作品に比べ、よりコンセプチャルかつ私小説的な趣を強くする作品となった。バンドの中心人物であり詞作を手掛ける秋田ひろむに新作のこと、自身を取り巻く状況の変化についてメール・インタビューを試みた。
――〈RISINGSUN ROCK FESTIVAL 2013〉への出演、TK from 凛として時雨との2マンなど、活動の幅が広がっています。それぞれのライヴの手ごたえ、そこで得たことを教えてもらえますか? 「対バンとかフェスとか、どうしても他と比べがちになるんですけど、そこはあんまり影響受けないように、自分を貫くことの方が重要だと気付きました。どこでやっても自分らしい表現ができるバンドになりたいです。技術的な部分はとても勉強になりました」
――秋田さんにとって、ライヴの魅力とは?
「部屋でコツコツ作った歌が、人に届く瞬間を直接見れるっていうのが僕にとっての魅力です。歌のゴール地点というか。頑張って良かったなと思える場所です」
――ライヴを行なうことで、楽曲の制作に影響はありますか? もしあるとすれば、どんな影響なのでしょうか?
「ライヴでいろんな感情が生まれるので、良かったことも悔しかったことも、そういうものが曲になったりすると思います」
――中島美嘉さんに「僕が死のうと思ったのは」を提供。この曲はもともと、どんなテーマで制作された楽曲なのでしょうか? 「ラヴ・ソングです。一人の人間に出会って人生が変わるっていうのがテーマです。僕自身の気持ちを込めた歌です」
――ご自分の詞・曲が他のシンガーによって歌われるのを聴いて、どんなことを感じましたか?
「すごい新鮮でした。まるで自分の歌じゃないような気がして、こんなにイメージが変わるんだと思って感動しました。艶っぽさというか、情景がキラキラしてる様に感じました」
――新作『あんたへ』について。「まえがき」と「あとがき」があり、書籍のような構成になっています。こういう構成を選んだ理由は?
「これはジャケットのデザインが始めにあって、そこから影響を受けて付け加えた2曲です。始めは〈まえがき〉〈あとがき〉と文章を付けたいなと思ってたんですが、それを曲にしたらアルバムとして面白いんじゃないかと思って作りました」
――秋田さんは(おそらく)かなりの読書家だと思われますが、どんな種類の本が好きですか? また、小説を書いてみようと思ったことはありますか?
「最近はSF小説が好きです。過去の名作と言われる有名なものをいろいろと読んでいる最中です。小説は書いた事あるんですが、大変さに気付いて、生半可な気持ちでやったら駄目だなと思ったので、もう書こうとは思わないです」
――タイトル曲「あんたへ」には、“あんた”を根本から励ますような言葉が並んでいると感じました。この曲が生まれた背景を教えてもらえますか?
「これはアマチュア時代から歌っていた古い曲です。当時、音楽やりながらバイトしてて、将来の見えない生活に落ち込んでいました。それで自分を励ます様な気持ちで書いた歌です」
――リスナーの多くはきっと、「あんたへ」を自分に向けられた曲として受けとめると思います。ここまで直接的な曲を書こうと思ったのはどうしてですか?
「〈あんたへ〉自体は自分に向けた曲だったんですが、今だったら外に向かってメッセージソングとして歌えるんじゃないかというのが、そこが今回のアルバムの核だと思います。ですので自分に向けられたものとして受け取ってもらえたら嬉しいです」
――「匿名希望」について。“僕は君の代弁者じゃない”というフレーズが強く印象に残りました。このフレーズに込められた思いを教えてもらえますか?
「ミュージシャンとして歌に共感してもらうのはとても嬉しいんですが、僕が直接なにかをしてあげられる訳ではないので、結局最後は自分でやるしかないんだと伝えられたらと思って書きました」
――現在のamazarashiは“商業音楽”のフィールドで活動しているわけですが、そのことで葛藤を覚えることはありますか? あるとすれば、それはどんな葛藤なのでしょうか?
「葛藤はあります。物を作って欲しい人が買うっていう、シンプルな部分をねじ曲げない様にと思ってやってますが、本当にこれでいいのかっていう迷いは常にあります。僕は音楽しか出来ないし、これしか手段がないので尚更思います」
――熱狂的な支持を得ていることを、どんなふうに捉えていますか? また、それがプレッシャーになることはありますか?
「プレッシャーはあるにはあるんですが、気にしない様にしてます。自分のハードルを越えていくことの方が重要だと思ってます」
――「冷凍睡眠」は初のポエトリーリーディングの長編。壮大なストーリー性を持った作品ですが、どんなところから曲想を得たのでしょうか?
「長編のポエトリーリーディングはずっと作ろうと思ってて、今回ようやく完成させられました。歌詞の内容はSF小説から影響を受けて書きはじめました。自分の中の表現方法を新しいものにするための実験的な曲です」
――“ドブネズミ”は非常に美しいラヴ・ソングだと思いました。この曲が生まれたきっかけがあれば、教えてもらえますか?
「世界に対して悲観した視点と、その世界で生きてる大切な人に対しての暖かい視点がある曲だと思います。この曲も古い曲なのでamazarashiの原点の様な曲だと思います」
――秋田さんにとって東京はどんな場所ですか? また、青森での暮らしを続ける理由は?
「今は東京は戦う場所というような感じがしてます。東京で頑張って、青森帰ってほっとするみたいな。青森は環境がいいです。田舎なので大きい音を出せるし、せわしさもないので、音楽をやるにはこれが一番自然な形かなと思ってます」
――「終わりで始まり」は、周囲の人たちへの感謝を歌った曲。こういう温かい曲を書いてみようと思った理由は?
「作ってる時はあまり意識してなかったんですけど、僕の集大成的な歌になったと思います。いろいろあったけど今はこんな感じだよっていうのが伝わったら嬉しいです」
――秋田さんの笑顔が見えるようなヴォーカルもこの曲の魅力だと思います。レコーディングの際には、どんなことを意識していましたか?
「歌に関してはいつも意識しない様にしてます。作為なく自然に歌ってそれを綺麗に録れたらって思ってるんですが、曲調が明るいので自然とこういう歌い方になったのかもしれません」
――来年1月からは〈amazarashi LIVE TOUR 2014〉がスタート。どんなライヴにしたいですか?
「前回のツアーでバンドとして成長出来たと思うので、その成果を見せられたらと思います。あとは、アルバム『あんたへ』をもう一歩進んだ解釈で表現出来たらと思ってます」
――ライヴを楽しみにしているファンにひとことお願いします!
「今回もいろいろと考えているので、ぜひ遊びに来て下さい」
――この先のamazarashiのビジョン、どんなアーティストになっていきたいか教えてもらえますか?
「いい曲を作って、それを歌って、っていうのをずっと続けられるバンドになりたいです」
amazarashi discography文 / 森 朋之
『爆弾の作り方』
ドラマティックな旋律とともにそれぞれに事情を抱えた学友たちを描写する「夏を待っていました」、絵描き(芸術家)と大衆の関わりのなかで、表現者としての在り方を表明する「無題」、憂いを帯びたメロディと「僕は歌う つまりそれが 僕の兵器でありアイデンティティー」というフレーズがひとつになった「爆弾の作り方」、ポエトリーリーディングの手法を取り入れ、夏という季節の空しさ、悲しさを叙情的に紡ぎだした「夏、消息不明」。豊かな物語性を含んだ歌、楽曲の世界観と重なりながらジャンルを超えていくサウンドメイクによって、大きな話題を呼んだメジャー・デビュー盤。ひとつひとつの言葉に魂を込めていくようなボーカリゼーションも強く心に残る。「夏を待っていました」
『ワンルーム叙事詩』
前作「爆弾の作り方」がロングセールスを記録。リスナーの口コミ、ネットを経由して知名度を上げるなかで発表された2nd EP。原罪の感覚と美しい雪景色を交差させ、壮大なバラードへと導いた「クリスマス」、フォーキーなサウンドメイクのなかで、現代のコミュニケーションの在り方とそこに宿る虚しさを表現したタイトル曲「ワンルーム叙事詩」など、切実な現実社会と奔放な想像力を混ぜ合わせた楽曲が並ぶ。リリカルなピアノの旋律を軸にしたアレンジを含め、amazarashiの基本的なスタイルがストレートに提示された作品と言えるだろう。また「クリスマス」のMV第15回文化庁メディア芸術祭の推薦作品として選出されたことも話題を集めた。「クリスマス」
『アノミー』
“アノミー”とは、従来の社会規範が崩れて人々の行為・欲求に規制がかからなくなり、焦燥や欲求不満が生じる状態を指す。このタイトルが示す通り本作は、すべてにおいて経済が優先された結果、あらゆる場面で格差が広がり、殺伐とした雰囲気が流れていた(3・11以前の)風景が表出している。特に強烈なインパクトを放っているのが、表題曲「アノミー」における「愛する理由が無くなった/殺さない理由が無くなった」というライン。多くの人が潜在意識のなかで感じていることをダイレクトに歌に結び付ける秋田ひろむの才能がダイレクトに示された一行と言えるだろう。この曲はドラマ「ヘブンズ・フラワー」の主題に起用され、バンドの知名度もさらに上がった。「アノミー」「この街で生きている」
『千年幸福論』
2011年6月に渋谷WWWで1stライヴを開催、チケットが5分でソールドアウトとなるなど熱狂的な支持が高まるなか発表された1stフル・アルバム。すべて新曲で構成され、圧倒的な虚無感に苛まれつつも、どうにか生きる目的を探そうとする“僕”を主人公にする「空っぽの空に潰される」、リアリティが持てない世界のなかでいかに生きるべきか? というテーマを突きつける「古いSF映画」など、現在もamazarashiのアンセムとして認知されている楽曲が収録されている。圧巻は美しいピアノを中心としたタイトル曲「千年幸福論」。「終わりがあるから美しい そんなの分かりたくないよ」というフレーズは、このバンドの本質を端的に示していると思う。
『ラブソング』
2012年1月に3度目のワンマンライヴを渋谷公会堂で開催。映像を駆使した演出を行なうなど、新たな表現へのチャレンジを経てリリースされた2ndフルアルバム。「祈り」(東日本大震災を受けて発表された詩に曲を付けたナンバー)以外のタイトルはカタカナで統一されるなど、整合性の高い作品に仕上がっている。その中心を担っているのが、表題曲「ラブソング」。外の世界に対するシニカルな感情と“愛こそ全て 信じ給え”という切実な願いがひとつになったこの曲は、怒り、恨みから脱却して、リアリティのある希望を歌うという大きな分岐点になっていると思う。また表現力を増したボーカルも、amazarashiの新しい進化へと密接に結びついているようだ。
『ねえママ あなたの言うとおり』
2012年11月に初のライヴ映像作品『0.7』を発表。自分の音楽を必要としているオーディエンスとまっすぐに対峙した経験、「気が付けば、たくさんの人に支えられていた」(「0.7」の冒頭で語られる秋田のコメント)という思いは、本作にもしっかりと反映されている。たとえば「最後の最後に 笑えたらそれでいいんだよ」(「ジュブナイル」)、「けど今日が終わりじゃない事だけは分かってる」(「パーフェクトライフ」)もそうだが、このアルバムには聴き手を根本から励まそうとするフレーズが散りばめられているのだ。それに伴い、音像やサウンドメイクも開放的な方向へと変化。そしてこの新しいトライアルは、新作「あんたへ」でさらに強く押し進えられることになる。