YOUR SONG IS GOOD “OUT”
実に3年8ヵ月ぶりとなるオリジナル・アルバム
『OUT』 を完成させた
YOUR SONG IS GOOD 。これまで培ったさまざまなルーツを経由しながらも、テクノやハウス、ベース・ミュージック、ムーンバートンといったダンス・ミュージックから受けた影響を(もちろん)生音で吐き出した末に完成したその音楽は、やっぱりYOUR SONG IS GOODにしか出せないサウンドだった。混沌としたものだけが持つグツグツした熱量を感じさせる新作について、サイトウ“JxJx”ジュン とヨシザワ“モーリス”マサトモに話を訊いた。
──アルバムとしては3年8ヵ月ぶりということですが、その間のライヴはたしかにバンドとしての変化を感じるものでした。その変化のひとつとして、サポート・メンバーとしてパーカッションに松井泉さん(ex-bonobos )が参加するようになったのは、かなり大きな出来事だったと思うんですが。 サイトウ 「次のアルバムに向けての新曲が2曲ほどできた段階で、これからバンドが向かおうとしている方向性が、なんとなく見えて。それをもうちょっと強化したいなと思ったんです。あと、レコーディングに入るにあたって、プラスアルファで、なんか新鮮な気持ちでやれる方法を模索してみようと思ったんです。いろいろな方法を考えたんですけど、自分たちのライヴのスタイルを考えると、シンセをもう一人入れるとか、トラックを流す人を入れるとか、そういうんじゃないなと。もうちょっと肉弾戦にも付いてこられる人がいいなと考えたら、これはパーカッションじゃないかなって思ったんです」
──その以前から、たとえば「CATCH-AS-CATCH-CAN」が演奏される時などは、終盤にメンバーそれぞれが担当する楽器を置いて、みんなでパーカッションを叩いたりしてましたもんね。
ヨシザワ 「そうそう、あれもだいぶきっかけになってますね(笑)」
──メンバーみんなでバカスカとパーカッションを叩いて、混沌としたまま終わっていくっていう。あの瞬間の高揚感やカオティックな感じっていうのは、もはやジャンルがどうとか関係ないものだし、それをバンドとして経験したからこそ、現在のような方向性に向かっているのかもしれないなって思ったんです。
サイトウ 「そうですね。そういうプリミティヴな、あるいはシンプルって言ってもいいですけど、そういう良さを大事にしたいっていうか。いろんなことに手を出した末に、やっぱりそこだなって感じになったんですよね(笑)。信じられる部分というかね。他のスタイルだったりはとっかえひっかえが効くかもしれないけど、こういう面白さっていうのは……ここに確実に面白いことがあるなっていうのは、メンバーと一緒に経験した積み重ねがあるからだし、共通した部分だったかなと思いますね。話を戻せば、これまでの音源にもダビングでパーカッションを入れたりもしてたんで、何か加えるとしたら、やっぱりそっちだなと。そこで誰か応援してもらえる人を呼んで、最高に新鮮な気持ちでレコーディングしてみようかなって思ったんです」
──そこで、松井くんに白羽の矢が立ったと。
サイトウ 「誰にしようかなって思った瞬間、いつも使ってるリハーサルスタジオに松井の荷物が置いてあるのを思い出して、瞬間にパッと閃いたんですよね。メンバーみんなも彼のことは知ってるから、突然まったく知らないミュージシャンを連れていくよりはいいだろうと思って、メンバーにメールしたんです。一緒に合わせてみて、よかったらライヴにも参加してもらおうっていう、ざっくりした感じで入ってもらって」
──松井くんが一緒に初めてステージに立ったのは、2013年6月に渋谷クラブクアトロで開催された、YSIG主催のイベント〈I WANT YOU BACK2013〜渋谷編〜〉が最初でした。
サイトウ 「人前で演奏したのはそれが最初でしたね。そのライヴのために一緒にリハに入って、すぐに“これこれ!”って思いましたね(笑)」
──アルバムの方向性を決めたという新曲は以前からライヴでも披露されていましたが、実際に演奏しはじめたのは?
ヨシザワ 「2曲目に入ってる〈Changa Changa〉は去年の夏ぐらいからやってましたね」
サイトウ 「あと7曲目の〈The Cosmosは、結構な変貌を遂げてますね。その日のリハで7拍子になったのを、そのまま演奏したんだよね、たしか(笑)。ちょっとそういうドキドキ感も楽しんでみたりして。そういう変化している時期に、拍車をかけるような役割としてイーチャン(松井)に来てもらった感じはありますね」
──話は前後しちゃいますが、2013年の正月に代田橋FEVERであったフロアライヴの印象がものすごく強くて、もちろん今までの曲もやりながらも、そこで劇的な進化を目の当たりにした感じがしたんです。これまでも変わり続けてきたバンドだとは思うんですけど、その一端には、ジュンくんのDJスタイルの変化も密接な感じがあると睨んでいて。
サイトウ 「あはは、本当なので、それはちょっと恥ずかしいですね(笑)」
──四つ打ちの、ダンス・ミュージックに接近したような曲調の新曲がライヴで演奏されるようになる前に、どこかのイベントでジュンくんのDJを聴く時があって。以前は古いカリブ音楽やニューオリンズ・ファンクのアナログ盤をざっくりとしたスクラッチでつないでいくようなスタイルだったのが、ターンテーブルの上に雑然と積み重なったCD-Rをチェンジしていきながら、ムーンバートンやら新しいダンス・ミュージックをガンガンかけてるスタイルに変化していて。そういった変化とバンド・サウンドが連動してるんだなって、今回のアルバムを聴いて思ったんです。
サイトウ 「3年8ヵ月の間に目覚めたんですかね(笑)。いろんなダンス・ミュージックがあると思うんですけど、ハウスだったりテクノだったりベース・ミュージックだったり、今となってはダンス・ミュージック全般なんですけどね。そういうのを昔からずっと聴いてはいたけど、自分がその手の音楽を演るって発想には至ってなくて。でも、3年8ヵ月の間に、自分がそれをやる面白さにも目覚めたのが結構大きくて。もちろんちゃんと追究している人からしてみれば、ほんのちょっと扉を開けたぐらいかもしれないですけど、自分の中では結構な変化で。それに、それまでの自分のDJっていうのは、1曲1曲のドラマみたいなのを聴かせていくスタイルだったのを、もうちょっと全体の流れでグルーヴを聴かせていく……まあ、今さらなんですけど(笑)、そういうDJのスタイルの大事なところにタッチしたというか。だから、自分の音楽的な趣向がDJスタイルの変化にも表れていたのはおっしゃる通りで」
──そうしたジュンくん個人の価値観の移り変わりを、他のメンバーの意識とどうやって、まさに“同期”させていくか? いかにバンド・サウンドに落とし込んでいくか? それがかなり重要なポイントですよね。
ヨシザワ 「一昨年ぐらいからかな? リハの時に、ジュンくんから“テクノ”ってキーワードが出てくるようになったんですよね」
サイトウ 「(笑)。ヤバいな、それ」
ヨシザワ 「ジュンくん個人でもMIX CD-R作ったり、DJで新しい音楽かけたりしてたから、今テクノが好きなんだろうなと知ってはいたんだけど、どこまで好きなんだろうなっていうのはわからない部分でもあって。で、2012年の正月ぐらいかな? 一度リハを取りやめて、みんなで笹塚の庄やで飲みながら、次のアルバムはどうしようかっていうミーティングをやったんです。そういうの、ウチらのバンドとしては本当に珍しいことなんですけどね」
サイトウ 「俺、すっかり忘れてたわ、それ。今思い出した(笑)」
ヨシザワ 「今までもそうなんですけど、このメンバーで演れば、どういう音楽でもYSIGになるっていう自信みたいなものは、みんなの共通の意識としてあって。その意識があった上で“だけど何をやるんだ?”とか“だから何をやるんだ?”っていう話し合いをしてたんです。その中でも“どういうダンス・ミュージックをやるか?”っていうのを、結構あーだこーだ話をして。結局、その日は明確な答えは出なかったんだけど、いっぱい話したことで、“なんか面白いことはやっていこう”っていう(笑)」
──結局、そこに行き着くという(笑)。
ヨシザワ 「さっき話してた、ジュンくんにとってのダンス・ミュージックが聴くほうから演るほうに変わっていったのと、他のメンバーの変化のテンションっていうのも、またちょっと違うんですよね。解釈の仕方ひとつとっても違うし。だから、それをどうまとめるかっていう部分では、今回はかなりジュンくんがリーダーシップを発揮したと思ってて」
サイトウ 「たとえば“テクノ”でも“ハウス”でも、とくに解釈の幅が広い音楽じゃないですか?」
──いわゆる四つ打ちの音楽は、とくにそうですよね。
サイトウ 「なので、余計に人それぞれの解釈の幅があるんですよ。だけど、そこがすごく面白いのと同時に、それがすごく難しいところでもあって。どこを拾っていくのかっていうのは、最後はツボとか勘とか、自分の天然な部分だったり、あとはメンバーから返ってくる答えの面白さとか、その組み合わせをひたすらやっていくのが正解だろうな、と思って」
──まずは実際にトライしてみるしかないというか。
サイトウ 「そうですね。トライ……そこが実は答えだったりするのかなとも思うし。そこから導き出される究極の答えを永遠に探していくというよりも、こうしてやってる過程の時点で、実は面白いことになっちゃってたんじゃないか? って思えてきて。アレコレこねくり回しすぎて結局最後は普通のカリプソになっちゃった、みたいなとこまでいかないで、ちょっと訳わかんなくなっちゃってる雰囲気が面白い状態なんじゃないかって考えに至ったんです」
──たしかに生バンドでハウスをやってますとか、そこにラテンやカリブの要素が入ってますいう感じで、明確な完成型に向かって音楽を奏でているというよりは、完成型も見えないままに突っ走ってる感じが、今のYSIGにはあるし。だからこそ聴いた時に、すごく混沌としてるし、どんな曲を聴いても、どんなジャンルとも違った聴こえ方がするんですよね。
ヨシザワ 「ジャンルやスタイルを目指したというよりは、もうちょっと曖昧なことばっかり言いながらやりあってたね(笑)」
サイトウ 「うん。実はそこがポイントかなって思っていて。自分の中で、そういう面白さってあるなって、ひとつのヒントになったのが、僕らが以前リリースした『PLAY ALL!!!』っていうDVDで。そこにも収録されてるんですけど、10年以上前、僕らがポストロック的なことをやろうとして、なかなか難解な感じになっちゃった時期があったんです。だからこそ、その後にわかりやすいルーツ・ミュージック的な打ち出しになったんですけど。そのルーツ前夜にやってることを、あらためて観てみると、結構面白い音楽をやってたんだなって気付いて。だけど、その時点ではあまり良くわかってなくて、面白いんだけど、“何だろうこれ?”ぐらいで終わってて。あと、去年、僕個人としては同じ時期に“THE DOUBLE”っていう、YSIGとほぼ兄弟バンドでドラムを叩いてたんですが、細かい音楽性は違うんですけど、同じように手探りでやってたような感じがあって。THE DOUBLEも自分でやっていながら、何が正解かわからないような感じだったんです。で、制作前にたまたま当時の音源を聴いたら、すごく面白いことをやってて。こういう、よくわからない感じの面白さってあると思ったんです。途中過程なんだけど、実はそこが面白いことになっているっていうような。描ききらない、説明しきらない感じの面白さっていうところをやってみたらいいんじゃないかって」
──うんうん。
サイトウ 「さっきのモーリスの話じゃないけど、正月に飲んだ時に例えば“カリブ音楽を極めよう”とか、人それぞれバンドとしての答えの出し方はありますけど、今、俺たちが向かうのはそこじゃないなっていう結論の答えのひとつが、もっとよくわかんない感じになっちゃおうっていうことだった。ジャンルやスタイルで説明するんじゃないほうの面白さに行けるんじゃないかって思ったんです。もちろん、今まで好きで聴いてきたいろんなジャンルの面白いところを借りながらではあるんですけど、出す答えはまったく違う。すごくいい感じに言うと、その音楽のバックグラウンドなんかを含めた、文脈ありきで楽しむんじゃなくて、その音だけで純粋に楽しめる感じ?」
──文脈的な楽しみ方をする表現方法もあるけど、同じ時代に鳴っている音楽を、表面的に切り取って並べたり、全部くっつけたりして生まれる、ある種のコンクレート・アートみたいな解釈の仕方もあるのかなって思うんです。
サイトウ 「個人的には文脈やバックグラウンドは大好きなほうなんです。たとえばスカだったら、スカの歴史があって、いろんな人がいろんなことをやってきて、その積み重ねでこういう音楽になったっていうような面白さを好んでたんですけど、このバンドで目指すのは、そっちじゃない表現だなと」
──松井くんが実際にライヴやレコーディングに参加するようになって、あらためて気付いた部分などはありますか?
サイトウ 「まず、松井が参加して最初にライヴをやるってなった時に、曲数の都合上、新しい曲も以前からの曲も一緒に演奏しないといけないじゃないですか? それらが共存するのかっていうのは懸念してたところではあって。パーカッションが入ることで、うまく曲と曲が繋がっていってくれないかなっていう狙いもあって、そのためにもイーチャンに賭けてたところもあったんですね。で、リハで実際に音を出してみて、“あ! これは同じ世界でやれる”って、地続きでつながってるように思えたんです。音源としてもしばらく間が空いちゃったけど、これからやろうとしてることは、昔にやってたことを断絶してるわけじゃなくて、繋がってきてやってるんだなって、身をもって感じることができたんです。これが結構大きくて、じゃあこのままいっちゃおうって」
ヨシザワ 「実際にライヴを一緒にやるようになって、本当、すぐに松井ナシの編成は淋しいなって思っちゃったぐらいに。とくにファーストの曲と新曲の約10年の隔たりが、結構違和感なく出来て。ああ、あの頃はあの頃で、結構変な感じでルーツ・ミュージックをやろうとしてたんだなって。今の脱線の仕方と、10年前の脱線の仕方が、案外近かったんですよね(笑)」
サイトウ 「相性よかったよね(笑)」
──根本的なところは、結局変わってなかったっていう(笑)。
サイトウ 「それを体現してくれる人がいたっていうのがデカいですよね。僕らはどうしたって気持ち的に変わっていかないと思っているところを、打楽器の超シンプルな音が過去と繋いでくれたっていう意味では、また根本的なことだったのかもしれないですよね」
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──もちろん松井くんも、これまでのYSIGをオーディエンスとして観る機会も何度かあったかもしれないけど、今回参加するにあたって、新曲も昔の曲もフラットに捉えられる立場にいたのかもしれないですしね。では、ここから今回のアルバム『OUT』の制作上の話を伺っていきたいんですけど、やっぱりきっかけとしては「Changa Changa」と「The Cosmos」の2曲が出来たことが大きかった?
サイトウ 「まあ、最初に出来た2曲ってことなんですけど、〈Changa Changa〉は結局完成するまでに2年ぐらいかかったかな? なんでこういう風になったんだろう?(笑)」
ヨシザワ 「ライヴではじめてやった時には、おおよそ今のヴァージョンに近いカタチにはなってたけど、最初のデモからはだいぶ変わったよね」
サイトウ 「僕がデモを持っていったんですけど、メンバーにざっくりしたキーワードをいくつか言って、そういうやりとりの中でシンセのアルペジエーターみたいなリフをギターとエレピでやるってことになったんですよね。最初は適当にやっていったのを、モーリスと一緒に整理していったり。そういう感じで手探りで作業していって。細かい話をしていくと、スカとかクンビアもテクノ的なアプローチでやれるはずだと思ってたんですね。例えばトロピカルベースもの、それこそデジタル・クンビアとかを聴けばまさにそれですし、それに、スカやクンビアだって、もともとすごく機能的なダンス・ミュージックじゃないですか。そういうお手本みたいなのがあちこちに転がっていたので、それをYSIG的な解釈で絶対にやれるはずだっていうのを、半年ぐらいかけてやっていったんですよ。でも、さっきの話じゃないですけど、テクノの解釈は人それぞれなので(笑)、そこを上手く取捨選択していくような感じで答えを探していくような感じで、最初に出来たのがこの曲だったんです。ただ、結果ものすごい変な曲になってよかったです」
ヨシザワ 「うん、変な曲ですよね(笑)。テクノって言ってるけど、それほどテクノじゃないし……なんなんだろうね(笑)?」
サイトウ 「いや本当に(笑)。スタジオでセッションしながら思ったのは、その場で思ったり感じたりしたことはすぐ採用していった記憶があります」
──みんなのフレーズやアイディアを、ジュンくんがつまんだり繰り返させたりっていう、ある意味サンプリングしていくような感じで構成が固まっていく。生バンドを指示して、リミックスしていくような感じもありますよね。
サイトウ 「それを自宅で練るんじゃなくて、リハスタで瞬時に判断していくっていう(笑)。繰り返す回数とか、いろいろこだわったよね」
ヨシザワ 「俺のテクノの解釈だと、もうちょっとノベーッとしてていいんじゃないの? って作ってる間は強く思ってて。一方でジュンくんは、盛り上げていくような展開をしたいって思ってて。俺としては、そこで爆発するような曲展開をしないで、もっと何小節弾いたかわからないぐらいに伸ばしていいんじゃないか? とか、そういうやりとりをしながら作っていって。そんなこと言っておきながら、自分でも小節数を見失っちゃうっていう(笑)。曲の尺に関しては、かなり自由な作曲の仕方でしたね。たまたまこのタイミングで尺に収まっているっていうのはあるかもしれない」
サイトウ 「そこをまとめるのが難しかったよね。どこまでも行ってしまうほうが面白いっていうのも当然あるし。ただ、まったくの白紙からはじめてるわけではないので。これまでのバンドの歴史も関係なく、まったくの白紙で作りはじめてたら、ずーっとノベーッといってもいいなっていうのはあったんですが、このバンドでやるからには、積み重ねてきた部分も無視できないので。それもあって、あの手この手になっていったっていうところはあるんですよね。変な話、純粋にテクノがやりたかったら、一人で各々が作ったほうがいいものができるはずなんですよね。音色や鳴らし方しかり。でも、今回はバンドっていう足かせをいかに楽しめるかが大事だったっていうところかな。楽しむっていってもなかなか大変でしたけど」
──その話を聞いて思いだしたんですが、ジュンくんのDJスタイルが変化していった時に、これはバンドとは別に一人でも音源を作りはじめたりするのかなって、勝手に思ってたんですよね。
サイトウ 「メンバーそれぞれの考え方があるんで一概には言えないんですけど、特に僕に関して言えば、バンドを、自分のやりたいことを全部ここでやらせるような場所って捉えていたんですけど、今このメンバーでやれる面白いことっていうのに限定しようかなと思えるようになって。とくに前のアルバム
『B.A.N.D.』 では、みんながやりたいことをブワーッてやってたんで。あれを突き詰めると別に一緒にやらなくていいんじゃないかってことになると思うんですよ。バンドとしては。なので、もしそういうのがあったら別でやっていいんじゃないって。全部をこのバンドにやらせなくてもいいんだなって思ったんですよね……って、よそのバンドからしたら、そんなの極めてフツーのことかもしれないんですけどね(笑)。で、まあ今回全編インストにして、やれることを絞ったんです。各々がフルでやりたいことと、6人のメンバー+1人でやれる面白いことの違いっていうのがあってもいいのかなって。だから、少し楽にやれたというか、天然な感じが出しやすくなったところはありますね」
──なるほどね。
サイトウ 「ライヴでやりながら、曲がどんどん変化もしていきましたね。たとえば〈Pineapple Power〉なんかは、サビのわかりやすいコードの動きもなかったんですよ。もっとワンコードな、ひたすらリズムだけで押し通すような感じだったんですけど、やっていくうちにバンドでやる面白さを優先する揺り戻しも結構出て来て。結果として、それはアリにしちゃいましたね。やっぱりそこでコード変えるか? みたいな(笑)」
ヨシザワ 「何パターンも試したよね(笑)。コード付けすぎちゃったらダンス・ミュージック感が薄れちゃうし、とか、いろいろ葛藤がありましたね」
──でも、そのせめぎあいがなければ、別にバンドで作る必要もなかったろうし、その葛藤こそが、今回のアルバムの肝なんでしょうね。
サイトウ 「ひとりでやるんだったらまた違うんでしょうけど、みんなで演奏している時の面白い感じというか。それは前からYSIGで言ってるところですけどね。展開でもっと上げていくっていうのは、まさにそれなんだけど(笑)」
ヨシザワ 「曲の盛り上げ方のバリエーションもだいぶ研究したし。それで、最初の2曲が曲の長さと上がり方の角度が似てるところがあって。音量とか楽器の重ね方だったりとか。もうちょっとキャラを変えるなら、こういうことからはじめるとかね」
──ラストに収められた「Out」はチルアウトするようなダブで、これもYSIGにはなかったものですね。
サイトウ 「アルバム全体として、歌わせるような感じじゃない、リフやリズムで引っ張っていくような曲ばっかりやっていたんで、この〈Out〉や〈Drippin'〉っていう曲なんかは、もう少しメロディアスな曲が欲しいなってところから出てきて。〈Out〉はデモの段階から、モーリスのギターと次長のギターがすごくいいバランスでハマってたんですよね」
ヨシザワ 「でも、俺はそれが完成だとは思ってないから、次のリハの時にはすっかり忘れちゃってるんですよ。で、同じように気持ちよく弾いてたら、ジュンくんが“前のリハで弾いてたあの感じがよかったんだけど”って言われても、全然思い出せなくて、もう一度リハで録った音源を聞き直したりしてね(笑)。今回のレコーディングって、作ってる間にコードが変わるかもしれない、尺が変わるかもしれない、リズムもベースラインも変わるかもしれないっていう状況だったから、自分のフレーズも決めずにいろんなことを試していったんですよね。他のメンバーも同じような感じだったと思うけど、その中にみんなそれぞれのヒントがあって、それをジュンくんが拾っていった感じでしたね」
サイトウ 「そこに関しては相当目を光らせてたんですよ(笑)」
──モーリスくんは、数年前からギター一本のインストでライヴをやったりもしてたじゃないですか? ジョン・フェイヒーのような音響的な気持ち良さを追究する感じのサウンドでしたが、そういった活動も影響してると思いますか?
ヨシザワ 「今回はジャムって作った曲ばっかりだったんで、流れの変化に身をまかせて気持ちいい状態をそのまま弾いてみる感覚で曲作りに参加していた感じなんです。そういう部分では、たしかに共通しているかもしれないですね。ある程度はフレーズやネタを準備していくんだけど、レコーディングの時にヘッドホン聴きながら“これが完成型のアンサンブルか”って思うと、もうひとつ次の景色を見てみたいと思って、違うことを試したりね」
サイトウ 「100パーセントきっちり絵を描いて、レコーディングではそれをなぞるっていうのではなかったね。8割ぐらいの仕上がりにしておいて、残り2割をひらめきに賭けてみるっていうところはあった。だけど、それがバンドの良さかなとも思ってて。やっぱり自分では考えつかないフレーズをやってくれると最高なんですよね。〈Ultra Roll Up〉の時だと思うけど、モーリスは引き出しがたくさんあるギタリストだなっていうのが僕の印象で。アトモスフェリックなプレイが今回は比較的多いですけど、そうじゃない、もうちょっとカリビアン・ギターみたいなアプローチもよくて。それもレコーディングの時に、いくつか試してもらった中で“やっぱりそっちだな!”って選んだら、バッチリとハマって」
ヨシザワ 「〈Ultra Roll Up〉はパッと聴きスカの曲で。僕らもある程度スカはわかってるわけじゃないですか。だけど、スカをまったく知らない人がスカを聴いた時にどんな反応する? っていうようなアバウトな感覚をジュンくんが提示してきて。スカをわかってる人がスカを楽しんでるんじゃなくて、初めてスカを聴いて、ビックリするけど絶対に踊るであろう、あのリズム感覚を再現したいっていうテーマを出したんですよね」
サイトウ 「無茶苦茶言ってますよね(笑)」
──いや! でも、それはすごく面白い!
ヨシザワ 「だからスカを弾いてるんだけど、スカを弾いてるんじゃない、みたいな」
──それこそトロピカルというか、エキゾチックな価値観ですよね。
ヨシザワ 「具体的にスタイルを決めるというよりは、そういう感じのテーマで曲作りをしていくのが多かったかな」
サイトウ 「イメージだけで会話していくっていう、それは今回初でしたね(笑)」
──その話を伺って、なんとなく自分の中でつながったんですけど、今回のアルバム『OUT』を聴いていると、全編に渡ってどこか夢の中にいるような音像というか、とてもロマンチックな印象を受けたんですよね。やってる音は全然違うけど、ブラジルのトロピカリズモを連想させるような。
サイトウ 「なるほど。そう考えると、これまでの作品はノンフィクション的だったかもしれない。僕は特にそういう部分は強かったです」
ヨシザワ 「ジュンくんの、グワッと本物に肉薄していくような感覚だよね。だけど、今回はそうじゃないところにフワッといくもんだから、すごく抽象的なキーワードばっかりで(笑)」
サイトウ 「しかもノンフィクションって言いながらも、そこに辿り着けずにあがいてる感じだったのが、今回の作品では思いっきりフィクション的なアプローチに行った感じはありましたね」
ヨシザワ 「今、宣伝資料を読み返して思い出したんですけど、たしかに“宇宙の大平原でスカタライツとスペシャルズが云々”みたいなことをリハでジュンくんが言ってたんですよ。それ聞いて、たしかにわかるところもあるけど、でもわからないような(笑)。でも、そういうのをキーワードにしながら、みんなで曲作りをしてましたね」
サイトウ 「人にものごとを伝えることの難しさを、今回反省するところはあります(笑)。まあ、今までやったことないアプローチではあるよね」
ヨシザワ 「うん。わかりきったことをやるのはつまらないから。だからこそ、今回は面白かった」
サイトウ 「テクノとかハウスに対して、俺が勝手に持ってる印象なんですけど、聴いてる人が想像して楽しむ音楽だなって思ってて。リスナーにすごく委ねられてる部分が大きくて、そこが好きなところでもあったんです。自分たちの音楽でも、そういう面白さを目指したいなとは思ったんですよね。だから、曲のタイトルとかも勝手に一人歩きするような感じというか。それって、僕らがルーツ・ミュージック的な方向へ向かう前に、自分たちがやってたことなんですよね。ただ、その当時は自分でもわかってないもんだから、フワフワしていて、結局は掴みきれてなかったんですけど」
ヨシザワ 「ライヴごとにアレンジも変わっていくし、曲の長さも8分ぐらいあったしね。作る過程を楽しんでるまま、人前に出て演奏しているような」
サイトウ 「そういう面白さを、自分では上手く扱いきれなかったけど、それからいろいろやってきて、やっとわかってきた。しかも、昔のことをそのままやってるんじゃなくて、自分たちの中では最新型というか、いろいろ経験した上での、新しいアプローチを出せたんじゃないかなって思ってます」